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第5章 第2節 北の塔 ~種まき~

117.後悔するようです

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一方ゴブリンに向かっていったリナリーのパーティーを含む残りの冒険者は近づくことさえ手間取っていた。オーガを足止めしているのはリナリーからすれば高ランクの冒険者たちであり、それを抜きにキング種と戦うということは少なくても命が失われる可能性を高めることになる。しかし、それを嘆く時間はなかった。

このゴブリンキングはアーチャー種からの進化らしく、遠距離からの攻撃を得意としていることも彼女らが近づけない要因になっていた。ゴブリンは自分に近づけないようにあらゆる手段を講じてくる。近づこうとすれば矢の雨が降り、攻撃魔法を打てばハーピーに防がれる。オーガを足止め出来る時間はあまりないという思いが彼ら彼女らの思いが焦ってくることは仕方ないだろう。

中の1つのパーティーが提案する。

「俺たちが突っ込む。すまないが防御魔法をかけてくれないか。それとハーピーの魔法をなんとか逸らせて貰えればありがたい」

皆はそれに賛同した。魔法使いは飛び道具に効果の高い風の守りウインプロテクションを彼ら4人にかけ、彼らは走り出す。そして残された弓術師はゴブリンを牽制し、魔法使いたちはハーピーの行動を阻害し始める。正解の方法は誰にも分らない。彼らが選んだの方法はそれだったというだけのこと。

走り始めた一行がゴブリンキングの射程距離に入った瞬間より再び矢の雨が降る。それでも身に纏った風のおかげで矢が体に届いても防具で弾かれていく。

「もう少しで魔法の射程距離に入る。牽制してくれ。後ろの援護射撃はそろそろ届かなくなる」

リーダーがそう言った時、風の奔流が彼らの足に纏わりつき始め足の動きを止めた。そして次の瞬間、彼らの体はを舞うことになる。彼らの足元に出来た奔流はさらに激しくなり、竜巻となりその体を真上へと巻き上げたのである。そう足元に大量にある石と矢と共に・・・。

数十秒後空から大地に落ちてきたのは1羽の鳥だった。そう元ハーピーキングと言われていた人間の体と鳥の体を併せ持つそれは全身がガチガチに凍っていたのだった。そしてそれは大地に打ちつけられると同時に砕け散ったのだった。リナリーたちが呆然としているとドスンという音共に4つの土の箱が地面へと落ちていた。地面に着地したそれらはすぐにぼろぼろと崩れ、中からは空に巻き上げられた冒険者4人が出てきた。

気を失っている後衛職の2人が居たが、意識がある者が無い者をかばう形で周囲を確認するがそこには馬に跳ねられ飛んでいくゴブリンキングの姿があった。

「あれ?いちゃった・・・。まぁいいか。爆裂火エクスプロファイ

そうぼそっと馬の背に乗った人物が言った。ゴブリンが描いている放物線の頂点当たりで体は爆炎で包まれ死体すら残らず消えていった。それを確認したハジメは魔法馬から降り、木馬に戻ったパトリシアをアイテムボックスに入れる。

「・・・・何あれ・・・爆裂火エクスプロファイの火力じゃない・・・」

冒険者の1人が呟く。その人物はそれをスルーして3人の娘のような存在に近づく。

「リナリー、ヴィオラ、ティナ。良かった無事だったんだね」

彼は3人の頭を撫でる。『どうやら知り合いらしい』彼らはそう思った。


ハジメが魔法馬のパトリシアで到着した時、冒険者が空高く舞い上がっていた。どうやらハーピーの魔法で飛ばされたのだろう。そう思ったハジメはハーピーを魔法の零点振動ゼロポイント、所謂絶対零度で凍らせ、冒険者たちをマルチビーを倒した時と同じように彼らを1人1人土の箱で多い、微風リルウイン転移トランスファーで地上ギリギリまで降ろしたという訳である。その際止まるように指示してなかったのでパトリシアは走り続け、たまたまその直線上に居たゴブリンアーチャーキングを跳ねてしまった。小アルカナを使う時間稼ぎ程度に魔法を放っただけだった。ハジメ的には塔の中の敵はあれくらいの魔法は簡単に捻り潰せたのだ。その後は使用するのに時間のかかる小アルカナを使おうと思っていたのだが、それで倒せてしまった。ハジメが静かにカードを胸ポケットに仕舞ったのは内緒である。このアルカナカード、使用すると消えるのだがそれと同時にハジメの元で復活をする。多少のタイムラグはあるのだがその時間は長くても20秒程度である。復活するときに多少の魔力を持っていかれてはいるみたいだが、気になるほどではない。使い勝手はいいのだが効果発動させるまでに時間がかかるのがネックだった。それならば使。と考えてしまうのは面倒くさがりのハジメなら当然だろう。


ハジメは3人の元に走りそれぞれ本当なら抱き着きたいところだったが、それをしたらセクハラになってしまう。ハジメは3人を観察する。リナリーは浅い傷が至る所にあり、ヴィオラとティナは疲労感をたたえていた。

「ゼニー、ちょっと足止めしてきて」

と服の裾に噛みついている亀をオーガキングに向ける。

「ほんまに、亀使いが荒いわー。水流弾ウォーターブレッド

亀はやれやれと言った口調で、オーガキングの周囲の地面に魔法を当て、周囲に水が撒かれ泥状を作る。そしてオーガの足が泥にくるぶしまで沈む。

「おいしい食事を希望するで、ワイ。脱水エヴァポレーション

そこで大地に固定される。

その間にハジメはリナリーの傷に体力ポーション(真)をふりかけ、ヴィオラ、ティナには魔力ポーションを飲ませておく。

「なぁ、こいつが、お前の言ってた『旦那様』?」

リナリーのパーティーの一人であろう、戦士の男がハジメを指さしリナリーに聞いた。その瞬間、リナリーの刃が彼の首の皮一枚切って止まる。

「ロット、死にたい?」

彼女の笑顔にロットは息を呑む。

「こらこら。それよりもあの大きなのをなんとかしないと」

ハジメはそう言って、リナリーの頭を撫でた後にロットにポーションを渡しオーガの方を見る。鬼と対峙していた冒険者たちの姿はボロボロになっている。ハジメは彼らの元へと疾走していく。一瞬にして到達すると彼らにポーションを投げつける・・・・・。白い煙が上がり彼らの傷を治していく。

「・・・キサマ・・・ワシの金集めの邪魔ばかりしおって・・・。オーガキング、そいつをれ!」

キングの後ろから声が響く。豪華なマントと杖を持ったでっぷりと太った禿げ頭の中年男がそう指示を出す。鬼は咆哮を上げ地面に埋まった足を痛みを無視して引き抜きハジメに襲い掛かる。ハジメはそれを交わし、その都度攻撃を当てていくがすぐにその傷は塞がっていく。

『一気に高火力か持続的な攻撃かってところかなぁ・・・いや、色々試せるかも・・・』

ハジメはそう思う。大アルカナは発動対象に貼らなければならないがオーガのスピードなら危険なく貼れるが、冒険者たちの目がある中ではバレてしまう。ばれてしまえば根掘り葉掘り聞かれて面倒なことになるだろう。魔法で片を付けた方がいいかもしれない。ならば今まで色々考えていた魔法を実際に使ってみるのもいいかもしれない。ハヌマーンやギガントピテクスにでは使う間もなかったが、彼らよりも弱いとは言え、自己回復能力もある。そう考えハジメは邪悪な笑みを浮かべて研究者モードに突入した。

穿つ風ウインドウェア

オーガの両足の甲と大地を見えない風の槍が貫き留める。

細氷ダイヤモンドダスト

身動きが取れないオーガの周囲の気温が一気に冷え、空気中の水蒸気が凝華ぎょうか氷晶ひょうしょうする。それが一気にオーガへと降り注ぎ、氷晶に触れた箇所から徐々に凍っていく。それに伴って体の動きが緩慢になっていった。

光矢ライトアロー分裂デビジョン

数十本の光の矢がハジメの前に現れ、次々にオーガキングを襲う。オーガは叩き落そうと矢を攻撃するものの、光は触ることができないのは当たり前。オーガの体に当たる直前にその大きさが収束して次々に貫通していく。光は収束すると指向性のエネルギー兵器となる。通り過ぎた光は空中を漂っている氷晶に、再度鬼の体を貫き、それを繰り返していく。1つ1つの傷は小さいものの、四方八方から穴を開けていった。周囲の白くなった大地に赤い血は鮮明に映った。

「・・・これ、夢に出てきそう・・・・。二度と使わないようにしよう・・・・」

ハジメはこの2つの魔法のコンボの禁止を固く心に決めた。


「・・・・ねぇ、ヴィオラ・・・。あれ出来る?」

司祭のティナがハジメとオーガから目を離さず隣の魔術師に聞く。

「・・・・無理に決まってるでしょ・・・・。無詠唱の上にあんな攻撃する光矢ライトアローや氷がオーガを凍らせるなんて・・・私は知らない・・・。それに2つの高度な魔法をあんなに併用するなんて・・・・」

「2人ともあの強さが理解できる言葉を送りましょう。『旦那様だから』。そうすればすべて納得できるはずです」

2人のひきつった顔にリナリーがそう声をかける。2人は納得した顔になったのを見てロットが

「俺も大概なこと言ったけど、お前も結構酷いこと言ってるぞ?」

と3人に聞こえないように言ったのだった。男は女性に勝てないものである。


そしてその間に成金趣味の男は冒険者たちによって捉えられていた。こうしてイブの街を巻き込んだ戦いは終わりを告げた。
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