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第5章 第2節 北の塔 ~種まき~
116.圧倒的みたいです
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冒険者たちの前に生きている魔物は4体だけ。それらはキングと呼ばれる各種族のトップというべき存在のみ。
オークキングとゴブリンキングが威圧的な咆哮を上げた。それにより中級に上がっていな冒険者たちは意識を失い、残ったのは冒険者20人と私兵団の生き残り5名だけだった。その5名の中に私兵団団長のバリーも入っている。
「王に挑めるのだから良しとするかっ」
団長の肩書を失くした彼は剣を握り直した。
先ほど戦況を伝言で王都の自宅にいるハワードへ伝えたところ、
「腕が立ったのに勿体ないが、せいぜい無様に死んでくれるなよ。お前が挙げた戦果次第でワシに入ってくる金が変わる」
死んでも良いと言われた。戦場に立っている部下はもう4人しか残っていない。恐らく元主のことだ自分だけ生き残っても、「お前が死んでいたら貰える金が増えたのに」と言われ、負った怪我が命取りになったと公表し報奨金を上乗せさせ、暗殺される可能性が高い。それくらいに王弟は金にがめつい。勿論バリーもその為に何人か殺めた事もある。単に順番が自分に回って来ただけだろう。ハワード殿下にとって部下は金を生み出す鶏のようなものだろう。産まなくなったら馘るだけの存在。あわよくば高く売ろうと考える。城内に居る私兵団の中から新たな団長が決まるだろう。そして同じことが繰り返される。ただそれだけのこと。それはバリーだけでなく、生き残った部下も良く理解している。
「では、団長行きましょうか」
バリーよりも1回り以上離れたの白髪が混じった副団長がそう力強く言い団長の左肩に右手を乗せる。
「あぁ。行くとしよう」
そう言い5人で視線を合わせて頷く。
「冒険者たち、我らハワード様の私兵団がオークキングを頂くっ!」
そう言い放ち、傷つき、血と泥に塗れてしまった鎧を身に纏い答えを待たずに走り始める。それを見たオークキングとゴブリンキングはニヤリと笑みを浮かべこれを迎い撃つべく走り始める。ゴブリンは途中で立ち止まり弓矢を引き絞り私兵団目掛けて解き放つ。ゴブリンの打ち放った矢は彼らの頭上から雨の様に降り注ぎ、私兵団の走りを邪魔をする。その隙にオークがこん棒の先端に棘が突き出している鉄の珠がついてる。バリーたちはその振り上げられた武器をメイスと判断し、振り下ろされた瞬間5名は放射状に飛び、即座に回避行動をとった。しかし振り下ろされている途中でこん棒の先から鎖がするすると伸び出し、その先端についている鉄の珠が彼らの目測を狂わせ、地面に突き刺さる。それと同時に硬い土砂を360°に巻き上がらせ、私兵団を襲う。一番後ろに居た団員の1人は鉄球に直撃され、それ以外は巻き上がった土砂で体を打たれ、視界を遮られる。武器はメイスではなくモーニングスターだった。
「風の守り」
「吹き飛べ」
その魔法に弾かれて矢が地面に落ちる音がして、土埃が飛ばされ視界が広がる。こちらに向かって駆けてくる冒険者の魔法使いがゴブリンから放たれた矢を弾き視界を確保したのだろう。バリーは咄嗟に周囲の状況を確認する。私兵団員2人が矢に体を貫かれ息絶えていた。残ったのは自分と副団長を入れて3人。
バリーは2人で視線を合わせるとようやく鉄球を地面から引き上げたオークに向かって仕掛ける。団員がレイピアで刺突を掛けるがオークはそれを難なく武器の柄で上に弾きその反動を使って鎖の付いた鉄球を振り下ろす。それを副団長が剣の腹で真横に弾き、空いた胴を薙ぐ。オークは弾かれたまま体を1回転させ団員の体を鉄球で打つ。彼はバックステップで躱すが鉄球が掠った鎧はボロボロに吹き飛び、彼の鮮血が流れる。副団長は彼が躱した鉄球を真下に叩き落した。その隙に傷の痛みを無視した団員が伸びきった豚の腕に刺突をかけ、レイピアの先端が右の前腕に突き刺さる。
「がぁぁぁぁぁ」
腕というのは最も痛覚が鋭敏であることは有名であるが、それは二足歩行の魔物も同じだった。痛みのせいか自分を気づけたという怒りの為か咆哮を上げる。その時を狙ってキングの背後からバリーが攻撃を仕掛けた。
「ぶった切り」
バリーの剣が鈍く光り豚の右肩から左わき腹に掛けて剣が軌道を描き、豚の体から青い血液が周囲に飛び散り、見開かれたオークキングの瞳が憎しみに染まる。そしてキングは地面に倒れた。3人の頭に”勝利”の2文字が浮かんだ時、彼らの体は空中へと運ばれていた。バリーは風に体の自由を奪われながら、隙を作った最後の団員の体に氷の矢に幾重にも体を貫かれ息絶えるのを見、副団長の鎧も飛んでいる岩石により砕け、同じように逝ったのを確認した。恐らく彼の命ももう間もなく消えゆくだろう。不意に体がうつ伏せ状態となり、戦況が見渡せた。冒険者たちはゴブリンアーチャーとの戦闘を開始している。途中で攻撃が来なくなったのは彼らのお陰だろう。そして自分たちを屠っているモノは空に浮かび悠々と死にゆく様を眺めていた。そうして遺体を含めた5人とオークキングの遺体は激しい竜巻の中で氷の矢によってこの世から消えていった。
時は少し遡る。
バリーたちがオークキングとゴブリンキングの間合いを半分ほど詰めた頃、冒険者たちもその後を追い始めていた。途中でゴブリンが立ち止まり背中に背負っていた弓を取り出しているのが見えた冒険者集団のシーフの誰かが声を上げる。
「矢が来るっ」
その声と共に2人の魔術師が詠唱に入る。私兵団と冒険者たちはほぼ一直線上に位置していて、体の向きからはどちらをターゲットにしているのか分からない。冒険者の集団は立ち止まり、2人が飛ぶ武器に対して効果の高い風の守りを、私兵団と自分たちをターゲットに魔法を展開していく。その間にオークキングは土埃を上げ私兵団の視界を妨げた。その瞬間を狙ってゴブリンが矢を放つのが見える。自分たちの防御魔法を解除し、冒険者集団は1つのパーティーを残してゴブリンに向かって突き進む。残ったパーティーの魔法使いが視界を解放させるため風で土埃を明後日の方向へ流した。そしてその仲間たちも小鬼へ向かって再度走り始めた。
それから数十秒後、先頭を行っていた冒険者たちが間合いに入ろうとした時、オーガキングが立ちふさがる。彼らは2つのパーティーで鬼と戦い始め、その後に到着した冒険者たちは小鬼へ向かった。彼らの作戦はオーガを足止めし、ゴブリンを倒した後引き返しオーガを倒すというものだった。オーガは高い自己治癒力を持つため、一気に高火力で仕留めなければならない。しかしアーチャーが居る限り倒しきるのは難しい。瀕死の深手を負わせても10分もあれば治りきってしまうのである。
幸いなことにオーガは魔法は使わない。更に空に居るハーピーは魔法を使う様子は見られない。2つのパーティーが防御に専念すればなんとか力を温存しつつ時間を稼ぐ事は出来るのだ。
「神は言われた『私があなたたちのために”使いたち”に命じてあなたたちのすべての道であなたたちを守る』と。聖なる守り」
防御魔法がオーガと対峙する10人を包み、オーガの足止め作戦が行われることになった。オーガは金砕棒を振り回し10人の冒険者とにらみ合う。横を抜けゴブリンに向かう者たちは止めないようだった。
「馬鹿にしてくれる」
その対応に吐き捨てるように1人の冒険者が言った言葉を鬼は鼻で笑った。
「・・・マイル」
人語を話した鬼が冒険者たち相手に立ち回りを始めた。魔法使いが<風刃>を飛ばすが鬼は金砕棒で砕き、範囲魔法である爆裂火は肌を焼くことが出来たがすぐに再生してしまう。
「・・・ナントモゼイジャク」
撃ち放った矢は皮膚に刺さらず、戦士たちの攻撃も浅く皮膚を傷つけるがすぐに回復してしまう。冒険者たちはオーガと戦いながら折れてしまいそうな自分の心と闘うことになったのだった。
オークキングとゴブリンキングが威圧的な咆哮を上げた。それにより中級に上がっていな冒険者たちは意識を失い、残ったのは冒険者20人と私兵団の生き残り5名だけだった。その5名の中に私兵団団長のバリーも入っている。
「王に挑めるのだから良しとするかっ」
団長の肩書を失くした彼は剣を握り直した。
先ほど戦況を伝言で王都の自宅にいるハワードへ伝えたところ、
「腕が立ったのに勿体ないが、せいぜい無様に死んでくれるなよ。お前が挙げた戦果次第でワシに入ってくる金が変わる」
死んでも良いと言われた。戦場に立っている部下はもう4人しか残っていない。恐らく元主のことだ自分だけ生き残っても、「お前が死んでいたら貰える金が増えたのに」と言われ、負った怪我が命取りになったと公表し報奨金を上乗せさせ、暗殺される可能性が高い。それくらいに王弟は金にがめつい。勿論バリーもその為に何人か殺めた事もある。単に順番が自分に回って来ただけだろう。ハワード殿下にとって部下は金を生み出す鶏のようなものだろう。産まなくなったら馘るだけの存在。あわよくば高く売ろうと考える。城内に居る私兵団の中から新たな団長が決まるだろう。そして同じことが繰り返される。ただそれだけのこと。それはバリーだけでなく、生き残った部下も良く理解している。
「では、団長行きましょうか」
バリーよりも1回り以上離れたの白髪が混じった副団長がそう力強く言い団長の左肩に右手を乗せる。
「あぁ。行くとしよう」
そう言い5人で視線を合わせて頷く。
「冒険者たち、我らハワード様の私兵団がオークキングを頂くっ!」
そう言い放ち、傷つき、血と泥に塗れてしまった鎧を身に纏い答えを待たずに走り始める。それを見たオークキングとゴブリンキングはニヤリと笑みを浮かべこれを迎い撃つべく走り始める。ゴブリンは途中で立ち止まり弓矢を引き絞り私兵団目掛けて解き放つ。ゴブリンの打ち放った矢は彼らの頭上から雨の様に降り注ぎ、私兵団の走りを邪魔をする。その隙にオークがこん棒の先端に棘が突き出している鉄の珠がついてる。バリーたちはその振り上げられた武器をメイスと判断し、振り下ろされた瞬間5名は放射状に飛び、即座に回避行動をとった。しかし振り下ろされている途中でこん棒の先から鎖がするすると伸び出し、その先端についている鉄の珠が彼らの目測を狂わせ、地面に突き刺さる。それと同時に硬い土砂を360°に巻き上がらせ、私兵団を襲う。一番後ろに居た団員の1人は鉄球に直撃され、それ以外は巻き上がった土砂で体を打たれ、視界を遮られる。武器はメイスではなくモーニングスターだった。
「風の守り」
「吹き飛べ」
その魔法に弾かれて矢が地面に落ちる音がして、土埃が飛ばされ視界が広がる。こちらに向かって駆けてくる冒険者の魔法使いがゴブリンから放たれた矢を弾き視界を確保したのだろう。バリーは咄嗟に周囲の状況を確認する。私兵団員2人が矢に体を貫かれ息絶えていた。残ったのは自分と副団長を入れて3人。
バリーは2人で視線を合わせるとようやく鉄球を地面から引き上げたオークに向かって仕掛ける。団員がレイピアで刺突を掛けるがオークはそれを難なく武器の柄で上に弾きその反動を使って鎖の付いた鉄球を振り下ろす。それを副団長が剣の腹で真横に弾き、空いた胴を薙ぐ。オークは弾かれたまま体を1回転させ団員の体を鉄球で打つ。彼はバックステップで躱すが鉄球が掠った鎧はボロボロに吹き飛び、彼の鮮血が流れる。副団長は彼が躱した鉄球を真下に叩き落した。その隙に傷の痛みを無視した団員が伸びきった豚の腕に刺突をかけ、レイピアの先端が右の前腕に突き刺さる。
「がぁぁぁぁぁ」
腕というのは最も痛覚が鋭敏であることは有名であるが、それは二足歩行の魔物も同じだった。痛みのせいか自分を気づけたという怒りの為か咆哮を上げる。その時を狙ってキングの背後からバリーが攻撃を仕掛けた。
「ぶった切り」
バリーの剣が鈍く光り豚の右肩から左わき腹に掛けて剣が軌道を描き、豚の体から青い血液が周囲に飛び散り、見開かれたオークキングの瞳が憎しみに染まる。そしてキングは地面に倒れた。3人の頭に”勝利”の2文字が浮かんだ時、彼らの体は空中へと運ばれていた。バリーは風に体の自由を奪われながら、隙を作った最後の団員の体に氷の矢に幾重にも体を貫かれ息絶えるのを見、副団長の鎧も飛んでいる岩石により砕け、同じように逝ったのを確認した。恐らく彼の命ももう間もなく消えゆくだろう。不意に体がうつ伏せ状態となり、戦況が見渡せた。冒険者たちはゴブリンアーチャーとの戦闘を開始している。途中で攻撃が来なくなったのは彼らのお陰だろう。そして自分たちを屠っているモノは空に浮かび悠々と死にゆく様を眺めていた。そうして遺体を含めた5人とオークキングの遺体は激しい竜巻の中で氷の矢によってこの世から消えていった。
時は少し遡る。
バリーたちがオークキングとゴブリンキングの間合いを半分ほど詰めた頃、冒険者たちもその後を追い始めていた。途中でゴブリンが立ち止まり背中に背負っていた弓を取り出しているのが見えた冒険者集団のシーフの誰かが声を上げる。
「矢が来るっ」
その声と共に2人の魔術師が詠唱に入る。私兵団と冒険者たちはほぼ一直線上に位置していて、体の向きからはどちらをターゲットにしているのか分からない。冒険者の集団は立ち止まり、2人が飛ぶ武器に対して効果の高い風の守りを、私兵団と自分たちをターゲットに魔法を展開していく。その間にオークキングは土埃を上げ私兵団の視界を妨げた。その瞬間を狙ってゴブリンが矢を放つのが見える。自分たちの防御魔法を解除し、冒険者集団は1つのパーティーを残してゴブリンに向かって突き進む。残ったパーティーの魔法使いが視界を解放させるため風で土埃を明後日の方向へ流した。そしてその仲間たちも小鬼へ向かって再度走り始めた。
それから数十秒後、先頭を行っていた冒険者たちが間合いに入ろうとした時、オーガキングが立ちふさがる。彼らは2つのパーティーで鬼と戦い始め、その後に到着した冒険者たちは小鬼へ向かった。彼らの作戦はオーガを足止めし、ゴブリンを倒した後引き返しオーガを倒すというものだった。オーガは高い自己治癒力を持つため、一気に高火力で仕留めなければならない。しかしアーチャーが居る限り倒しきるのは難しい。瀕死の深手を負わせても10分もあれば治りきってしまうのである。
幸いなことにオーガは魔法は使わない。更に空に居るハーピーは魔法を使う様子は見られない。2つのパーティーが防御に専念すればなんとか力を温存しつつ時間を稼ぐ事は出来るのだ。
「神は言われた『私があなたたちのために”使いたち”に命じてあなたたちのすべての道であなたたちを守る』と。聖なる守り」
防御魔法がオーガと対峙する10人を包み、オーガの足止め作戦が行われることになった。オーガは金砕棒を振り回し10人の冒険者とにらみ合う。横を抜けゴブリンに向かう者たちは止めないようだった。
「馬鹿にしてくれる」
その対応に吐き捨てるように1人の冒険者が言った言葉を鬼は鼻で笑った。
「・・・マイル」
人語を話した鬼が冒険者たち相手に立ち回りを始めた。魔法使いが<風刃>を飛ばすが鬼は金砕棒で砕き、範囲魔法である爆裂火は肌を焼くことが出来たがすぐに再生してしまう。
「・・・ナントモゼイジャク」
撃ち放った矢は皮膚に刺さらず、戦士たちの攻撃も浅く皮膚を傷つけるがすぐに回復してしまう。冒険者たちはオーガと戦いながら折れてしまいそうな自分の心と闘うことになったのだった。
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