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第5章 第2節 北の塔 ~種まき~
114.戦いが始まるみたいです
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「僕?」
少年が考え込むように言う。
「・・・主、言わなくても良いです」
赤い鳥の紅が呆れたように言う。少年が契約した者を振り返った時、
「ぐっは」
「ぐえっ」
とカエルの鳴き声のような声を出して軽鎧の男とローブの男が倒れた。
「主」
白虎が少年を呼ぶ。少年は恥ずかしいのか怒っているのか顔を真っ赤にしてそれぞれの首からカードを抜き取る。
「ハク、紅、授与」
カードがそれぞれの体に溶けていく。
「集めるものとカラスはもう少し後でだね」
少年がイブの街の方向を見てそう呟いた。
「えぇ。『目覚めの戦』が起きなければならないですから」
~イブの街~
「さてさて、始めますかな」
薄くなった頭に手をやり椅子から立ち上がる。後ろにはためく筈のマントは装飾された宝石の重さの為か風が吹いてもその場に在り続けた。右手に持ったダイアモンドが先端にある杖で真直ぐにイブの街を差す。
「行け、我が集めしモノたちよ。全てを壊せ」
軍隊化した魔物は人工物を壊さんと街を襲い始める。
ゴブリンが街目掛けて走り始め、それを見た冒険者、私兵団も迎え撃つため駆け出す。先頭が戦いにその身を投じようとしたとき、人間の先頭集団の中央で炎の球体が爆ぜた。多くの悲鳴と共に一気に爆風が走っていた冒険者たちを背後から押す。その瞬間、ゴブリンたちから矢の雨が降り注ぎ、多くの者たちが倒れていく。それを見て頭2つ分大きいオークが雄たけびを上げると進軍が始まった。
「神は言われた『正しき者は七度倒れても、再び起き上がる』と。神の使徒たる我が祈りよ、苦しむ人々を救い給え。回復、分裂」
暖かい光が彼女の周囲に降り注ぐと倒れた人々の傷が消えていく。
「風の刃よ。その命を狩れ。風刃、巨大化」
大きな風の刃が魔物に向かって飛んでいきゴブリンとオークを20体程屠った。そしてその空いた空間に剣士が飛び込み剣を振い、シーフの女性が2つの刃で打ち漏らしたモノと止めが必要なモノを確実に殺り、屍の絨毯を築いていく。その間に助祭は神に捧げる祈りの詞を綴る。
「神は言われた『私があなたたちのために”使いたち”に命じてあなたたちのすべての道であなたたちを守る』と。聖なる守り」
白い魔力が戦士とシーフを包み込むと魔物たちから受ける傷が小さくなった。
「ティナ、助かるっ。リナリー行くぜー」
戦士が吼える。この世界の前衛職は剣の衝撃波を飛ばしたりなどの中距離攻撃は職業レベルが4以上にならなければ使えず、3レベルまでは力や体力、耐久が上昇する所謂身体強化のスキルを取得する。従って一般的なレベルの彼はダイレクトに攻撃をする方法しかなく、パーティーでは肉壁になることが多い。しかし彼らが倒れてしまえば魔術師などはひとたまりもないので回復役は彼らのダメージをコントロールしておく必要がある。
「ロット、あんまり離れるとティナの魔法届かなくなるよ」
リナリーが言う。そう魔法にも射程距離は存在し、遠くなればなるほどその威力は弱くなるのだ。ましてこのような混戦状態ならば肉壁が離れしまえばダメージディーラーは簡単にその命を落としてしまう。なので一般的な戦闘は、陣形を維持しつつ敵をおびき寄せるのである。その為に弓使いが1名は要るのが定番だった。
「凍える雪よ。凍てつく風よ。汝らの力を用て我が前に存在せし敵を氷の棺に閉じ込めよ。我が魔力を贄に捧げる・・・・」
魔術師は魔力を溜めていく。その間に戦士とシーフは司祭と魔術師の側まで戻ってくる。その背後からゴブリンとオーク、オーガが追いかけてくる。戦士は剣を構え、リナリーはウエストポーチから破裂丸(改)を取り出す。
「ロット、私を上に飛ばして」
と彼女が言うとロットは腰を落とし両手を組む。戦士がバレーボールのレシーブのような姿勢を取るとダッシュしてきたリナリーがその手に足を掛けた瞬間
「うりゃぁぁぁぁ」
と叫びながらリナリーを空へ運ぶ。優に5mは超えただろう。リナリーはそこから敵の中に破裂丸(改)を3つ投擲した。地面に落ちた瞬間、それは針を四方八方にまき散らした。彼女が地面に着地するとロットが
「おいおい、なんだよあれ・・・・」
切った魔物を蹴りながら戦士がリナリーに言う。
「んー。旦那様の作った道具なんだけど、落ちた周囲に鉄の針を打ち出すのよ」
「吹雪!」
魔術師ヴィオラの魔法で吹雪が生み出され、司祭ティナも再度聖なる守りを2人に掛けなおした。
「後で教えろよな」
「それは無理ね。だって旦那様の事ですもの」
ロットとリナリーはそう言いながら再度戦いに身を投じていくのだった。補足しておくが、ヴィオラやティナの様に魔法を使うとなると呪文が必要である。その呪文自体はそんなに長くないのだが、難しい魔法は魔力を溜める時間が必要になる。そのため個人差はあるが、ハジメの様に魔法名のみで次々に発動させることは出来ない。ビィオラとティナの名誉のために言っておくが、成人の儀を行い数か月でここまでの魔法を発動させていることは驚嘆に値すべきである。
弓使い達はハーピーの羽を攻撃し、大地に落ちたモノはゴブリンやオーガ、オークと同じように息の根を止められていく。勿論、冒険者たちもその命を落として逝った。それでもポーションにより繋ぎ止められた命はそれなりにあった。
~北城門 街側~
扉を隔てた向こう側では命のやり取りが行われ、怒号や悲鳴が静かな街に響き、錆びた鉄の匂いが漂っている。城門内側にはハワードの私兵団の一部が配置されており、万が一に備えられていた。
冒険者ギルド長のセバスチャンはそこで指揮を執っており、城門外では副ギルド長が采配を振るっている。本来はギルド長が行う予定だったが、城門を破られ混乱が生じた時に誰が指揮するのかと副ギルド長に言われ、城門内に位置していた。
「セバスチャン様っ、お待たせしました」
「おぉ。ベスパ殿。貴方が持ってきたのですか・・・・?」
戸惑いながらセバスチャンが言うと彼女は
「えぇ。ギルドの方はエヴァ様が指揮を執っています。この街の命運を分ける時こそ上が動くべきと自分が行くというのでぶん殴って私が来ました」
うふふと微笑んでいるベスパに思わずため息を漏らす。
「・・・本当にこの街の副ギルド長は怖い人物ばかりだ・・・」
その短いやり取りの間にも荷馬車からポーションを下ろされていく。
「酷いですねぇ。まぁ、これでこの街にあるポーション全てです。体力ポーションが1万、魔力ポーションが5000。ただハジメさんのポーションではないので、その効果は落ちます」
「・・・ベスパ殿。これだけあれば助かる命がありますよ」
と不器用に笑う。
「さ、避難してください。これを前線に届けなければなりません。扉が開いている間ここは危険になります」
ベスパを急かし商業ギルドへ返した後気を引き締めた彼は城門を開けるよう指示する。
「副ギルド長たちにばかりいい恰好はさせられませんね」
~町役場~
「おじい様・・・。町長とはこんなにも無力なのでしょうか・・・」
眼下で繰り広げられる命の強奪から目を逸らせずにいたウォールが領主のフラップに問う。
「ウォール・・・。町長や領主、商いはの、戦いのない時に戦うものなんじゃ。だからこそ我らは人の屍の上に立つ存在じゃということを忘れてはならぬ・・・。我らは民を生かしているのではないのじゃ、我らが生かされておるのじゃ。じゃから民にその利益を全て還元せねばならぬ。目を背けず、逝ってしまわれた人々の顔を我らは忘れてはならぬ。彼らの為に平和を作り上げることこそが長になることを選んだ我らの使命・・・」
フラップは戦いから目を逸らさずにウォールの頭に手を置いた。
万が一城門を突破されれば次に戦場となるのは役場になるだろう。領主の館はイブの街の中でも南の小高い丘の上に立っている。この中央広場で食い止めなければこの街は終わる。ならば領主としてここで果てようという思いからここに居るのだった。
少年が考え込むように言う。
「・・・主、言わなくても良いです」
赤い鳥の紅が呆れたように言う。少年が契約した者を振り返った時、
「ぐっは」
「ぐえっ」
とカエルの鳴き声のような声を出して軽鎧の男とローブの男が倒れた。
「主」
白虎が少年を呼ぶ。少年は恥ずかしいのか怒っているのか顔を真っ赤にしてそれぞれの首からカードを抜き取る。
「ハク、紅、授与」
カードがそれぞれの体に溶けていく。
「集めるものとカラスはもう少し後でだね」
少年がイブの街の方向を見てそう呟いた。
「えぇ。『目覚めの戦』が起きなければならないですから」
~イブの街~
「さてさて、始めますかな」
薄くなった頭に手をやり椅子から立ち上がる。後ろにはためく筈のマントは装飾された宝石の重さの為か風が吹いてもその場に在り続けた。右手に持ったダイアモンドが先端にある杖で真直ぐにイブの街を差す。
「行け、我が集めしモノたちよ。全てを壊せ」
軍隊化した魔物は人工物を壊さんと街を襲い始める。
ゴブリンが街目掛けて走り始め、それを見た冒険者、私兵団も迎え撃つため駆け出す。先頭が戦いにその身を投じようとしたとき、人間の先頭集団の中央で炎の球体が爆ぜた。多くの悲鳴と共に一気に爆風が走っていた冒険者たちを背後から押す。その瞬間、ゴブリンたちから矢の雨が降り注ぎ、多くの者たちが倒れていく。それを見て頭2つ分大きいオークが雄たけびを上げると進軍が始まった。
「神は言われた『正しき者は七度倒れても、再び起き上がる』と。神の使徒たる我が祈りよ、苦しむ人々を救い給え。回復、分裂」
暖かい光が彼女の周囲に降り注ぐと倒れた人々の傷が消えていく。
「風の刃よ。その命を狩れ。風刃、巨大化」
大きな風の刃が魔物に向かって飛んでいきゴブリンとオークを20体程屠った。そしてその空いた空間に剣士が飛び込み剣を振い、シーフの女性が2つの刃で打ち漏らしたモノと止めが必要なモノを確実に殺り、屍の絨毯を築いていく。その間に助祭は神に捧げる祈りの詞を綴る。
「神は言われた『私があなたたちのために”使いたち”に命じてあなたたちのすべての道であなたたちを守る』と。聖なる守り」
白い魔力が戦士とシーフを包み込むと魔物たちから受ける傷が小さくなった。
「ティナ、助かるっ。リナリー行くぜー」
戦士が吼える。この世界の前衛職は剣の衝撃波を飛ばしたりなどの中距離攻撃は職業レベルが4以上にならなければ使えず、3レベルまでは力や体力、耐久が上昇する所謂身体強化のスキルを取得する。従って一般的なレベルの彼はダイレクトに攻撃をする方法しかなく、パーティーでは肉壁になることが多い。しかし彼らが倒れてしまえば魔術師などはひとたまりもないので回復役は彼らのダメージをコントロールしておく必要がある。
「ロット、あんまり離れるとティナの魔法届かなくなるよ」
リナリーが言う。そう魔法にも射程距離は存在し、遠くなればなるほどその威力は弱くなるのだ。ましてこのような混戦状態ならば肉壁が離れしまえばダメージディーラーは簡単にその命を落としてしまう。なので一般的な戦闘は、陣形を維持しつつ敵をおびき寄せるのである。その為に弓使いが1名は要るのが定番だった。
「凍える雪よ。凍てつく風よ。汝らの力を用て我が前に存在せし敵を氷の棺に閉じ込めよ。我が魔力を贄に捧げる・・・・」
魔術師は魔力を溜めていく。その間に戦士とシーフは司祭と魔術師の側まで戻ってくる。その背後からゴブリンとオーク、オーガが追いかけてくる。戦士は剣を構え、リナリーはウエストポーチから破裂丸(改)を取り出す。
「ロット、私を上に飛ばして」
と彼女が言うとロットは腰を落とし両手を組む。戦士がバレーボールのレシーブのような姿勢を取るとダッシュしてきたリナリーがその手に足を掛けた瞬間
「うりゃぁぁぁぁ」
と叫びながらリナリーを空へ運ぶ。優に5mは超えただろう。リナリーはそこから敵の中に破裂丸(改)を3つ投擲した。地面に落ちた瞬間、それは針を四方八方にまき散らした。彼女が地面に着地するとロットが
「おいおい、なんだよあれ・・・・」
切った魔物を蹴りながら戦士がリナリーに言う。
「んー。旦那様の作った道具なんだけど、落ちた周囲に鉄の針を打ち出すのよ」
「吹雪!」
魔術師ヴィオラの魔法で吹雪が生み出され、司祭ティナも再度聖なる守りを2人に掛けなおした。
「後で教えろよな」
「それは無理ね。だって旦那様の事ですもの」
ロットとリナリーはそう言いながら再度戦いに身を投じていくのだった。補足しておくが、ヴィオラやティナの様に魔法を使うとなると呪文が必要である。その呪文自体はそんなに長くないのだが、難しい魔法は魔力を溜める時間が必要になる。そのため個人差はあるが、ハジメの様に魔法名のみで次々に発動させることは出来ない。ビィオラとティナの名誉のために言っておくが、成人の儀を行い数か月でここまでの魔法を発動させていることは驚嘆に値すべきである。
弓使い達はハーピーの羽を攻撃し、大地に落ちたモノはゴブリンやオーガ、オークと同じように息の根を止められていく。勿論、冒険者たちもその命を落として逝った。それでもポーションにより繋ぎ止められた命はそれなりにあった。
~北城門 街側~
扉を隔てた向こう側では命のやり取りが行われ、怒号や悲鳴が静かな街に響き、錆びた鉄の匂いが漂っている。城門内側にはハワードの私兵団の一部が配置されており、万が一に備えられていた。
冒険者ギルド長のセバスチャンはそこで指揮を執っており、城門外では副ギルド長が采配を振るっている。本来はギルド長が行う予定だったが、城門を破られ混乱が生じた時に誰が指揮するのかと副ギルド長に言われ、城門内に位置していた。
「セバスチャン様っ、お待たせしました」
「おぉ。ベスパ殿。貴方が持ってきたのですか・・・・?」
戸惑いながらセバスチャンが言うと彼女は
「えぇ。ギルドの方はエヴァ様が指揮を執っています。この街の命運を分ける時こそ上が動くべきと自分が行くというのでぶん殴って私が来ました」
うふふと微笑んでいるベスパに思わずため息を漏らす。
「・・・本当にこの街の副ギルド長は怖い人物ばかりだ・・・」
その短いやり取りの間にも荷馬車からポーションを下ろされていく。
「酷いですねぇ。まぁ、これでこの街にあるポーション全てです。体力ポーションが1万、魔力ポーションが5000。ただハジメさんのポーションではないので、その効果は落ちます」
「・・・ベスパ殿。これだけあれば助かる命がありますよ」
と不器用に笑う。
「さ、避難してください。これを前線に届けなければなりません。扉が開いている間ここは危険になります」
ベスパを急かし商業ギルドへ返した後気を引き締めた彼は城門を開けるよう指示する。
「副ギルド長たちにばかりいい恰好はさせられませんね」
~町役場~
「おじい様・・・。町長とはこんなにも無力なのでしょうか・・・」
眼下で繰り広げられる命の強奪から目を逸らせずにいたウォールが領主のフラップに問う。
「ウォール・・・。町長や領主、商いはの、戦いのない時に戦うものなんじゃ。だからこそ我らは人の屍の上に立つ存在じゃということを忘れてはならぬ・・・。我らは民を生かしているのではないのじゃ、我らが生かされておるのじゃ。じゃから民にその利益を全て還元せねばならぬ。目を背けず、逝ってしまわれた人々の顔を我らは忘れてはならぬ。彼らの為に平和を作り上げることこそが長になることを選んだ我らの使命・・・」
フラップは戦いから目を逸らさずにウォールの頭に手を置いた。
万が一城門を突破されれば次に戦場となるのは役場になるだろう。領主の館はイブの街の中でも南の小高い丘の上に立っている。この中央広場で食い止めなければこの街は終わる。ならば領主としてここで果てようという思いからここに居るのだった。
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