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第5章 第1節 東の塔 ~耕す~
103.旅立つみたいです
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盾と剣に罅が入ったのを見るとすぐに風刃に刺突を与えて放つ。それを防ぐために盾を構えたが風の魔法が当たると粉々に砕けた。そしてそれはハヌマーンの顔面を捉えたのだった。初のヒットであった。
金属はある温度から急激に冷やされた時、その温度差が大きければ大きいほど壊れやすくなるのだ。これは金属の熱による膨張が大きければより簡単になるのだ。やはり定番と言われる異世界あるあるは非常に有効なのである。逆に言えば有効だからこそ定番なのだ。
ハヌマーンは怒り狂ってますと言わんばかりの咆哮を1つ挙げる。これはハジメが遊び道具から敵になった瞬間だった。それ以降無手の8対の腕がランダムに襲ってくるようになり、ハジメはなんとかぎりぎりで防御魔法で防いでいるのだが、いかんせんこれは部分的なシールドであり、攻撃が地面に当たって下から吹き上げてくる石などのダメージは防げない。1回の攻撃を完全に防ぐことは出来ず、インパクトの瞬間回避行動をとらなければならない。なんとかクリーンヒットはしていないのだが、ハジメの肌は浅くではあるのだが傷がついていく。勿論装備も既にぼろぼろとなっていて、壊れ始めた頃は邪魔だと思っていたが、既に防具は消失している。息つく暇はないというのはこうゆう事だろう。
ハヌマーンの拳が地面に炸裂した風圧を利用して間合いを取ろうとするとそれを狙って別の手が襲ってくる。戦いで空中に逃げるのが悪手とされていることに納得してしまう。どこかの英雄や勇者のように相手の力を利用して間合いを取るなんことは出来ない。
そんなことを考えていると、遂にハジメの体を猿の1本の腕が捕らえた。ハジメは10mほど飛ばされ、それを見た猿はニヤリと笑いながら追い打ちを掛けるために疾走して向かっている。
『お・・・ま・・の・・・い・・・・・・・・を』
不意に脳裏に声のようなものが聞こえ、ハジメの目の前に刃渡り60㎝ほどの1本の木の剣、いや包丁と言った方がいいような代物が4つの色に薄く光りながらハジメの目の前に現れる。彼はその柄を握ると、猿目掛けて投げつける。ヤケクソ気味であるようにしか傍から見たら思えるだろう。
その投げられた包丁は右に弧を描きハヌマーンの右手2本を切り落とし、ハジメの手元へ戻ってくる。
「・・・なんだ、これ・・・」
痛みに叫んでいる猿を目の端に置きつつ、そう呟きはしたが使えるものを使う主義である。今度は残った右手を狙い再度投げつける。それは再び弧を描きながら残った右手2本を切り取りハジメの手へと戻ってきた。
ハジメは剣なんか振った経験など片手で充分に足りるくらいであり、彼が神様からもらったスキルは【道具投擲】である。ここまでの成果を出すということはこれは剣ではなく包丁という料理道具になる。
ハジメを追い詰めていた強者ハヌマーンは少なくても右手での攻撃は出来なくなった。ハジメは包丁片手に左周りで背後に回ろうとする。猿の左手がハジメを襲い、回避された拳は地面に突き刺さり、土砂を巻き上げる。その一瞬でハジメは背中に回り、1枚のカードを貼った。
「終わりの始まり、塔 、崩壊」
ハヌマーンは全身を雷で打たれたかのように体を硬直し、4つの顔が頭頂部から光の粒子となって消えていく。この塔で死んだ魔物は光となってそこには10cm四方の木製の馬の置物が1つ残っていた。
バヤール:魔法の馬。騎乗する人数に応じた体の大きさを取り、その速度は主の魔力に比例する。召喚は『コール』、返還は『リターン』
どうやら馬と安馬さんという繋がりらしい。因みに日光東照宮の厩の長押に三猿が彫刻されているように、猿は馬の守護神とされている。なぜに安馬さんなのかは分からないが、『安全に馬が育成できますように』と言う意味なのかもしれない。ハジメはアイテムボックスにそれを仕舞ったが、他のドロップ品はなかった。
【ハヌマーンの消滅を確認。ステージ5クリア。宝箱1つを解放します。頂上への階段が解放されます】
宝箱から出たのは糸だった。それをアイテムボックスに仕舞うとこの階の中心辺りから階段が上に向かって伸びていった。
塔の天辺へ続く階段は今までの倍ほどのあるようだった。そしてハジメは頂上に着く。そこでは舞が静かに佇んでいる。
「・・・・舞・・なの・・?」
ハジメが戸惑うのも仕方ないだろう。その姿は今までの人間の様ではなく、背中から薄緑色がかった羽が4枚伸び、顔つきも少女というよりも女性を強く意識させるようになっていた。身長も177cmのハジメより少し低いくらいまで成長し、纏っている衣もグリーンのワンピース姿でシンプルで、体は床から30㎝ほど浮いている。しかしその瞳には感情はないようだった。
「・・・ハジメさん・・・」
不意に声が聞こえる。舞の変わり具合に驚いていて、他の人物に気づかなかったようだ。視線を送ると舞の横に同じような恰好をした一人の老婆が立っていた。
「私は、風の最上位精霊シルフィードと申します」
と頭を下げる。
「属性王・・・・」
精霊王ユドルの下に各属性の王が配置されているのである。ハジメは勝手に精霊は若くて美しいと思っていた。精霊王のユドルは最初から老人であったが、目の前にいる属性王よりも遥かに若かった。
「ハジメさん・・・。私たち属性王と呼ばれる4属性の精霊は、この世界の生活の火・生命の水・育む大地、変化を運ぶ風を有らしめる役割を追っていました。それとは別にこの世界に世界樹が生まれるまでその役割を果たしてきました。しかし・・・・。しかし、もう間もなくその存在が尽きます」
姿形は老婆のようであったが、その声は透き通った、若々しい声だった。
「・・・シルフィード様たちが、消える?」
ハジメの頭には考えなくないことが浮かぶ。何度否定しようともその考えが頭を支配する。この塔に登ったのは神の依頼だったから、上るの大変だろうと覚悟はしていたが、シルフィードが言いたいであろう覚悟はしていない。
「・・・・そうです。貴方が今思ってらっしゃる通りです・・・・。本当に、本当にごめんなさい」
彼女は頭を下げたあとハジメを見つめる頬に涙の跡が残っている。ハジメはその姿に何も言えなくなった。
「・・・舞は・・・、舞は承諾をしたのですか・・・・?」
「・・・えぇ。別れたくないと言っておりましたが、ある条件を付けて納得してくれました・・・」
本人が納得したのであれば、当事者でないハジメは受け入れることしかできない。辛いが一番は当事者である舞だろう。優しい属性王のシルフィードも心苦しかったのだろう。だから今泣いている。
「ハジメさん。属性はこの世界に存在るすべてのモノに平等でなければなりません・・・・。誰か1人を優遇することは出来ません・・・」
あぁ、風の属性王の言いたいことが、舞の付けた条件が分かったしまった・・・。
「新たな風の最上位精霊『舞』から役割を受ける代わりの条件は・・・、自分を知っている人物の舞に関する記憶を消すこと。それと、自身の記憶も100年の間消すこと・・・です」
「・・・そうですか・・・」
ハジメは舞を見る。彼女の瞳はまだ虚ろのまま。
「・・・もう間もなく舞が新たな属性王として目覚めます。貴方から家族である精霊を奪ってしまう私たちを恨んでください・・・」
シルフィードがそう言うと、舞はスーッと空へ上がって行った。その姿がハジメには見えなくなると、空から一陣の新しい風がハジメをすり抜けていった。
「新しい属性王が生まれのじゃ」
ふとその声の主に視線を落とすと精霊王ユドルがシルフィードを抱き抱えて立っていた。シルフィードはユドルに向かって頷くとその姿が消えた。
「・・・約束は守ろうて・・・」
ユドルが静かに言うと、杖を掲げる。その瞬間ハジメを軽い眩暈が襲い目を閉じる。そしてすぐにそれは収まり目を開けた。
「・・・あれ?ユドルさん。どうしたんですか、こんなところで」
いつもの調子でハジメがユドルに話し掛けていた。
金属はある温度から急激に冷やされた時、その温度差が大きければ大きいほど壊れやすくなるのだ。これは金属の熱による膨張が大きければより簡単になるのだ。やはり定番と言われる異世界あるあるは非常に有効なのである。逆に言えば有効だからこそ定番なのだ。
ハヌマーンは怒り狂ってますと言わんばかりの咆哮を1つ挙げる。これはハジメが遊び道具から敵になった瞬間だった。それ以降無手の8対の腕がランダムに襲ってくるようになり、ハジメはなんとかぎりぎりで防御魔法で防いでいるのだが、いかんせんこれは部分的なシールドであり、攻撃が地面に当たって下から吹き上げてくる石などのダメージは防げない。1回の攻撃を完全に防ぐことは出来ず、インパクトの瞬間回避行動をとらなければならない。なんとかクリーンヒットはしていないのだが、ハジメの肌は浅くではあるのだが傷がついていく。勿論装備も既にぼろぼろとなっていて、壊れ始めた頃は邪魔だと思っていたが、既に防具は消失している。息つく暇はないというのはこうゆう事だろう。
ハヌマーンの拳が地面に炸裂した風圧を利用して間合いを取ろうとするとそれを狙って別の手が襲ってくる。戦いで空中に逃げるのが悪手とされていることに納得してしまう。どこかの英雄や勇者のように相手の力を利用して間合いを取るなんことは出来ない。
そんなことを考えていると、遂にハジメの体を猿の1本の腕が捕らえた。ハジメは10mほど飛ばされ、それを見た猿はニヤリと笑いながら追い打ちを掛けるために疾走して向かっている。
『お・・・ま・・の・・・い・・・・・・・・を』
不意に脳裏に声のようなものが聞こえ、ハジメの目の前に刃渡り60㎝ほどの1本の木の剣、いや包丁と言った方がいいような代物が4つの色に薄く光りながらハジメの目の前に現れる。彼はその柄を握ると、猿目掛けて投げつける。ヤケクソ気味であるようにしか傍から見たら思えるだろう。
その投げられた包丁は右に弧を描きハヌマーンの右手2本を切り落とし、ハジメの手元へ戻ってくる。
「・・・なんだ、これ・・・」
痛みに叫んでいる猿を目の端に置きつつ、そう呟きはしたが使えるものを使う主義である。今度は残った右手を狙い再度投げつける。それは再び弧を描きながら残った右手2本を切り取りハジメの手へと戻ってきた。
ハジメは剣なんか振った経験など片手で充分に足りるくらいであり、彼が神様からもらったスキルは【道具投擲】である。ここまでの成果を出すということはこれは剣ではなく包丁という料理道具になる。
ハジメを追い詰めていた強者ハヌマーンは少なくても右手での攻撃は出来なくなった。ハジメは包丁片手に左周りで背後に回ろうとする。猿の左手がハジメを襲い、回避された拳は地面に突き刺さり、土砂を巻き上げる。その一瞬でハジメは背中に回り、1枚のカードを貼った。
「終わりの始まり、塔 、崩壊」
ハヌマーンは全身を雷で打たれたかのように体を硬直し、4つの顔が頭頂部から光の粒子となって消えていく。この塔で死んだ魔物は光となってそこには10cm四方の木製の馬の置物が1つ残っていた。
バヤール:魔法の馬。騎乗する人数に応じた体の大きさを取り、その速度は主の魔力に比例する。召喚は『コール』、返還は『リターン』
どうやら馬と安馬さんという繋がりらしい。因みに日光東照宮の厩の長押に三猿が彫刻されているように、猿は馬の守護神とされている。なぜに安馬さんなのかは分からないが、『安全に馬が育成できますように』と言う意味なのかもしれない。ハジメはアイテムボックスにそれを仕舞ったが、他のドロップ品はなかった。
【ハヌマーンの消滅を確認。ステージ5クリア。宝箱1つを解放します。頂上への階段が解放されます】
宝箱から出たのは糸だった。それをアイテムボックスに仕舞うとこの階の中心辺りから階段が上に向かって伸びていった。
塔の天辺へ続く階段は今までの倍ほどのあるようだった。そしてハジメは頂上に着く。そこでは舞が静かに佇んでいる。
「・・・・舞・・なの・・?」
ハジメが戸惑うのも仕方ないだろう。その姿は今までの人間の様ではなく、背中から薄緑色がかった羽が4枚伸び、顔つきも少女というよりも女性を強く意識させるようになっていた。身長も177cmのハジメより少し低いくらいまで成長し、纏っている衣もグリーンのワンピース姿でシンプルで、体は床から30㎝ほど浮いている。しかしその瞳には感情はないようだった。
「・・・ハジメさん・・・」
不意に声が聞こえる。舞の変わり具合に驚いていて、他の人物に気づかなかったようだ。視線を送ると舞の横に同じような恰好をした一人の老婆が立っていた。
「私は、風の最上位精霊シルフィードと申します」
と頭を下げる。
「属性王・・・・」
精霊王ユドルの下に各属性の王が配置されているのである。ハジメは勝手に精霊は若くて美しいと思っていた。精霊王のユドルは最初から老人であったが、目の前にいる属性王よりも遥かに若かった。
「ハジメさん・・・。私たち属性王と呼ばれる4属性の精霊は、この世界の生活の火・生命の水・育む大地、変化を運ぶ風を有らしめる役割を追っていました。それとは別にこの世界に世界樹が生まれるまでその役割を果たしてきました。しかし・・・・。しかし、もう間もなくその存在が尽きます」
姿形は老婆のようであったが、その声は透き通った、若々しい声だった。
「・・・シルフィード様たちが、消える?」
ハジメの頭には考えなくないことが浮かぶ。何度否定しようともその考えが頭を支配する。この塔に登ったのは神の依頼だったから、上るの大変だろうと覚悟はしていたが、シルフィードが言いたいであろう覚悟はしていない。
「・・・・そうです。貴方が今思ってらっしゃる通りです・・・・。本当に、本当にごめんなさい」
彼女は頭を下げたあとハジメを見つめる頬に涙の跡が残っている。ハジメはその姿に何も言えなくなった。
「・・・舞は・・・、舞は承諾をしたのですか・・・・?」
「・・・えぇ。別れたくないと言っておりましたが、ある条件を付けて納得してくれました・・・」
本人が納得したのであれば、当事者でないハジメは受け入れることしかできない。辛いが一番は当事者である舞だろう。優しい属性王のシルフィードも心苦しかったのだろう。だから今泣いている。
「ハジメさん。属性はこの世界に存在るすべてのモノに平等でなければなりません・・・・。誰か1人を優遇することは出来ません・・・」
あぁ、風の属性王の言いたいことが、舞の付けた条件が分かったしまった・・・。
「新たな風の最上位精霊『舞』から役割を受ける代わりの条件は・・・、自分を知っている人物の舞に関する記憶を消すこと。それと、自身の記憶も100年の間消すこと・・・です」
「・・・そうですか・・・」
ハジメは舞を見る。彼女の瞳はまだ虚ろのまま。
「・・・もう間もなく舞が新たな属性王として目覚めます。貴方から家族である精霊を奪ってしまう私たちを恨んでください・・・」
シルフィードがそう言うと、舞はスーッと空へ上がって行った。その姿がハジメには見えなくなると、空から一陣の新しい風がハジメをすり抜けていった。
「新しい属性王が生まれのじゃ」
ふとその声の主に視線を落とすと精霊王ユドルがシルフィードを抱き抱えて立っていた。シルフィードはユドルに向かって頷くとその姿が消えた。
「・・・約束は守ろうて・・・」
ユドルが静かに言うと、杖を掲げる。その瞬間ハジメを軽い眩暈が襲い目を閉じる。そしてすぐにそれは収まり目を開けた。
「・・・あれ?ユドルさん。どうしたんですか、こんなところで」
いつもの調子でハジメがユドルに話し掛けていた。
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