108 / 173
第5章 塔
95.準備をするようです
しおりを挟む
翌日朝一番でスムスを探し、どこかいい採取ポイントはないか聞いてみた。
「んー。そうですね。この国の西側に大森林があるんですが、そこは中立地となってどの国のものでもないんです。そこに入ることが出来ればハジメ様の希望に沿うものがあるのかもしれません。ただし大森林の入り口付近だけにしてくださいね。それより奥に入ればかなり強い魔物が居るらしいです。数年前ですが、魔術研究国家アウレンが大森林に道を通すということを考えて最上級冒険者のチームが奥地を目指したのですが、ゴブリンにさえ勝てなったみたいですよ」
と言う。アウレン国はアヴァ国の南西に位置してその南は海で西は廃墟となって久しい旧ストレングス国、北は宗教国家シャキール聖国、東は大型魔物の跋扈する大砂漠である。もし今アヴァ国から行くとすると、北の帝国を通り西に抜け、享楽の街フルティオ、ドワーフの国ガーボン、シャキール聖国を北から南へと抜けるという大回りのルートしかなく、その行程は片道3か月ほどかかる。それが大森林を抜けることが出来れば、2か月ほど短縮されるのだ。
アウレン国は魔術研究国家とされている通り、研究施設が多い。従って魔力ポーションが多く欲しいのである。現状、アウレン国から魔力ポーションを仕入れる商人はハジメの領地へ来ているのだが、かの街に到着した時には使用期限は残り3か月を切っている。そして商人は各国をトンボ返りしており、1年中アヴァとアウレンを行き来していることになるのだ。エルフ国で購入しているときもそうだったのがかなり命がけであること、ポーションの卸値に行き来にかかる費用、人件費、儲けなどが加算されかなりの高額の販売となっている。
そういう状況なのでアウレン国が大森林を開拓したいというのは当然のことだった。
「なるほど・・・。入口付近でも何か採れるかもしれないし、行ってみるのもいいかもしれないなぁ」
そう呟き、スムスに礼を述べて書斎に戻った。ハジメは精霊ズを呼び、
「大森林に行こうと思うんだけど」
と言うと、4人とも付いて行くと言ったが、ハジメは
「舞に付いてきて欲しいんだ。陽はポーションの販売をして欲しいし、その手伝いを藍にはお願いしたい。航は薬草の世話もあるし。あ、航は薬草を俺の所まで2日毎に持ってきて欲しいんだよね。それで作ったのをこの街に持って帰って欲しいんだ」
と言いながら空間拡張が付与されたアイテム袋を取り出す。この袋あの木箱が30個は入るので2日分にしては充分な量だった。
「なるほど・・・。まぁ舞がいるなら問題はないでしょうし、入り口だけなら問題はないでしょうし」
と陽がしぶしぶ承諾した。舞以外の精霊ズは不貞腐れた顔をしつつ部屋を後にしたのだった。全員退室したとき、ハジメの体を不思議な感覚が襲った。不意に立ち上がると目の前に神々の管理者であるワーデンが立っていた。窓の外から聞こえていた鳥の鳴き声は消えている。風の音も、木々のざわめきも、人々の声もすべてが凍り付いたように消えていた。
「まさかこんなに早く会うことになろうは拙者も思わなかったでござる。ハジメ殿、大森林に行かれるとか・・・」
昨日のうちにワーデンの像は建立している。渋いダンディーな眼鏡姿である。
「えぇ。自分の興味本位でですが」
とハジメは言い、精霊ズが来るのではないかと扉を見た。
「申し訳ないがハジメ殿以外の世界の時間を止めているのでござるよ。どうしてもハジメ殿にお願いしたいことがあってのことなのでござる」
「私に?」
と顔色を変えないワーデンはハジメを見つめる。どうやら精霊ズも神にとっては人とあまり変わらないのだろう。ここまで時間が経っても入ってこないことを考えると彼も時間を止められているのは明白だった。
「そうなのでござる。大森林はこの世界を作ったわれら神々が最初に地上に降りた場所でござるよ。あの大森林の真ん中には神殿があるのでござるが今は封印されているでござる。今回連れて行く神風の精霊があの森に近づけば導かれる場所があるでござるよ。そこには人の子等の言うダンジョンがあるので、攻略をして欲しいのでござる。これからハジメ殿は各精霊たちを1人づつつれて行って欲しいでござる。全てのダンジョンを攻略した時、大神殿がよみがえるはずでござるよ。今すぐということではないでござるが、数年以内にお願いしたいでござる」
と酷く真面目な顔で言う。
「分かりました。可能な限り・・・」
とハジメが誓うと
「迷惑をかけるでござる。ダンジョンにはしっかりと準備をしていって欲しいでござる。あれからかなりの年月がたっているので、準備しすぎることはないでござる。拙者まで迷惑を掛けて申し訳ないでござるが、よろしく頼むでござる」
そう言って頭を下げ、彼の姿は消えて行った。完全に気配が消えた後、窓の外から小鳥の鳴き声がハジメの耳に聞こえてきた。時間が戻ったらしい。ハジメは背をしっかり伸ばして、大森林へ行くための準備を始めることにした。
マーケットで裁縫道具、鍛冶道具の初級を買い求め、地下の調剤室で自分の防具を作り始める。畜産担当のトニーとトビーから貰った鞣した牛皮をちくちくと縫って行く。イメージはウエットスーツの半袖半ズボンタイプのもの。人は脇と足の付け根、首に大きな動脈が流れている。それを保護しておくことで即死をある程度防げるだろうと考えたのだ。即死しなければポーションで何とでもなる。心臓部分、両脇、両足の付け根はカプリンの皮を3重にした。勿論普通の針は通らないが、セットの中には畳針のようなものが入っていたためそれに全体重を掛けて本返し縫いで塗って行った。小学生のころ習った家庭科に感謝である。
3日かけてようやく完成した。首までカバーできるようにハイネックである。完成後、親和で糸と皮を接着し、付与で強固と柔軟、防水を与えた。その上から冒険者の服を着るとそんなに違和感はなかった。
それが完成した後、鉄制の胸当てをクーラの街の専属鍛冶師のカカに習いながら作っておく。3日程で完成したのだった。
それまでの経験により、ハジメのスキルに『裁縫』と『鍛冶』が追加されたのだった。
この街の鍛冶屋カカが作ってくれた鉄製の1mmくらいの針で両端が尖っているもので破裂丸を50個作成する。これを錬金術LV.4の分裂で10セット複製しておいた。
取りあえず準備は整った。
「まぁワーデン様の依頼については俺だけの秘密にしておこうか・・・。取りあえず秘密兵器もあるし、頑張るしかないかな・・・」
思わずそう呟き、ラメが入ってるかのような緑色のポーションを飲み干して・・・。
そしていよいよ出発の日が来たのである。
朝晩はまだ冷えるが、太陽が出ればうっすら汗ばむような気候になっていた。海は太陽を浴びてきらきらと輝き空には雲はなく本当に快晴だった。
「さて、いきますかね」
とハジメが言って舞と一緒に馬車に乗り込む。残り3人の精霊ズ、街の住人の見送りを貰って、馬族のアインツが馬車を動かし始めた。彼が大森林まで徒歩1時間ほどの街まで送ってくれるのだ。馬車の窓から見える景色を眺めながら1日の馬車移動が始まったのだった。
「んー。そうですね。この国の西側に大森林があるんですが、そこは中立地となってどの国のものでもないんです。そこに入ることが出来ればハジメ様の希望に沿うものがあるのかもしれません。ただし大森林の入り口付近だけにしてくださいね。それより奥に入ればかなり強い魔物が居るらしいです。数年前ですが、魔術研究国家アウレンが大森林に道を通すということを考えて最上級冒険者のチームが奥地を目指したのですが、ゴブリンにさえ勝てなったみたいですよ」
と言う。アウレン国はアヴァ国の南西に位置してその南は海で西は廃墟となって久しい旧ストレングス国、北は宗教国家シャキール聖国、東は大型魔物の跋扈する大砂漠である。もし今アヴァ国から行くとすると、北の帝国を通り西に抜け、享楽の街フルティオ、ドワーフの国ガーボン、シャキール聖国を北から南へと抜けるという大回りのルートしかなく、その行程は片道3か月ほどかかる。それが大森林を抜けることが出来れば、2か月ほど短縮されるのだ。
アウレン国は魔術研究国家とされている通り、研究施設が多い。従って魔力ポーションが多く欲しいのである。現状、アウレン国から魔力ポーションを仕入れる商人はハジメの領地へ来ているのだが、かの街に到着した時には使用期限は残り3か月を切っている。そして商人は各国をトンボ返りしており、1年中アヴァとアウレンを行き来していることになるのだ。エルフ国で購入しているときもそうだったのがかなり命がけであること、ポーションの卸値に行き来にかかる費用、人件費、儲けなどが加算されかなりの高額の販売となっている。
そういう状況なのでアウレン国が大森林を開拓したいというのは当然のことだった。
「なるほど・・・。入口付近でも何か採れるかもしれないし、行ってみるのもいいかもしれないなぁ」
そう呟き、スムスに礼を述べて書斎に戻った。ハジメは精霊ズを呼び、
「大森林に行こうと思うんだけど」
と言うと、4人とも付いて行くと言ったが、ハジメは
「舞に付いてきて欲しいんだ。陽はポーションの販売をして欲しいし、その手伝いを藍にはお願いしたい。航は薬草の世話もあるし。あ、航は薬草を俺の所まで2日毎に持ってきて欲しいんだよね。それで作ったのをこの街に持って帰って欲しいんだ」
と言いながら空間拡張が付与されたアイテム袋を取り出す。この袋あの木箱が30個は入るので2日分にしては充分な量だった。
「なるほど・・・。まぁ舞がいるなら問題はないでしょうし、入り口だけなら問題はないでしょうし」
と陽がしぶしぶ承諾した。舞以外の精霊ズは不貞腐れた顔をしつつ部屋を後にしたのだった。全員退室したとき、ハジメの体を不思議な感覚が襲った。不意に立ち上がると目の前に神々の管理者であるワーデンが立っていた。窓の外から聞こえていた鳥の鳴き声は消えている。風の音も、木々のざわめきも、人々の声もすべてが凍り付いたように消えていた。
「まさかこんなに早く会うことになろうは拙者も思わなかったでござる。ハジメ殿、大森林に行かれるとか・・・」
昨日のうちにワーデンの像は建立している。渋いダンディーな眼鏡姿である。
「えぇ。自分の興味本位でですが」
とハジメは言い、精霊ズが来るのではないかと扉を見た。
「申し訳ないがハジメ殿以外の世界の時間を止めているのでござるよ。どうしてもハジメ殿にお願いしたいことがあってのことなのでござる」
「私に?」
と顔色を変えないワーデンはハジメを見つめる。どうやら精霊ズも神にとっては人とあまり変わらないのだろう。ここまで時間が経っても入ってこないことを考えると彼も時間を止められているのは明白だった。
「そうなのでござる。大森林はこの世界を作ったわれら神々が最初に地上に降りた場所でござるよ。あの大森林の真ん中には神殿があるのでござるが今は封印されているでござる。今回連れて行く神風の精霊があの森に近づけば導かれる場所があるでござるよ。そこには人の子等の言うダンジョンがあるので、攻略をして欲しいのでござる。これからハジメ殿は各精霊たちを1人づつつれて行って欲しいでござる。全てのダンジョンを攻略した時、大神殿がよみがえるはずでござるよ。今すぐということではないでござるが、数年以内にお願いしたいでござる」
と酷く真面目な顔で言う。
「分かりました。可能な限り・・・」
とハジメが誓うと
「迷惑をかけるでござる。ダンジョンにはしっかりと準備をしていって欲しいでござる。あれからかなりの年月がたっているので、準備しすぎることはないでござる。拙者まで迷惑を掛けて申し訳ないでござるが、よろしく頼むでござる」
そう言って頭を下げ、彼の姿は消えて行った。完全に気配が消えた後、窓の外から小鳥の鳴き声がハジメの耳に聞こえてきた。時間が戻ったらしい。ハジメは背をしっかり伸ばして、大森林へ行くための準備を始めることにした。
マーケットで裁縫道具、鍛冶道具の初級を買い求め、地下の調剤室で自分の防具を作り始める。畜産担当のトニーとトビーから貰った鞣した牛皮をちくちくと縫って行く。イメージはウエットスーツの半袖半ズボンタイプのもの。人は脇と足の付け根、首に大きな動脈が流れている。それを保護しておくことで即死をある程度防げるだろうと考えたのだ。即死しなければポーションで何とでもなる。心臓部分、両脇、両足の付け根はカプリンの皮を3重にした。勿論普通の針は通らないが、セットの中には畳針のようなものが入っていたためそれに全体重を掛けて本返し縫いで塗って行った。小学生のころ習った家庭科に感謝である。
3日かけてようやく完成した。首までカバーできるようにハイネックである。完成後、親和で糸と皮を接着し、付与で強固と柔軟、防水を与えた。その上から冒険者の服を着るとそんなに違和感はなかった。
それが完成した後、鉄制の胸当てをクーラの街の専属鍛冶師のカカに習いながら作っておく。3日程で完成したのだった。
それまでの経験により、ハジメのスキルに『裁縫』と『鍛冶』が追加されたのだった。
この街の鍛冶屋カカが作ってくれた鉄製の1mmくらいの針で両端が尖っているもので破裂丸を50個作成する。これを錬金術LV.4の分裂で10セット複製しておいた。
取りあえず準備は整った。
「まぁワーデン様の依頼については俺だけの秘密にしておこうか・・・。取りあえず秘密兵器もあるし、頑張るしかないかな・・・」
思わずそう呟き、ラメが入ってるかのような緑色のポーションを飲み干して・・・。
そしていよいよ出発の日が来たのである。
朝晩はまだ冷えるが、太陽が出ればうっすら汗ばむような気候になっていた。海は太陽を浴びてきらきらと輝き空には雲はなく本当に快晴だった。
「さて、いきますかね」
とハジメが言って舞と一緒に馬車に乗り込む。残り3人の精霊ズ、街の住人の見送りを貰って、馬族のアインツが馬車を動かし始めた。彼が大森林まで徒歩1時間ほどの街まで送ってくれるのだ。馬車の窓から見える景色を眺めながら1日の馬車移動が始まったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
151
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる