上 下
99 / 173
第4章 人材

89.視察が終わるみたいです

しおりを挟む
耐熱ガラスでひと盛り上がりした後1階の一番奥へ進んでいく。途中にはカプリン(牛?)、ブリント(豚?)、コッコン(鶏?)から得られる肉類や腸詰、卵、ミルクやチーズ、バター、はちみつなどこの街で収穫できて余剰分の食材が置かれたいわゆる特産品の店がある。食べきれない食材は売っているのである。この店では味を見て購入してもらうため全ての商品で試食できるようにしている。所謂いわゆるスーパーで見かけるやつである。これのお陰でイブの街の食堂からも注文が入るようになっていた。

そこを過ぎれば鍛冶屋アベルの弟子の店がある。彼女はイブの街の鍛冶師アベルの下で修業をしているが、武器類の作成は好きではないらしい。しかしこの世の中、鍛冶屋として生活していくには武器の作成、修理は必要不可欠だと言っても過言ではない。なぜかと言うと日用品だけではどうしても売り上げも伸びない。この世界では1度買うと修理できなくなるまで使い込まれるのが普通である。それでいて購入費用は安い武器の1/3程度なのである。そこでハジメは彼女、ベッキーの作ったものをマーケットに置いてみないかと提案して今に至るということである。実際に彼女の作る鍋類、包丁、ドアベルなどは使い勝手がとてもよく、主婦や料理人に好評を得ているのである。

「アベルさんのお弟子さんの店・・・?」

ベスパが呟き、ハジメが頷く。買い物に来ていた女性はベスの店でオーダーメイドの包丁を買っているようだった。ベスとその女性は一緒に隣の店へ入って行く。隣は大工のアイルの店である。アイルはイブの街の大工棟梁ソラの元弟子で、最近独り立ちをしたところである。大工は泊りで何日か仕事に向かうことが多いのだが、彼の父親は既に他界していたが、母親は高齢であり一人で暮らすことは難しく日常生活において軽い介助が必要だった。その為今はハジメの下で働いている。日帰りできる範囲であればソラの手伝いに行くが、遠い場合は参加しない。その間はクーラの街の建物のメンテナンスをしてもらっていたが、最近ではベスと組んで商品を開発している。オーダーメイドの包丁の柄などは使う人の手の大きさで変わるのである。そのため実際に客に握って貰ってすぐに微調整が出来るようになっているのだ。割と評判が良く、イブの街の料理人からも好評を得ているのだ。その為アイルの店には商品はなく、ほぼ作業スペースとなっていて、奥の生活スペースには母親が寝ていることもある。因みに親子は家族寮に住んでいて、最近では寮に住む家族が介助を手伝ってくれることもあるようだった。

「えぇ、ベスさんはクーラのマーケットへ、週4日ほど通っていますよ。先ほどのアーヴィンさんの弟子のカインさんも同じですね。今包丁の柄を手直ししているアイルさんは私が雇っていますけど。このマーケットには商人だけでなく、職人のお弟子さんたちが独り立ち前に自分自身の店を出して実際に商売をすることで売買交渉術や改善点などをダイレクトに客の反応を感じて、学ぶためのものとなっています。修行もありますので、休日以外の手が空いた時はこのマーケッへ来るようになっているんです」

とハジメが答える。

これは以前ハジメが師匠クラスのアベルやアーヴィン、クララなどに提案して承諾された作戦だった。師匠にその技術力を認められ独り立ち前まであとわずかの人物ばかりである。彼らが独立するときに商人との繋がりを作り販路が形成できていれば、店を出してもある程度の収入は確保できるようになり、師匠たちも一安心と言う訳である。この提案によって今まで弟子の行く末を不安視して、取らなかった弟子をたガラス職人のクララが育成を始めたのである。この弟子の出現によってハジメのポーション瓶の確保は楽になっているのだ。また彼ら目当てで商人たちも寄ってくれ始めており、宿屋や食堂でお金を落としてくれるようになっている。win-winの関係が成立している。

「あぁ、因みにヘッドハンティング可になっているので、気に入った職人さんや商人さんに自分たちの街に来てくれないかと交渉するのは自由ですので、気になる商人さんや職人さんが居ればどうぞ。ただし本人が嫌がっているのに無理やりはルール違反ですので、すぐさま

ハジメは追加で説明しておく。

その後3か所の農場を見て回る。現在畑は1か所につき柵で4-6分割されており、畑への入り口のエリアだけ空間拡張が使われてなく、視察出来るようになっている。他の場所は農家さんの希望通りの大きさへ拡張されている。畜産場は危険性が高いため外から眺めるだけにした。その時港へ大きな船が1艘滑らかに滑り込んでくるのが見えた。

「ハジメさん、あれ・・・・」

イブの街の町長ウォールが指をさす。

「あぁ、ちょうどウガリット号が荷下ろしが終わって湾内に戻ってきたようですね」

とハジメが説明すると

「あれが、噂の大船か・・・・」

とフラップが呟く。それに合わせるかのように護衛の人々も息を呑んでいた。そうこうしていると外海そとうみから湾内に続くちょっとしたトンネルを抜けて数名の商人たちが荷台を運んでいるのが見えた。すこしずつ船を利用する客が増えているのだ。船の造船代金の回収もそこまで遠くはないだろうと考えている。利益を考えれば1-2回の往復航海で充分に元は取っているのだが。そろそろ2艘目を考えようかなぁと思っていた。

一通り案内を終え、ひとまずハジメの家で小一時間ほど休憩していると、エヴァとベスパがハジメの書斎へやってきた。

「丁度良かった。私も今お二人の所へお伺いしようと思っていたんですよ」

とハジメが言うと、

「そうなんですか。私たちもハジメさんにお願いがあってきたのです」

とベスパが言う。ハジメは「では先にどうぞ」と言うと、エヴァが

「実はね、ハジメさんの専属職員のスムスがいるでしょ?さっきも話していたけど、ハジメさんの事務手続きや税金の計算とか多いのよね。今まではこちらのスタッフのセツさんと行き来して連携を取っていたんだけどね。流石にスムーズには行かないのよ」

と言う。セツはキツネ族の1人でハジメの奴隷である。ハジメの商売の会計を取り仕切っているメンバーで、特に商業ギルド関連の仕事をお願いしている。イブの街とクーラの街を行き来しているのだ。泊まる時も出てきており、その際にはコウとリナリーの客間に泊まらせてもらっていた。

「えぇ、そうなんですよね。私もお二人を訪ねようと思ったのはそのことなんですよ」

とハジメが言うと2人は安堵したかのような表情になった。

「そうなんですよ。出来ればスムスをこちらに置いて貰えないかと・・・。少なくても月の半分はお邪魔させて貰えたらと思っているんです」

とエヴァが伝えてくる。

「それは願ったりかなったりなんですけど、スムスさんてご結婚はされてないんです?」

とハジメは聞いた。ご家族がいるならやっぱり一緒がいいだろう。

「スムスは独身なのでそこはご心配なく。恋人もいないので、そこは心配してるんですけどね」

とエヴァは笑った。ハジメは個人情報は漏らしちゃだめだろとは思ったが安心していた。セツを呼んで話し合いをした結果、半月ではほぼ不休になることが判明したため、本人に確認してからだがずっとこの街に住んで貰えるように独身寮に入居してもらうこととなった。滞在費は支払うと言われたがその分を本人の給料にして貰うことにしておいた。ベスパからは「今でさえ私よりも給料高いのにさらに高くなる・・・」と言われたがそれはハジメにはどうしようもなかった。

そうしてご領主一行はイブの街へと向かって出発したのだった。その月の終わりごろにスムスはクーラの街に住み始めていた。「これで時間的な余裕ができたー」と喜んでいたとセツから聞いたので、良かったと思う反面、日本人か?と思ったのはハジメの心に留めておいた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

もふもふと異世界でスローライフを目指します!

カナデ
ファンタジー
書籍1から5巻(完結)とコミカライズ版2巻も好評発売中です!文庫化始まりました!(3/8 3巻発売)  1/4 本編完結! 引き続きその後編を連載します!ありがとうございました<(_ _)> 転生?転移?いいえただ落っこちただけらしいんですけど。…異世界へ。 日本で普通に生活していた日比野有仁28歳独身しがないサラリーマンが、会社帰りに本屋に寄って帰る途中に歩いていた地面が無くなって落ちた。地面の中に。 なのに地面の中どころか世界さえも通り越して、落ちた先は魔法もあるファンタジー世界な異世界で。 目が覚めたら目の前にはもふもふが…?? 転生?転移?神様の手違いでチート貰える?そんな説明も何もなかったよ! けれどチートなんていりません!望むのは世界が変わっても一つ! 悠々自適にスローライフがしたいだけです!それには冒険なんていらないのです! そんなアリトが理想な異世界生活を求めて頑張ったりもふもふしたりします。 **現在更新は不定期とさせていただいています。 **誤字、その他のご指摘ありがとうございます!随時誤字は修正いたします。   只今その他の修正は大きな物は書籍版の方で訂正となることがあります。ご了承下さい** 書籍版の発売日が決定いたしました!6/21日発売となりました!よろしくお願いいたします! 6/25 増版決定しました!ありがとうございます!! 10/23日2巻発売となりました!ありがとうございます<(_ _)> 1/22日に3巻が発売となりました。ありがとうございます<(_ _)> 12/21~12/23HOT1位 あれよあれよという感じの間にたくさんのお気に入りありがとうございます! 1/31 お気に入り4000越えました!ありがとうございます!ありがとうございます! 3/11 お気に入り登録5000越えました!!信じられないくらいうれしいです!ありがとうございます! 6/25 お気に入り登録6000越えました!!ありがとうございます!! いつの間にかお気に入り10000突破していました! ありがとうございます!!

処理中です...