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第4章 人材

88.クーラの街を売り込むみたいです

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「ふむぅ。そうなってくるといらぬやっかみを受けるかもしれんのぉ・・・」

とイブの街のある地方を治めることになったイブの街の町長ウォールの祖父であるフラップが呟く。

「えぇ、実際過去にもハジメさんに危害を加えようとした商人も居たくらいですし、そろそろ貴族がしゃしゃり出てくるかもしれませんね」

と商業副ギルド長のベスパが不安げな様子で同意する。そこへ商業ギルド長のエヴァが

「商業ギルドイヴ支店の方にも貴族の後ろ盾を得ているギルド長が交代しろって言って来てますからね」

と呑気に言う。

「まったく、利益が上がらなかった時は見向きもしなかったくせに・・・」

ウォールは黒い顔でぶつぶつと呟くように言った。

その時ドアがノックされハジメが入室を促すとメイドが3名入ってくる。2人はキッチンカートを押している。一番初めに入ってきたメイドのカートの上には飲み物がある。器に入った白い液体は良く冷えているためガラスの容器は水滴を帯びていた。次のカートにはピザが載っていた。

「これが、ピザなんですね」

とエヴァが目を輝かせながら言う。最近ではこのクーラの街のピザは有名になりつつあり、既にそのレシピは商業ギルドに登録されている。レシピの登録によって得られるものとして、5年間の独占状態後にレシピを希望者のみに販売する方法と10年間の独占状態後、全国民に無償で提供されるという方法があり、ハジメは後者を選択していた。従って、現時点ではハジメのクーラの街に来なければ食することが出来ないのである。

大皿に盛られたピザは2人に1枚準備されている。食事ということもあって、クリスビータイプではなくパン生地で作られている。飲み物は飲むヨーグルトを準備した。この世界ではチーズはあったが、ヨーグルトがなかった。しかしチーズがあるということはヨーグルトの作成は簡単である。種菌を入れて凝固するものを入れず、40-45°をキープすればいいのである。この世界では風精霊がいるのだから逐一温度チェックをする必要はないのである。あとはおよそ10時間放置すればヨーグルトの完成である。ヨーグルトが出来ればあとは牛乳と砂糖を加えたら飲むヨーグルトの完成である。

「これは、なんて美味しい飲み物・・」

と副商業ギルド長のベスパが飲むヨーグルトを眺めながら言うので、作り方を説明すると、レシピ登録をお願いされたので、することにした。そして30分程ピザを楽しんだあと、デザートタイムとなる。

そこで3つめのカートが運ばれてくる。そこにはシュークリームタワーが載っていた。豊穣の女神であるアシュタロテの加護である多産はハジメ個人だけでなくハジメの所有するものすべてにその効果があったため、農作物や果実、畜産にまでも豊作の影響が出ている。シュークリームを固定するために牛乳を加熱殺菌して分離させ出来た生クリームに調理用にこの世界にもある大豆油を加えて出来たホイップクリームを使い、イチゴなどの果実をちりばめている。因みにシュークリームの中身はカスタードとホイップクリームの2つを入れている。ハジメはこの2つのクリームのコンビネーションが大好きだったので、そこは好みの問題だった。そしてこのシュークリームタワーも好評を得たのだった。

「あ、これらすべてはこの街の宿屋か食堂で食べられますので、御贔屓ごひいきに」

と笑っておく。これでハジメ以外の者が外貨を稼ぐことが出来るようになる。今はハジメが稼ぐことでこの街の経済が回っているが、今後を彼らを奴隷から解放したとき、経済力が伴っていないと再度奴隷に落ちてしまうことも十二分に考えられるのだ。就職先を探すときに奴隷という情報は不利にしかならないだろう。経済的な自立が出来るようになるために一番確実なのは技術力なのである。農作物を作る技術、料理を作る技術、清掃の技術、運営の技術、経営の技術・・・・その生きていく技術があったほうが事は早いのである。その為に子供たちには知識だけでなくそんな技術を身に着けて貰いたいと思っていた。それには個人資金がやはり必要なのである。

「ふむ。それではハジメ。マーケットを見せて貰おうかの」

とフラップが言った。その言葉にエヴァとベスパ、ウォールまでもが目を輝かせている。ハジメは「わかりました」と言い、食後の紅茶を飲み干した後皆を連れてマーケットに向かう。

現在マーケットは開店しており、1階には20名ほどの商人が商売をしている。ダス国アダの街の商人イッチーが一昨日からハーブティーやハイラック、ハーブ、米などを売っていたし、イブの街のアーヴィンの弟子たちも空いた時間に作った家具などを売っている。

「まだ空きスペースはありますけどね。ここに常駐出来ない職人用に1日の雇用金額の1万Sを支払えば店番を雇うことが出来るようにしました」

「だからここでキツネ族の人がアーヴィンさんの家具を売っているのですね」

とハジメが言うとエヴァが言う。

「えぇ。正しくはアーヴィンさんのお弟子さんのカイル君の作品ですね。あとはガラス職人のクララさんもお店出してますよ」

「そういえば彼女も最近お弟子さんを数名雇いましたね」

ベスパが言う。

「えぇ。それで手が空いた時に小物を作ってここで販売してるんですよ」

とハジメが答え、クララの店に案内する。店番にはキツネ族の子どもが雇われていた。因みに子供の場合1日5000Sの雇用料金となっている。店番が子供の場合、値下げ交渉は受け付けないということになっているので適正価格を利用者と相談して決めることになっており、割と煩わしい。嫌がる商人もいるのだがクララは好んで雇ってくれている。最近では価格一覧を添付して送ってくれ、高かったら適当な値段にしてくれて構わないと言われているが特に問題なく商売できている。

店番をしているシリルは店先でイッチーから買ったハーブティーを耐熱ガラスに入れて直火に掛けようとしているところだった。

「あ、旦那様だ。こんにちは」

目を細めて両耳をぴくぴくさせている。

「こんにちはシリル。今からガラスポットの実演かな?」

「はい。旦那様が言われたように実際に見て貰うために」

と言いながら火に掛けた。

「ハジメさん、ガラスは火に掛けたら割れてしまいますよ。早く下ろさないと」

とウォールが慌てていた。

「あぁ、ウォール様。大丈夫ですよ。これは耐熱ガラスですから」

「たいねつガラス?」

とフラップが首をかしげながら言う。

「えぇ、熱にかなり強いガラスです。ようやく完成したんですよね」

とハジメは嬉しそうに言う。その間にもガラスポットは火に掛けられており中の水はお湯になりつつある。それから数分で沸騰し、中へ茶葉を入れるとお茶が踊り始め、湯の色を茶色へと変えて行く。そして周囲にはハーブのいい香りが漂い始めた。シリルはおちょこサイズのカップに少しずつ注ぎ、ハジメ一行へ手渡す。勿論耐熱ガラスで作られたティーポットは割れずにいたのである。

「あ、そういえばクララおばさんが旦那様へのお礼って今朝置いて行ったのがあるよ。後で届けるね」

余談だが、クララはとてもシリルを気に入っており、姉離れをしている魔法使いの弟の代わりに周りがドン引きするくらいシリルを可愛がっている。そのせいか、じぶんをおばさんと呼ばせているのである。

とシリルが言うと、エヴァが「すぐ見たい」とだだを捏ねるので、取りあえず見ることにする。1つの箱を空けるとそこにはティーポットが1つ、ガラスのティーカップが4脚入っている。ティーポットとカップの取っ手はシルフのような妖精を模っており、縁のツタが周囲を1周している。なんとも高級感のある仕上がりになっていた。

一瞬にしてその場に居合わせた人が見蕩みとれる。暫くしてひかりが蓋をそっと閉め、

「後で受け取りにまいりますね」

とシリルの頭を撫でると少年は箱を受け取り奥に仕舞いにいった。その時

「「「「あとで買いにいかせなくては」」」」

とぼそっと呟く訪問者がいた。
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