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第4章 人材

87.視察されるみたいです

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「ところでスクナヒコ様、さっきの説明だと像を設置するのはここよりも人が多い場所の方がいいんじゃないんですか?」

とハジメは聞きたかったことを聞く。

「あぁ、信仰心っていうのは別に信者じゃなくてもいいんだよ。よくあるでしょ?魔法が上手く行ったとか、なんとか勝てたーとか、商いが上手くいったーとか。その時、ありがとう神様ーって言う思い、生きる物の生活で発生する感謝の気持ちっていうのも信仰心ってやつに加算されるんだよね」

「えぇ。だから人が多ければ感謝の気持ちも多く集められるでしょう?生まれてくれてありがとうとか結婚してくれてありがとうだとか人生の節目には多かれ少なかれ感謝の感情は生まれるでしょうし」

とハジメが言うと

「んー。普通はそうなんだけどね。ハジメっちの土地に住んでる人は来た人が多いじゃん?普通そういう人々は感謝思いとかあまりないんだよね。だって自分に落ち度はまったくないのに、その土地に住んでたってだけで奴隷になっちゃったんだもん。自分の身分や扱いに不満を持つのが普通だし、感謝なんてしないのは当たり前で、呪う人が多くなるのは常識なんだよね。でもハジメっちはさ、住むところ与えて、食事与えて、給料払って。住む場所は変わったけど普通の暮らしを送れてるから、感謝量が多めなんだよ。それに世界樹の父だからね」

と頭の後ろで腕を組んで背伸びをしていた。住むところも食事も無料で、まして給料も貰え、好きなものを買っていいとなるとどん底から天国とまではいかないだろうけど、自分たちが想像した奴隷としての扱いよりも遥かにマシなのだから、感謝という気持ちは大きくなるということは想像し難くないのだが。

それよりも世界樹の父の称号が神がここに像を建てたいと考えることに関係してるらしいので、ハジメは<鑑定エクスピニオン>で自分の称号を調べてみる。

世界樹の父:世界樹を世界樹足らしめた者に贈られる称号。多くの人に感謝されるようになる。

ハジメは不思議そうな顔をする。単に『世界樹に育てて、人に感謝されやすくなる』と言うだけである。確かに多く感謝されれば神々は信仰心を多めに蓄えることは出来るだろうが、それはこの人数にしてはという前置きが入るだろう。数は暴力と考えたほうがいいのではないかと思う。

「あぁ、称号を鑑定した?信仰心はさ、その数と感謝の大きさに比例するんだよ。ハジメっちが理解しやすいように言うと『感謝される数×感謝の大きさ』みたいな感じで考えてくれたらいいよ。それをそこにある像の数で割るんだよ。それが1体に付与される信仰心なんだ。像の大きさによっても蓄えられる量は変わるけどね」

「あぁ、なるほど。数だけが多くても感謝の大きさが小さければさほどでもないと」

納得したかのようにハジメは言う。

「そうそう。それに世界樹の父ってさその信仰心をさらに増加してくれんだよね。例えば、イブの街に作ったとして貰える信仰心を1としたら、ここだと4貰えるんだよね。だから頻繁にこっちに来る神たちはこの地に像が欲しいって訳。だ・か・ら、友人のハジメっちの為に僕が頑張って報酬奪ってくるからねー」

と言って飲み干したティーカップを静かに置いて立ち上がり、邪悪そうな笑みを浮かべてその場から姿を消した。ひかりがお疲れ様でしたと言わんばかりにハジメの肩に手を置く。

「・・・あれは、旦那様の為って言う訳ではなく面白いから、でしょうね」

と頭を振りながらひかりがハジメの想いを代弁した。


そしてハジメの関与しない報酬の話し合いにより、魔法神と戦闘神からは街を守る為の障壁を得る。1国が攻め込んできても問題ないほどの障壁を張ってもらうことになった。これは悪意あるものが入ってこないように出来ている光の石の効果をさらに強固にするものだった。商神からは契約時にその人の歴史が見れるようにしてもらった。犯罪歴のある場合は人物名と罪状が赤く表示されるようになった。そしてその日の夜には3体とも完成し、その日のうちに設置することが出来たのである。魔法神はそのまま、戦闘神は武装姿を、商神は合体した時の姿とその前に幼い姿の2人を作った。一見親子の様であったが、いつもお世話になっているため2柱よりも力が入ったのも人のさがだろう。


神の像を設置し、新しい年を迎えて2週間ほど経ったころの昼頃、領主の視察団がクーラの街を訪れていた。視察の知らせは年の瀬も差し迫った頃にあったので承知はしていたのだが、年明け早々大変だなとハジメは思っていた。視察団は領主のフラップ、イブの町長のウォール、商業ギルド長のエヴァ、副商業ギルド長のベスパ、商業ギルドのハジメ専属職員のスムス、それと初めて見る初老の男性2人、そして護衛として冒険者ギルド長と冒険者10人ほどであった。

「ふぅ、本当に疲れたのぉ・・・」

フラップがメイドの出したお茶を一気に飲み干しため息交じりに言う。なんでも新年の挨拶をするために王都まで行き、その帰り道で顔見せを兼ねて領地にある村々を回り、最後にクーラまで来たのだった。今日の夕方にはイブの街に向けて出発することになっている。

初めての来賓が来たということもあって、料理人やメイド、執事たちは張り切って準備をし、領民たちも美味しい野菜や乳製品、肉、魚を領主一行が到着する日の早朝ハジメの家に持ってきてくれたのである。有難いことだ。

「それにしても立派になったのぉ」

フラップはバルコニー越しに見える元マコンの街並みを眺めている。公道は綺麗に掃除されており、行き交う馬車もそれなりにある。寒空に白い湯気が昇っているのも見え、温泉街と言った雰囲気もある。この風景がハジメ的には好きだった。寒いのを我慢して窓を開ければ子供たちの声も聞こえるだろう。

「えぇ、お陰様で」

とハジメが言う。

「最近ハジメさん自重止めましたよね。充分な量のポーションが出回っているとか」

とウォールが言うとそれにスムスが答える。

「売り上げが凄いことになってますから」

とスムスが笑顔で言う。ベスパが

「おかげでスムスの給料、私よりも高いですし。新人教育も出来ないほどですから」

と続ける。どうやら専属となると担当した商人の売り上げに応じて給料が変動するようである。

「本当に。うちのギルドの儲けの23%はハジメさんって感じですものね。ギルドが街に治めている税の12%はハジメさん個人ですからね」

「なんとまぁ」

エヴァの発言にベスパが呆れたように驚き、ウォールを見る。

「えぇ、街の税収の6%弱はハジメさん個人の税金ですよ。ハジメさんが購入した人の金額を合わせたら7%くらいですし」

とウォールも笑いながら言う。それはそうだろう。赤字であった街が逆に売り上げを上げ始めたのである。6%どころか以前の収支を考えると20%あまり黒字になっているのだから。因みに奴隷たちには税金はかからない。これは奴隷に給与を与えるということが無いからである。ハジメは売り上げに対して税金を払っているため、従業員たちも税金はかからない。

拡張した畑の1/2は薬草畑で、残りの3/4は魔素草を、そして後の1/4では治癒草を1うねと休耕させている。何かあればすぐに植えられるようになっている。もっとわかりやすく言うと、薬草は2日で収穫ができ、その度に体力ポーションが20万本、魔力ポーションは15万本作れるのである。治癒草は使用目的に応じて調合する必要があるのでキュアポーション(1)、(2)、(3)を各1000本だけ作り、治癒草として残りを時間経過のないアイテムボックスに入れている。

「まぁ、大切な従業員たちが居ますので、飢えさせるわけにはいきませんから」

とハジメは街で働く人々を優しい瞳に見ていた。笑顔にあふれた場所でありたいと改めて思ったのだった。
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