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第3章 航路

73.教会を完成させるようです

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その日は晴天であった。風もなく波も穏やかであり、ウガリットの進行を阻むものは全くなかった。それがハジメにとって恐怖を増大させているのだが・・・・。

ハジメと精霊ズを乗せたウガリット号はものすごい速さで進んでいた。船が生み出した波は白くなり暴れている。モーリーが運転してた時の3倍くらいの速度である。ハジメの目から流れた恐怖の涙は真横に流れ、風はハジメの頬を叩きまくっていく。しっかり捕まっていないと風に飛ばされそうである。まいは喜び、わたるはマストに捕まり、あいひかりは涼し気な顔をして立っている。

そしてその原因であるチャドは

「ひゃっほーい」

と言いながら目を爛々と輝かせて運転している・・・・。陸の時とは180°性格が変わっていた・・・。あの時、恥ずかしがり屋と決めてしまい、船に乗せてみようと思った自分を殴り飛ばしたい・・・。

後悔先に立たずということわざが頭に浮かぶ。

そして1時間後ようやく落ち着いたチャドはウガリット号を港に寄せ、ハジメたちに土下座をしていたのである。

「本当にすみません・・・。久しぶりの船で興奮してしまいました・・・・」

先週のチャドに戻っていた。陸についたおかげでハジメは落ち着きを取り戻していた。取りあえずチャドには安全運転するように伝え採用だと告げる。彼の住居は現在王都であるため、近々引っ越してくることとなった。

「あの・・・それで、お願いが一つあるんですが・・・・」

とひと喜びしたあとハジメに言う。

「あぁ、支度金はお渡ししますよ?」

とハジメが言うと

「いえ、違うんです・・・。元私の部下たちも一緒に雇って貰えないかと・・・・」

と恐る恐る言う。なんでもチャドが辞めさせられたとき一緒に辞職したのだとか。一般的にこの世界の船乗りは軍務か猟師の2択しかないのだそうだ。今まで軍務しか経験がない者ばかりだから漁などはしたことがない者が多く、そうなるとなかなか再就職先は見つからないそうである。その数30人ほどになるそうである。その中には副官だったチャドの右腕とも言えるカーディスも居る。彼はとても有能らしいのだが、それでも再就職先はなかなか難しいそうである。ハジメにとってラッキーなことに、チャドの部下であったことから彼の扱いには慣れていることは確定である。これで船部門の人材は揃うことになる。2つ返事で許可を出した。

1週間前ポーションの買い出しに来たダス国アダの街の商人イッチーに相談は終わっており、彼も乗り気である。2か月後に来たときに商船を見せる予定になっている。これなら実際に乗船してもらうことも可能だろう。
ハジメとしてはいずれチャドとカーディスで交代制で船を動かして貰う予定でいる。暫くは1艘で5日で1往復くらいで充分だろう。空いた時間でホウ砂の採集を依頼するつもりでいる。しばらくはハジメの欲しいものの採集をお願いする予定である。あとは従業員の慰安クルージングだろうか。

こうしてようやくホウ砂の採集が可能となるのだった。これで耐熱ガラスを作れば美味しいハーブティーが飲めるとハジメはほくそ笑んだのである。


そして1か月の月日が流れた。この間に次々と物事が進んでいる。クーラの私有地は最初にハジメの家が建ち、その隣に同じ広さのマーケットが出来た。またマーケットの道を挟んで反対側には馬車を停めておく場所ができ、その隣に男性用の船員棟が2棟、男性使用人棟が1棟建った。そしてその南に家族棟が3棟、ハジメの屋敷の前、道を挟んで女性使用人棟が2棟と女性用船員室が1棟、そしてその隣に孤児院と幽世かくりよの神々をまつった教会が建っている。

現在は私有地の出入り口に宿屋、その後ろに公衆浴場、宿屋の前の道を挟んだ場所に常世とこよの神々を祀った教会を建てているところである。



ハジメはイッチーが来る1週間前の定休日にクーラの私有地へ来ていた。ハジメは引っ越し作業のために本日から2週間の連休に入っていた。リナリーとコウは独り立ちしており、ハジメの元家を拠点にそれぞれ活動することになっている。リナリーは冒険者として、コウはハジメのポーションを売りながら徐々に自分でセレクトした商品を売り始めた。徐々にその売り場面積は彼のチョイスした商品が多く陳列することになるだろう。ハジメはコウのチョイスしたものに決定権を持っているが、口は出さない。簡単に成功しても彼の為にはならない。勿論失敗したら全力でカバーするつもりでいる。既に立っている自宅へ行き、裏庭へ向かう。庭の片隅に日本風の社を建てており、そこへアマテラス・ツクヨミ・タテハヤの像を設置し、格子戸を閉める。そして、

「3柱様。なんとか自分の場所を作ることが出来ました」

と正座をして礼を述べる。ハジメが頭を下げている時、格子戸の向こうから優しい色を一瞬放ったが彼は気づかなかった。ハジメはその後畑として用意した場所の中央に立ち静かに祈る。血液が激しく全身を巡り、これまでにないほどの熱を全身に感じる。

『我は願う、この地の広がりを。ことわりを曲げることを』

詠唱・・・いや、祈りを捧げる。その瞬間畑空間が広がる、それは今までと比較できないほどの広がりを見せる。隣にあるはずのマーケットの壁は遥か向こうの方になり1mmほどの高さくらいにしか見えない程度である。

「ねぇ、これって、本当まじ?」

思わず呟いていた。

「おぉおぉ。ハジメ殿すさまじい広さにしたのぉ。前の畑よりも数倍は広いのぉ」

と声がしたと思うと眼前にユドルが姿を現す。

「取りあえず、約束通り池と薬草の畑を移動させるかの。果物の木と野菜畑は前の畑のままにしておくでの」

そういうと手をぱんぱんと叩く。すると広大な土地の中央付近に精霊の池とその周囲の花畑が出現し、奥の方に薬草畑が出来たようである。もう世界樹になってしまったので木は無かったが、その代わりに湖が大きくなっている。そしてその湖から沢山の色とりどりの蝶々が噴水の様に空へと飛び立って行った。そしてその集団が空へ消えたのを見届けた後、ハジメが湖に視線を戻すと中央に1体の像が立っていた。大きな瓶を両手で抱え、微笑んでいる少年の、水の神ヤム=ナハルの像であった。なんとも神秘的な存在感を放っており、像が抱えている水瓶から滾々こんこんと水が流れて落ちていた。そこへ小鳥が舞い降り、水を飲んでいる。なんとも幻想的な光景である。ふと見とれていると、

「ハジメーっ」

と言いながら背後から抱きついてくる存在がある。

「ナハル様。お久しぶりですね」

と振り返り何の抵抗もなく抱き抱える。

「・・・やっぱりハジメの抱っこは良い気持ちなのだ・・・。ダメダメ。今回はちゃんとお礼をって思ってきたんだから」

と言いながらも抱っこから逃れなかった。

「お礼ですか?特に何かしたってことはないんですが・・・・」

とハジメは言う。

「だめだめ。僕のお願いした海路での販売経路の道筋をたててくれたんだもん。これからハジメの海路を発起として色々なものが運ばれていくようになる可能性が高くなったんでもん。本当にありがとう」

と嬉しそうに言う。

「ナハル様に喜んでもらえたならそれでいいですよ」

とハジメも破顔して言う。

「お礼どうしようか・・・。何か欲しい物ある?」

と少し悩んだような顔をしてナハルが言う。

「まだ始まったばかりですから、大きくなった時に考えますね。今は大丈夫です。皆さんに良くして貰ってますから」

とハジメは笑顔で伝えると。ナハルもじゃぁ、そうするねといいつつハジメの腕に抱かれていた。そうこうしていると頭に声が響く。

『この地は水の祝福を得ました』

「水の祝福?」

と思わず呟いていた。それを聞いたナハルが

「あぁ・・・。ここに神像も出来たからね。大した効果はないけど、水に関することが上手くいくようになるってくらいだよ。治水が上手くいくみたいな。ここは海だからってくらい。ハジメの土地に所属しているあるモノは全部その恩恵を受けれるよ」

と説明する。「そのくらいなら大丈夫かな」とハジメは納得してしまう。本来とんでもないことである。そもそも治水とは何年、何十年かけて人力とお金をかけて整備していくのである。そしてそれを維持していくものなのである同じくらいの金額を掛けて人の手を掛けて維持していく、それが普通である。それがナハルが言うには、不要となるのだ。何もしなくても問題なく出来てしまうという事である。さらに船が嵐や海賊などに遭わないのである。ほとんど・・・いや間違いなくチートである。それにハジメが気づくのは随分後になってからである。

ナハルと暫く談笑した後、ハジメは自宅を背にして右斜め前の教会へと足を運ぶ。正面の扉を開けると一番奥に高い台座がありその前に少し高い台座が、そしてその前に3つの低い台座が、部屋の左下と、右下、入ってきた扉の上にそれぞれ同じような低めの台座があった。

ハジメは先ず右下の台座へ向かう。台座には50cmほどの窪みがあり、そこへ光の石でハジメが作った工芸神コシャル・ハシスの像を一番高い台座へ視線を向けて設置する。像はわたるの力により継ぎ目なく綺麗に固定される。そして扉の上にある台座へ豊穣多産の神アシュタロテを、右下の台座には愛と戦いの神アナトを、正面向かって右に海と川の神ヤム=ナハルを、正面左に炎と死の神モトを、正面の一番前に嵐と慈雨の神バアルを、バアルの1つ奥に太陽神シャプシェを、そして一番高いところに創造神であるアーシラトの像を設置する。アーシラト像の頭上にはひかりに作って貰った直径10mほどの丸いガラスを、またそれぞれの神の頭上にその半分の大きさの丸いガラスを入れ、昼間は太陽が、夜は月灯りかりがそこから室内全体に差し込むのようになっている。さらに素材である光の石はその名の通り、鈍い光を発しているのである。像は神秘的な光を帯びてそこの座し、教会という雰囲気を一層高めていた。

ハジメはあれから夜な夜な神々の像を作っていた。それは彼のこだわりでリアリティーを追求したものとなっていて、細部まで作り込まれている。そのお陰で錬金術のレベルは2レベルも上昇したのであった。それに気づいた時これは錬金術じゃなくて細工なのではないかと思ったのは秘密である。

アーシラトの像は教会の中のベンチを見下ろすような視線とし神々の視線はアーシラトを向くように作った。ハジメは教会内の中央にあるベンチに腰を掛ける。なんとも暖かい空間で体が春の陽気に包まれているような錯覚を感じる。

「ここが、俺と一緒に住む人々にとって憩いの場になればいいなぁ」

と呟かずにはいられなかった。

ハンドブック 13項目目

13-1.教会を作ろう:Clear!
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