上 下
79 / 173
第3章 航路

72.出航するみたいです

しおりを挟む
船名をウガリットと命名した後皆を載せモーリーが船長となり近くの島まで運航させることになる。出航する前にモーリーが船内を案内してくれる。ジェフ一家とリナリー、コウは甲板で景色を見たりしてはしゃいでいる。その為|わたるを警護として配置する。勿論姿は消した状態でである。従って案内されるのはハジメと残りの精霊たちである。

「船は4層に分かれてるんや。一番下は貯留海水が溜まる場所やから、案内はせんでもええな。海水の出し入れは船長室で出来るようになっておる。一応修理のために降りれはするけど、鍵が必要や。鍵は船長室にでも置いとったらええし。一応渡しておくな」

とモーリーはハジメにグレー色の大小1つずつ宝石を1組手渡す。

「このキーストーンに登録した者だけがこの階段を下りることが出来るんやで。登録してないもんは階段降りても上に戻される仕組みになっとる。一度降りてみる?」

と言われハジメがやってみる。精霊ズは人間の仕組みが当てはまるのか分からないためにそうした。ハジメが階段を下まで降り切ったとき、不意に眩暈めまいがしたかと思うと階段の降りる前の場所に居たのである。

「まぁこんな感じやな。取りあえずハジメ殿を登録して置くわ。登録レジストレーション、ハジメ」

モーリーが大きい方のキーストーンを持ち上げ言うと、ハジメの体をモヤモヤした魔力が包み込む。どうやらハジメの魔力を登録しているようである。数秒後、グレーの石がほのかかに光る。それを見届けると大小の宝石をくっつけ、さらに

管理者変更アドミニストレータチェンジ、モーリー・レジネッタからハジメへ」

モーリーが続けると大小の石が交互に光る。そしてが聞こえる。

『管理者をハジメへ変更しました』

「声聞こえたかいな?」

とモーリーが言うので頷く。石を離し、

「これで無事登録者変更やな。登録するときはさっきやった通りやで。管理者は副管理者を1人決めることが出来る。管理者は登録、除名が出来る。副管理者も登録、除名が出来るけど、管理者の認証が必要になるっちゅーことやな」

「承認?という事は管理者も鍵の近くに居ないといけないってことですか?」

とハジメが問う。

「いや、この大きい方が管理者の石で、小さい方が副管理者の石になっとるんや。管理者の変更は大小の石をくっつけんとあかんけど、それ以外の登録は遠くでも出来るで。副管理者が登録しようとすると大きい方の石からさっき聞いた声がするはずや。それに対して、承認か拒否か選べるようになっとる。せやから、管理者の石はオーナーが、副管理者の石は船長が持つのが普通やな。それでこの最新のキーストーンの凄いところはやなー、この石を持つもの同士で会話が出来るっちゅーところなんや。緊急事態とか船底の故障の時に臨時で人手がいるやろ?その時に先にオーナーに連絡取れるんや。以前のは承認、拒否って出るだけやったから、会話できるようになったことで、状況を詳しく知れるようになったんやで。魔力は多めに必要なんがデメリットやけどな」

という。状況が分かれば対応も早く行うことが出来るのだ。確かに、有用である。

「それでっと。3階の案内から始めるで」

と案内を始める。3層目は縦50m×横50m×高さ3mの荷物室が18室、左9、右9室で、左船尾には上下へ続く階段があり、右側の中央には歌舞伎などの舞台で使われるせりの装置がある。迫の横には操作室があり、そこには風魔法の魔石が置いてあり、それを操作することで迫は上に登ったり下に下がったりするのだ。簡単に言うと魔力を原動とするエレベーターである。ここから荷物の出し入れが行えるようである。

2層目は10人部屋が4つ、トイレとシャワー室が1つずつでこれは船員室。その隣は迫が昇降する空間となっている。そして10人部屋の大きさの予備室が2つ。更に6畳の個室が12室、12畳の大きめの個室4つある。

1層目には船尾から1/3の部分から室内になっており、室内の中央に階段があり、そこを上ると船長室兼運転席であり、その階段の正面には備品庫、左船尾には2層目へと続く階段がある。



その後モーリーが船長兼操縦士となり、近くの島々を観光することになった。勿論ナハルの杖から水を出しながらである。それを見たジェフが水が出ることの意味があるのかとハジメに聞いてきたが、ハジメは「浪漫」だと答えていた。勿論彼らにはまったく理解できなかったようである。

「これくらいなら船長ならだれでもできることやな」

とその間も笑いながら1人で船を操っていた。操縦するだけなら1人でも問題ないらしい。荷物の上げ下ろしや遠方へ行くときはやはりそれなりの人数が必要となる。ここでも人材登用が課題となるのだった。

そうして2時間くらいのクルージングを楽しんだあと帰港した。港の外に停泊させるのはリスクが高いため、港の中へと停留させた。その後モーリーの馬車を見送り、自分たちもイブの街へ帰る。ハジメ以外は初めての船に興奮しまくり、帰りの馬車では熟睡することになった。あのリナリーさえも眠ったのだから、その興奮の高さがうかがえるだろう。

こうして社員旅行兼処女航海は無事に終わりを迎えたのだった。

「旦那様、まずは人材ですね」

とハジメの横に座っていたひかりが静かに言う。そうこれからはそこが大問題なるのである。いつから目を覚ましていたのか、ジェフが2人に声を掛けて来た。

「あのぉ、旦那ぁ。実は俺の弟が船長をしてたんですが、エルフ国へ行くことが無くなったんで仕事がなくなったんでさぁ、今職を探しているところで・・・。もし良かったら雇って貰えやせんか?」

と言う。渡りに船であった。

「取りあえず一回会ってみたいな」

とハジメが言うとジェフは嬉しそうに次の定休日にでも連れてくるというので、その時に面接を行うことにしたのだった。


そして次の定休日となった。コウとキルトは市場へ出かけ、リナリーとマーサは冒険者ギルドへ仕事に行っている。店に残っているのはジェフとハジメ、精霊ズだけであった。

朝食が終わり一息ついた時、店の玄関がノックされる。恐らくチャドであろう。扉を開ける前に誰何すいかすると小さな蚊の鳴くような声で

「あの・・・兄に言われてきました、チャドです・・・・」

という。ハジメはあれ?船長じゃなかったっけ?と思いつつハジメが扉を開けるとそこには筋肉隆々で身長2m近くあるような大男が両手を前にしてもじもじしながら立っている。ハジメが言葉を失っていると、

「こらぁ、チャド。もうちっとはきはき喋らんかっ。そんなんだから再就職先が見つからないんだぞ」

とジェフが言う。

「すいやせん、旦那ぁ。昔っからこいつはこんなんで・・・・。船に乗るとしっかりするんでさぁ。陸だとこんなんなんですが・・・」

と謝る。

「・・・そうなんだ・・・・。取りあえずチャドさん、中へどうぞ」

と促す。店内のテーブルに座って貰うとあいがお茶を3人分運んできた。お茶を飲むために持ったカップは、海の男の手にとってはとても小さく、薬指と小指は行き場無くピンと立っている。

「チャドさんは船長になって長いんですか?」

とお茶が置かれるのを待ってハジメが問う。

「・・・はい。クビになるまで10年程乗っていました。戦艦の船長になっては5年くらいです・・・・」

とモジモジしながら言う。

「えっと、ウチの船は商船ですが、大丈夫でしょうか?」

と更に質問する。

「・・・はぃぃ。船の操作方法は一緒なんで、問題はありません・・・・」

と答える。その応答にジェフが苛々しながら言う。

「旦那ぁ、こいつはこれでも国のトップクラスの腕前で、4年前に表彰を受けたんですが、陸ではこんな感じになってしまうんで、それ以降は選考すらされず仕舞いなんでさぁ。今回エルフ国が無くなったことで軍縮の流れになり、真っ先に辞めさせられたんです。操縦の腕間は王国1って言われてたんですけど」

「なるほど・・・恥ずかしがり屋ってことかぁ・・・」

とハジメが納得する。しかし実際船長が陸の上でこんな感じであればトラブルになった時に困りはしないだろうか。船員同士のいざこざの時に何も出来なければそれもまた船長としての資質を問われることもあるだろう・・・。悩むところである。

取りあえずハジメは次の定休日に船に乗せてみることにした。操縦に関しては問題ないだろうとは思ったが、勝手が違う可能性もあるからである。


そして1週間後、ハジメは前の週の自分の考えを後悔したのである。そう、心の底から・・・・。

ハンドブック 12項目目

12-10.船に乗ろう:Clear!

12-11.報酬:奴隷
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

もふもふと異世界でスローライフを目指します!

カナデ
ファンタジー
書籍1から5巻(完結)とコミカライズ版2巻も好評発売中です!文庫化始まりました!(3/8 3巻発売)  1/4 本編完結! 引き続きその後編を連載します!ありがとうございました<(_ _)> 転生?転移?いいえただ落っこちただけらしいんですけど。…異世界へ。 日本で普通に生活していた日比野有仁28歳独身しがないサラリーマンが、会社帰りに本屋に寄って帰る途中に歩いていた地面が無くなって落ちた。地面の中に。 なのに地面の中どころか世界さえも通り越して、落ちた先は魔法もあるファンタジー世界な異世界で。 目が覚めたら目の前にはもふもふが…?? 転生?転移?神様の手違いでチート貰える?そんな説明も何もなかったよ! けれどチートなんていりません!望むのは世界が変わっても一つ! 悠々自適にスローライフがしたいだけです!それには冒険なんていらないのです! そんなアリトが理想な異世界生活を求めて頑張ったりもふもふしたりします。 **現在更新は不定期とさせていただいています。 **誤字、その他のご指摘ありがとうございます!随時誤字は修正いたします。   只今その他の修正は大きな物は書籍版の方で訂正となることがあります。ご了承下さい** 書籍版の発売日が決定いたしました!6/21日発売となりました!よろしくお願いいたします! 6/25 増版決定しました!ありがとうございます!! 10/23日2巻発売となりました!ありがとうございます<(_ _)> 1/22日に3巻が発売となりました。ありがとうございます<(_ _)> 12/21~12/23HOT1位 あれよあれよという感じの間にたくさんのお気に入りありがとうございます! 1/31 お気に入り4000越えました!ありがとうございます!ありがとうございます! 3/11 お気に入り登録5000越えました!!信じられないくらいうれしいです!ありがとうございます! 6/25 お気に入り登録6000越えました!!ありがとうございます!! いつの間にかお気に入り10000突破していました! ありがとうございます!!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...