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第3章 航路

71.船が完成するみたいです

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アーシラトたちとお茶会をしてから2週間後、王国よりマコンの街は、人所有となった旨が発表された。人物名は公表されなかったことから人々の好奇心を激しく煽り、その所有者探しが始まったのだ。普段噂話など興味がない鍛冶屋のアベルまでもハジメとの会話の中で所有者が誰か知らないか聞くくらいであった。ハジメは誤魔化そうと思ったが、どうせ引っ越しをしたらバレてしまうし、アベルだったら誰にも言わないだろうという思い、そして自分の計画のため、自分だということを告げる。貰った理由は国から喋らないように言われているとして話した。それに続いて計画を相談する。アベルはそれを聞いて

「くっくっく。そいつは面白いな。それに俺は乗らせてもらうぜ。くぅ。楽しくなってきなぁ。テンションが上がってきたー。帰って弟子を鍛えてやるぜ」

と言って帰っていった。結局同じ相談を家具屋のアーヴィン、その妻である裁縫師のシラト、建築科のエルム、大工のソラにもすることになり、皆アベルと同じようなセリフを言って意気揚々と帰って行った。彼ら、彼女らの弟子たちの地獄が決定した瞬間であった。ハジメが心の中で合掌し、詫びを入れたのは言うまでもない。

その翌日街の中央にある噴水広場でベンチに座って休憩していると、役場の最上階のベランダから街を見ているウォールの祖父で国の筆頭鑑定士でもあるフラップを見つけた。フラップもハジメが気づき、手招きをする。ハジメはそれに頷き、役場を訪れる。玄関を開けて入るとすぐに町長秘書さんがハジメをフラップの所まで案内してくれた。部屋に入ると、

「ハジメ殿。ご足労申し訳ない」

と頭を下げる。この人の凄いところである。頭を下げるべき時は身分は関係ないと実践できているところである。勿論公の場では出来ない事が多いのだろう。地位は絶対である世界なのである。それを行えているというのはこの方の尊敬し、見習うべきところである。

「来てもらったのはのぉ、元マコンの街の新しい名前が決まっていたら教えて欲しくての。手続き上必要でな」

と言う。

「え?マコンの私有地とかじゃダメなんですか?」

とハジメが言うと

「知らんかったか・・・。そうよのぉ、マコンの街が出来たのは数十年前じゃ、ハジメ殿が知らないのも無理はないか・・・。少し長くなるかもしれんが、新しい領主の昔話に付き合って貰おうかの」

と遠い目をする。

「街が出来る数十年前あの場所には人々からは『帰らずの森』と呼ばれておった大きな森林があっての。多くのモンスターが跋扈ばっこする場所だったのじゃ。そして当時は他国との戦が多い時代での、森のモンスターを相手にしつつ、他国と争うのはとても危険だと当時の王、現王からすれば御祖父にあたるマコン王が森を開拓し、平地にしたのじゃ。国民はそれを大層喜んだ。いつ現るかもしれない恐怖が取り除かれ、海産物が手に入るようになったじゃ。そしてエルフ国とのポーションの売買も始まり、港として発展していくことになった。初めは露店程度だったのが、徐々に村になり、街になっていった。その頃、マコン王が戦にてお隠れになったのじゃ。その頃からその街をマコン王が開拓した地にある街、と呼ばれるようになり、戦が落ち着いてきたころ、正式にマコンの街となったのじゃ。じゃからの、私有地になった今、マコンの名をそのまま使うのはよろしくないのじゃ」

と続ける。

「・・・そんな大切な場所、私有地としなくても良かったのでは?」

とハジメは思わず呟く。

「今の世の中、大切な場所というだけで国は維持できぬのが現状なのじゃ。現王も散々悩まれて、街を無くすことを決めたのじゃ。今となってはそれをくつがえすことは出来ん。じゃが、先々代の王の名を使われることは避けたい、しかし更地というのも辛い。というのが心情じゃの」

「なるほど、歴代の王の名を私有地に付けるのは流石に私も抵抗がありますね。分譲もしたくはないですね・・・」

と言うやり取りがあり、ハジメの姓の倉田を利用して、クーラの私有地としたのであった。ハジメの私有地では誰が持ち主であるか分かってしまうから、やめた置いた。


そして世界樹がこの世界に生まれて3週間ほどしてモーリーから商業ギルドを経由して船が完成したと連絡があった。そしてその2週間後の本日、元マコンの街、現クーラ私有地で待ち合わせをしているので、ハジメたちは馬車で向かっている最中であった。今日は店を臨時休業としてマーサ、ジェフ、キルトにリナリー、コウも一緒に来ている。ジェフ一家、リナリー、コウも大型船を見るのは初めてだという事でテンションは上がっているようで、馬車の中で楽しそうにしていた。

ハジメたちがクーラの私有地に到着すると、それを見て大工のソラが弟子たちを指示しており、建築家のエルムも同じく弟子たちを指示し建築魔法を構築していた。2人とも例の計画に張り切っているようである。

マーサは街の中央付近にシートを敷き、ジェフとコウはキルト広い空き地で走り回るキルトを追いかけている。リナリーはマーサの敷いたシートの中央にアーヴィンの弟子が作ったという簡易テーブルをセットし、お茶の準備を始めている。ちょっとした社員慰安になってるのかもしれない。年に2回、春と夏にはこういう機会を作ろうかなと思った。

ひかりあいはハジメの横におり、まいは海上の調査をしてもらっている。船を運ぶとなると海上を来るのは必然である。わたるは街道の方の警戒をしてもらっている。どうしても建材を運んだりする必要があり、盗賊はそれを奪いに来る可能性があるのだ。その為にエルムとソラたちをこそこそと警護しているのである。

ハジメたち3人はその後エルムのもとへ向かった。

「こんにちは、エルムさん」

と声を掛けると、

「あ、ハジメさん。こんにちは。今丁度ハジメさんの住む家の設計図を展開したところですよ。あ、この設計間違ってるぞ」

と弟子に指示を出している。あまり邪魔するのも悪いと思い、あまり無理しないように告げて後にし、ソラの所に向かい挨拶をする。同じように忙しそうにしているため、完成したら説明してもらう約束をしてその場を後にした。その時、わたるの声が耳元で聞こえる。

「ハジメ殿、馬車が一台こちらに向かっています。あと数分でここへ着きます」

と告げる。ハジメに向かってひかり

「旦那様、モーリー様のようでございます」

「え?陸から?」

と疑問に思ったが取りあえず出入り口に向かう。ハジメたちが到着する直前、一台の馬車がクーラの私有地へと入ってきた。そしてハジメたちの前で止まると中からモーリーが降りてくる。

「すまんの。遅れてしもた」

と頭を掻きながらハジメの前に立った。船は勿論なく、馬車に荷物を積んでる様子もなかった。

「いえいえ。私たちも社員旅行感覚ですので。あまりにも楽しそうなので、年に2回くらいはこうした機会を持とうかと思い始めたところです」

といい、お茶をしている5人を見せる。

「ほぉ、お前の所は従業員で旅行するのかっ?」

と興奮気味に言い、ハジメが引き気味に「えぇ」頷くと指を顎に当てて考え込む。

「え、えっと、それで船はいつ到着するんでしょうか。まだ来てはいませんが」

とハジメが問うと、

「だから俺が来たやろ。依頼人がおらんのに進水式は出来んわ。港まで行こうかね」

とモーリーはハジメを急がせる。その光景を見ていたジェフ一家とコウ、リナリーが近づいてくる。

「船が来たよ」

とハジメが言うと全員が不思議そうな顔をしている。それはそうだろう、モーリーは手ぶらなのだから。

ハジメたちは港へ続く扉をあけ海を眼下に見下ろした。

「おぉ、ずいぶん立派な港じゃの。初めて見るの」

と感心していたが皆の船を早くという思いを帯びた目に諦めたようだった。

「そうじゃの。もう少し奥まで下がっておいてくれんか?おぉ、それくらいで良い良い」

「船大工魔法、召喚サモニング

海面にゆっくりと光が陣を描き始め、30秒ほどで完成すると、陣全体が青い光を放ち輝きうっすらと船の形を映し出した。そしてゆっくりと大型な船が姿を実体化させ始める。

「あと数分で進水式が出来るじゃろ。さて、それでは船の名前はどうするかの?」

とモーリーはハジメに向かって言う・・・。ハジメが戸惑っていると、

「船には魂が宿る。名前が無いのは可哀そうやろ?」

とモーリーが言う。

「では、ウガリット、でどうでしょうか?」

ウガリット・・・地中海東岸に位置したとされ、現在のラス・シャムラにあったとされる古代都市で現在の都市のいしずえとなっている。この船もこらから発展してくであろう異世界ラス・シャムラの礎となればいいと思い名付ける。

「ウガリット。海の勇者か。良い名じゃ」

こちらでは勇者の名前らしい・・・。ところ変わればであろう。ハジメがそう思い立ったとき船はその全貌を露わにする。立派で堂々とした佇まいである。ハジメたちが見とれていると、

「船大工魔法、命名クリスミング、ウガリット」

海と川の神ナハルとその愛玩聖獣を船首に配置したウガリットと名付けれらた商船はこうして誕生したのである。
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