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第3章 航路
70.生まれるみたいです
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ハジメの店にも定休日がやってきた。リナリーは冒険者ギルドで依頼を受けるために朝から出かけている。彼女が受けるのは街中のクエストが主であり、専業の冒険者の受けないような低価格の依頼を消化しているのである。その為街に知り合いが増えており、最近では定休日を狙って指名で依頼が入ることもあるらしい。店が開いてる日は彼女の知り合いが訪れることも増えてきている。
また同年代の同性の友達出来たようで、仕事が早く終わった時にはお茶をしたりしている姿を街中で見かけたこともある。
コウは冒険者ギルド受付のマーサとハジメの店の荷物係りのジェフの子であるキルトと一緒に市場へ出かけている。気晴らしがメインであるが、商人としての目を養うためらしい。色々自分で考えて行動できるようになっている。ここ1か月くらい店の一角の小さいワゴンでコウの仕入れて来た品物を売るようになっていた。ハジメの店がポーションをメインで売っているためか、ポーションを持ち運ぶための携帯ウエストポーチなど置いてあり、冒険者たちに好評を得ている。なんでも市場で元革職人と知り合いになり、特注で作って貰ってるらしい。中は家具屋のアーヴィンの妻裁縫師のシラトに頼んでポーションが割れないようにクッションが敷かれていて、少々衝撃があっても割れないようになっている。
2人とも少しずつだが、確実に前を向いて歩き始めていた。独り立ちがもうすぐそこにあるのかもしれないとハジメは思い始めていた。空いている部屋だからというのもあったが、ハジメが引っ越した後、2人を気にかけてくれる人を望んだからでもあった。マーサとジェフにはそのことを伝え承諾を得ている。
そして家にはマーサとジェフ、キルトも一緒に住むようになっている。2階の空き部屋の1部屋を使うようになっていた。
そんな休日。ハジメは藍と陽、舞と航の精霊ズを連れて元マコンの街へ来ていた。明日から市場の建設が始まるため、その下見も兼ねてという意味もあったのだが、ハジメの家、使用人棟が建つ前に他の空き地をどう使うかということも考えたかったのである。カツカツと航が作ってくれた道を歩き、建築予定地まで来る。
「この城壁の向こうってどうなってるんだろ・・・」
ハジメの家が建つ予定の場所の背後にある城壁に手を当ててふと呟く。なんとなく気になったのだ。
「んー。洞窟みたいなのがあるみたい。行ってみる?」
と舞が言う。それに頷くとハジメの体が宙に浮いた。そしてそのまま城壁を飛び越えて街の外へ出た。四方は山に囲まれており、丁度凹を反対にしたような造りになっている。そして地上に降りると正面に闇を湛えた穴がぽっかりと開いている。陽が光を生み出し照らすと少し右へ湾曲して道が奥へ続いている。
「敵対する者はいないようでござる」
航が告げる。5人は中央をハジメとして右前方に藍、その後ろに舞、左前方に陽、その後ろに航が位置して進んでいく。一行が5分ほど進み右の曲がりをまがると更に緩やかに右に湾曲していた。合計10分弱すすむと出口に辿り着く。そこは約20m四方の平地となっており、上は風と雨の浸食により天井はなく太陽光が差し込んでいる。台地には緑が映え、蝶々が飛び交い中心にハジメの家の裏庭にある池の大きさくらいの泉があった。
池の中央にはぽつんと1m四方くらいの陸地があり、そこを中心に太陽光が降り注いでいる。妖精が飛んでいてもおかしくない、なんとも神秘的な雰囲気を持っていた。
その雰囲気に見とれていると、ハジメの瞳からハイライトが消える。それはハジメのマジックバッグから光の石を取り出し錬金術を使い始める。そして瞬く間に3つの台座と1体の女神、2体の男神を作り上げる。その瞬間、ハジメの目に意識が戻る。その瞬間、その空間に静かな男性の声が響く。
『始、感じなさい。これが魔力の使い方です・・・』
ハジメの中で循環していた血液が一気に掌に集まるような感覚がある。気合を入れていないと座り込みそうである。
「て、手が熱い・・・・。これが、本当の魔法・・・?」
『さぁ、始、願いなさい、お前は何を望むのか・・・・』
その声に導かれるままハジメは口を開く。それを聞いた声は静かに告げる。
『・・・良い魂なだけはある・・・。この世界でもきちんと成長している・・・・。知りなさい。世界には、刹那を生きる獣たちと、衝動に支配されているモノたち、希望を生きる者たち、そしてそれらの想いを糧として存在するモノがいる。刹那は喜びを、衝動は力を、希望は全ての想いを、糧とするものは世界を司ると知りない。生きなさい。行きなさい。お前は私たちの子なのだから』
1体の冷たい瞳を湛えた男神の像が澄んだ虹色に輝き、光の粒になり消えていく。像が消え去った後ハジメたちが入ってきた路を背に左奥に一本の柱が地下から伸びる。ハジメの身長のおよそ3倍ほどでその動きは止まる。
『知れ、始。静は動へと繋がる。動は静を以って初めて成し遂げられるのだ。力を望まないお前は力を持て』
続けて猛々しい男神像が浮かび上がり先ほどと同じように輝き、ほろほろと消え去ると右手前から柱が伸びて止まる。そして最後の女神像が同じように輝く。
『始さん。ここへ育った精霊の木を・・・』
あの時聞いた鈴がコロコロとなるような、それでいて威厳のあるような懐かしい声がした。
「アマテラス様・・・?」
『えぇ。お久しぶりですね。ツクヨミが言ったように本当に健やかに育ってくれていますね・・・。さぁ、ツクヨミとタテハヤが待っています。始さんの育てた精霊の木をここへ・・・』
ハジメは言われるがまま先ほどの冷たい瞳の男神が教えてくれたように血液を集める。脚の先から頭、身体を流れる全てのモノを掌へ。ツクヨミが教えてくれたように希望を込めて、願いを込めて、想像する。タテハヤも言った。学びは行動へ移ると。
「精霊の木。我は汝を呼ぶものなり」
その瞬間、ハジメの裏庭にあった精霊の木が目の前に浮かんでいた。
『よく理解しましたね。それがあなた方の力』
アマテラスが優しく言う。そして
『希望を司りし者が育てた世界を織りなす木』
『希望が宿りしその姿を今定めん』
『我ら異界の神が認めよう』
『『『さぁ、その姿を受け入れよ』』』
3柱の神の声が重なる。
池の中央にあった小さな陸地に精霊の木が静かにその根を下ろし、その姿はどんどん小さくなり、ユドルに貰った時の棒のようになった。
「精霊の木が、世界樹の苗木へとその姿を変えたのです」
不意に後ろから声が掛かる。ハジメが振り返るとそこにはこの世界の主神アーシラトが立っていた。その後ろに会ったことのない眼鏡を掛けた青年が立っていた。そしてその後ろには片膝をつき、頭を垂れているハジメの仲間の4人の精霊と、飄々と立っているスクナヒコが居た。
「世界樹は希望の象徴。何人も害することはできません。させません」
とアーシラトが言うと
『『『『『ここは聖域。何人も入ることを能わず』』』』』
青年と4柱の声が重なると右奥と左手前に柱がずずっと生まれ、元からある柱と同じ高さまで上がる。
『『『『『聖域結界』』』』』
どうやら一見どこにでもいる風貌の青年も神様の1柱らしいとハジメは思った。
ハジメたちは元マコンの街まで戻り、屋敷建築予定地にピクニックシートを敷き、座り込んでティータイムをしていた。アーシラトはスクナヒコやナハルの様に頻回にこの世界に降り立つことは出来ない。今回は世界樹という超重要案件であったために来たのであった。折角ならとティーパーティーを開くことになったのである。アーシラトの希望もあったが、もてなす習慣のある日本人のハジメならではの感覚である。青年も嬉しそうな顔をしながら参加している。勿論スクナヒコも座している。
「ハジメさんですね、初めましてー。アーシラトの夫で常世の管理者のスクラドでーす。よろぴくー」
外見は凄く真面目そうなのに、発言はなんかチャラい。しかも昭和臭を感じる。そこへスクナヒコがそっと顔を寄せて、
「な、常世で一番偉いのにチャラいだろ?面白いだろ?」
と言ってくる。そんなことよりも幼女女神であるアーシラトに夫がいた事実の方が驚愕である。スクラドはチャラい上にロリコンなのである。どうしても彼を見る目が冷めてしまう。
「あ、その目は誤解してるなー。僕は年下夫だからねー」
とか爆弾発言をしてくる。アーシラトに視線を送れないが、絶対に怒りオーラが出ているはずである。
「そ、それで結界を張るためにわざわざこちらへ降りて来たのですか?」
大人の閑話休題でスクラドをするっとスルーして、アーシラトへ話を振る。ご機嫌伺い目的も入っているが。
「えぇ。昨日アマテラス様がおいでくださいまして、今日世界樹へと昇華させるとお話がありまして」
そう言いながら、右手でスクラドの脇腹をつねり上げている。勿論見なかったことにしたハジメである。しかしそれを意に介さずスクラドが続ける。
「聖域結界は実体がないと張れないからねー」
「でも、アマテラス様、ツクヨミ様、タテハヤ様は居ませんでしたけど?」
と普通に返すハジメ。
「居たよぉー」
「ハジメさんが作った像が異界の神々の依り代となり、実体となったのです。神の力を行使したために耐えられず消滅しましたが」
チャラいスクラドの口をつねり上げ、アーシラトが続ける。なんだかんだと仲の良い夫婦なのかもしれない。2柱は頭を下げ、
「世界樹は・・・」
アーシラトは言葉を詰まらせる。
「世界樹はこの世界の神の願いであった。全てを調和しこの世界を安定させる」
スクラドが続ける。
「世界樹は世界の始まりだが、世界樹は世界でしか誕生できない。矛盾の上に成り立っている存在」
急に真面目な顔をして話始めるスクラド。
「つまり世界樹は世界を生み出すために必要だけど、その世界がないと誕生できないと?」
「そう。だから我々神はその力で世界を作り、維持する。そして世界樹の誕生を望む。これまでは神の力でその存在があったこの世界はこれからは世界樹によって守られ育てられていく。まぁ、あと数万年は、世界樹が完全に働き始めるまでは手助けが必要だけどねー」
真面目な顔でチャラくなるのはいかがなものだろうか。
「ハジメさん。貴方のお陰で世界樹の苗は生まれました。苗が大木へと育つにつれて私たちは力の余裕を手に入れることができるのです。本当に感謝の言葉しか出てきません。ありがとうございました。さて、私たちはこれで失礼することにします。出来れば・・・。出来ればまたお会いした時もう一度お茶を」
とアーシラトは告げ、帰りたくないとだだをコネ続ける夫の首を右手でしっかりホールドして姿を消していった。そしてその場に残ったのは精霊ズと笑い転げているスクナヒコだけである。
「ひぃーーー。面白い・・・。死んじゃう・・・・。トップなのにあの醜態」
と息も絶え絶えに藻掻いている。その様子を冷めた目でハジメは見ていた。数分後落ち着きを取り戻したスクナヒコは
「あぁ、数千年ぶりの地上なのに相変わらずあの・・・」
そこまで言ってまた笑い始める。更に数分後
「あぁ。笑った笑った。さて、僕もそろそろお暇するね」
と涙を拭きながらその姿を消した。その瞬間
「もー。神様のトップが揃うなんて、存在が消えるかと思ったわー」
と舞が息を吐きながら言う。藍も
「本当に・・・。しっかり抵抗してないと、危ないところでした・・・」
と言い小さくため息を付く。
「皆さんまだ上級精霊になったばかりですからね。こればっかりは慣れるしかありません」
と太陽神の元配下であった陽は額の汗を涼しい顔で拭っている。能面を被っていると思うほどあまり表情の変化のない彼にしては珍しい。それほど2人の圧があったのかとハジメは改めて思う。航は片膝をついたままピクリともしてないのは凄いんだなと思っていると、
「|舞、航が薄くなっているようです」
と陽が言うや否や舞は背後から航の脳天に踵堕としをした。
「急に存在が薄くなっていって・・・。危ないところでござった」
幽霊かと思うほどに背景が見えるほどに薄くなっていた姿が元に戻った航が座り込みながら言った。
ハンドブック 12項目目
12-9.世界樹を生み出そう:Clear!
また同年代の同性の友達出来たようで、仕事が早く終わった時にはお茶をしたりしている姿を街中で見かけたこともある。
コウは冒険者ギルド受付のマーサとハジメの店の荷物係りのジェフの子であるキルトと一緒に市場へ出かけている。気晴らしがメインであるが、商人としての目を養うためらしい。色々自分で考えて行動できるようになっている。ここ1か月くらい店の一角の小さいワゴンでコウの仕入れて来た品物を売るようになっていた。ハジメの店がポーションをメインで売っているためか、ポーションを持ち運ぶための携帯ウエストポーチなど置いてあり、冒険者たちに好評を得ている。なんでも市場で元革職人と知り合いになり、特注で作って貰ってるらしい。中は家具屋のアーヴィンの妻裁縫師のシラトに頼んでポーションが割れないようにクッションが敷かれていて、少々衝撃があっても割れないようになっている。
2人とも少しずつだが、確実に前を向いて歩き始めていた。独り立ちがもうすぐそこにあるのかもしれないとハジメは思い始めていた。空いている部屋だからというのもあったが、ハジメが引っ越した後、2人を気にかけてくれる人を望んだからでもあった。マーサとジェフにはそのことを伝え承諾を得ている。
そして家にはマーサとジェフ、キルトも一緒に住むようになっている。2階の空き部屋の1部屋を使うようになっていた。
そんな休日。ハジメは藍と陽、舞と航の精霊ズを連れて元マコンの街へ来ていた。明日から市場の建設が始まるため、その下見も兼ねてという意味もあったのだが、ハジメの家、使用人棟が建つ前に他の空き地をどう使うかということも考えたかったのである。カツカツと航が作ってくれた道を歩き、建築予定地まで来る。
「この城壁の向こうってどうなってるんだろ・・・」
ハジメの家が建つ予定の場所の背後にある城壁に手を当ててふと呟く。なんとなく気になったのだ。
「んー。洞窟みたいなのがあるみたい。行ってみる?」
と舞が言う。それに頷くとハジメの体が宙に浮いた。そしてそのまま城壁を飛び越えて街の外へ出た。四方は山に囲まれており、丁度凹を反対にしたような造りになっている。そして地上に降りると正面に闇を湛えた穴がぽっかりと開いている。陽が光を生み出し照らすと少し右へ湾曲して道が奥へ続いている。
「敵対する者はいないようでござる」
航が告げる。5人は中央をハジメとして右前方に藍、その後ろに舞、左前方に陽、その後ろに航が位置して進んでいく。一行が5分ほど進み右の曲がりをまがると更に緩やかに右に湾曲していた。合計10分弱すすむと出口に辿り着く。そこは約20m四方の平地となっており、上は風と雨の浸食により天井はなく太陽光が差し込んでいる。台地には緑が映え、蝶々が飛び交い中心にハジメの家の裏庭にある池の大きさくらいの泉があった。
池の中央にはぽつんと1m四方くらいの陸地があり、そこを中心に太陽光が降り注いでいる。妖精が飛んでいてもおかしくない、なんとも神秘的な雰囲気を持っていた。
その雰囲気に見とれていると、ハジメの瞳からハイライトが消える。それはハジメのマジックバッグから光の石を取り出し錬金術を使い始める。そして瞬く間に3つの台座と1体の女神、2体の男神を作り上げる。その瞬間、ハジメの目に意識が戻る。その瞬間、その空間に静かな男性の声が響く。
『始、感じなさい。これが魔力の使い方です・・・』
ハジメの中で循環していた血液が一気に掌に集まるような感覚がある。気合を入れていないと座り込みそうである。
「て、手が熱い・・・・。これが、本当の魔法・・・?」
『さぁ、始、願いなさい、お前は何を望むのか・・・・』
その声に導かれるままハジメは口を開く。それを聞いた声は静かに告げる。
『・・・良い魂なだけはある・・・。この世界でもきちんと成長している・・・・。知りなさい。世界には、刹那を生きる獣たちと、衝動に支配されているモノたち、希望を生きる者たち、そしてそれらの想いを糧として存在するモノがいる。刹那は喜びを、衝動は力を、希望は全ての想いを、糧とするものは世界を司ると知りない。生きなさい。行きなさい。お前は私たちの子なのだから』
1体の冷たい瞳を湛えた男神の像が澄んだ虹色に輝き、光の粒になり消えていく。像が消え去った後ハジメたちが入ってきた路を背に左奥に一本の柱が地下から伸びる。ハジメの身長のおよそ3倍ほどでその動きは止まる。
『知れ、始。静は動へと繋がる。動は静を以って初めて成し遂げられるのだ。力を望まないお前は力を持て』
続けて猛々しい男神像が浮かび上がり先ほどと同じように輝き、ほろほろと消え去ると右手前から柱が伸びて止まる。そして最後の女神像が同じように輝く。
『始さん。ここへ育った精霊の木を・・・』
あの時聞いた鈴がコロコロとなるような、それでいて威厳のあるような懐かしい声がした。
「アマテラス様・・・?」
『えぇ。お久しぶりですね。ツクヨミが言ったように本当に健やかに育ってくれていますね・・・。さぁ、ツクヨミとタテハヤが待っています。始さんの育てた精霊の木をここへ・・・』
ハジメは言われるがまま先ほどの冷たい瞳の男神が教えてくれたように血液を集める。脚の先から頭、身体を流れる全てのモノを掌へ。ツクヨミが教えてくれたように希望を込めて、願いを込めて、想像する。タテハヤも言った。学びは行動へ移ると。
「精霊の木。我は汝を呼ぶものなり」
その瞬間、ハジメの裏庭にあった精霊の木が目の前に浮かんでいた。
『よく理解しましたね。それがあなた方の力』
アマテラスが優しく言う。そして
『希望を司りし者が育てた世界を織りなす木』
『希望が宿りしその姿を今定めん』
『我ら異界の神が認めよう』
『『『さぁ、その姿を受け入れよ』』』
3柱の神の声が重なる。
池の中央にあった小さな陸地に精霊の木が静かにその根を下ろし、その姿はどんどん小さくなり、ユドルに貰った時の棒のようになった。
「精霊の木が、世界樹の苗木へとその姿を変えたのです」
不意に後ろから声が掛かる。ハジメが振り返るとそこにはこの世界の主神アーシラトが立っていた。その後ろに会ったことのない眼鏡を掛けた青年が立っていた。そしてその後ろには片膝をつき、頭を垂れているハジメの仲間の4人の精霊と、飄々と立っているスクナヒコが居た。
「世界樹は希望の象徴。何人も害することはできません。させません」
とアーシラトが言うと
『『『『『ここは聖域。何人も入ることを能わず』』』』』
青年と4柱の声が重なると右奥と左手前に柱がずずっと生まれ、元からある柱と同じ高さまで上がる。
『『『『『聖域結界』』』』』
どうやら一見どこにでもいる風貌の青年も神様の1柱らしいとハジメは思った。
ハジメたちは元マコンの街まで戻り、屋敷建築予定地にピクニックシートを敷き、座り込んでティータイムをしていた。アーシラトはスクナヒコやナハルの様に頻回にこの世界に降り立つことは出来ない。今回は世界樹という超重要案件であったために来たのであった。折角ならとティーパーティーを開くことになったのである。アーシラトの希望もあったが、もてなす習慣のある日本人のハジメならではの感覚である。青年も嬉しそうな顔をしながら参加している。勿論スクナヒコも座している。
「ハジメさんですね、初めましてー。アーシラトの夫で常世の管理者のスクラドでーす。よろぴくー」
外見は凄く真面目そうなのに、発言はなんかチャラい。しかも昭和臭を感じる。そこへスクナヒコがそっと顔を寄せて、
「な、常世で一番偉いのにチャラいだろ?面白いだろ?」
と言ってくる。そんなことよりも幼女女神であるアーシラトに夫がいた事実の方が驚愕である。スクラドはチャラい上にロリコンなのである。どうしても彼を見る目が冷めてしまう。
「あ、その目は誤解してるなー。僕は年下夫だからねー」
とか爆弾発言をしてくる。アーシラトに視線を送れないが、絶対に怒りオーラが出ているはずである。
「そ、それで結界を張るためにわざわざこちらへ降りて来たのですか?」
大人の閑話休題でスクラドをするっとスルーして、アーシラトへ話を振る。ご機嫌伺い目的も入っているが。
「えぇ。昨日アマテラス様がおいでくださいまして、今日世界樹へと昇華させるとお話がありまして」
そう言いながら、右手でスクラドの脇腹をつねり上げている。勿論見なかったことにしたハジメである。しかしそれを意に介さずスクラドが続ける。
「聖域結界は実体がないと張れないからねー」
「でも、アマテラス様、ツクヨミ様、タテハヤ様は居ませんでしたけど?」
と普通に返すハジメ。
「居たよぉー」
「ハジメさんが作った像が異界の神々の依り代となり、実体となったのです。神の力を行使したために耐えられず消滅しましたが」
チャラいスクラドの口をつねり上げ、アーシラトが続ける。なんだかんだと仲の良い夫婦なのかもしれない。2柱は頭を下げ、
「世界樹は・・・」
アーシラトは言葉を詰まらせる。
「世界樹はこの世界の神の願いであった。全てを調和しこの世界を安定させる」
スクラドが続ける。
「世界樹は世界の始まりだが、世界樹は世界でしか誕生できない。矛盾の上に成り立っている存在」
急に真面目な顔をして話始めるスクラド。
「つまり世界樹は世界を生み出すために必要だけど、その世界がないと誕生できないと?」
「そう。だから我々神はその力で世界を作り、維持する。そして世界樹の誕生を望む。これまでは神の力でその存在があったこの世界はこれからは世界樹によって守られ育てられていく。まぁ、あと数万年は、世界樹が完全に働き始めるまでは手助けが必要だけどねー」
真面目な顔でチャラくなるのはいかがなものだろうか。
「ハジメさん。貴方のお陰で世界樹の苗は生まれました。苗が大木へと育つにつれて私たちは力の余裕を手に入れることができるのです。本当に感謝の言葉しか出てきません。ありがとうございました。さて、私たちはこれで失礼することにします。出来れば・・・。出来ればまたお会いした時もう一度お茶を」
とアーシラトは告げ、帰りたくないとだだをコネ続ける夫の首を右手でしっかりホールドして姿を消していった。そしてその場に残ったのは精霊ズと笑い転げているスクナヒコだけである。
「ひぃーーー。面白い・・・。死んじゃう・・・・。トップなのにあの醜態」
と息も絶え絶えに藻掻いている。その様子を冷めた目でハジメは見ていた。数分後落ち着きを取り戻したスクナヒコは
「あぁ、数千年ぶりの地上なのに相変わらずあの・・・」
そこまで言ってまた笑い始める。更に数分後
「あぁ。笑った笑った。さて、僕もそろそろお暇するね」
と涙を拭きながらその姿を消した。その瞬間
「もー。神様のトップが揃うなんて、存在が消えるかと思ったわー」
と舞が息を吐きながら言う。藍も
「本当に・・・。しっかり抵抗してないと、危ないところでした・・・」
と言い小さくため息を付く。
「皆さんまだ上級精霊になったばかりですからね。こればっかりは慣れるしかありません」
と太陽神の元配下であった陽は額の汗を涼しい顔で拭っている。能面を被っていると思うほどあまり表情の変化のない彼にしては珍しい。それほど2人の圧があったのかとハジメは改めて思う。航は片膝をついたままピクリともしてないのは凄いんだなと思っていると、
「|舞、航が薄くなっているようです」
と陽が言うや否や舞は背後から航の脳天に踵堕としをした。
「急に存在が薄くなっていって・・・。危ないところでござった」
幽霊かと思うほどに背景が見えるほどに薄くなっていた姿が元に戻った航が座り込みながら言った。
ハンドブック 12項目目
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