77 / 173
第3章 航路
70.生まれるみたいです
しおりを挟む
ハジメの店にも定休日がやってきた。リナリーは冒険者ギルドで依頼を受けるために朝から出かけている。彼女が受けるのは街中のクエストが主であり、専業の冒険者の受けないような低価格の依頼を消化しているのである。その為街に知り合いが増えており、最近では定休日を狙って指名で依頼が入ることもあるらしい。店が開いてる日は彼女の知り合いが訪れることも増えてきている。
また同年代の同性の友達出来たようで、仕事が早く終わった時にはお茶をしたりしている姿を街中で見かけたこともある。
コウは冒険者ギルド受付のマーサとハジメの店の荷物係りのジェフの子であるキルトと一緒に市場へ出かけている。気晴らしがメインであるが、商人としての目を養うためらしい。色々自分で考えて行動できるようになっている。ここ1か月くらい店の一角の小さいワゴンでコウの仕入れて来た品物を売るようになっていた。ハジメの店がポーションをメインで売っているためか、ポーションを持ち運ぶための携帯ウエストポーチなど置いてあり、冒険者たちに好評を得ている。なんでも市場で元革職人と知り合いになり、特注で作って貰ってるらしい。中は家具屋のアーヴィンの妻裁縫師のシラトに頼んでポーションが割れないようにクッションが敷かれていて、少々衝撃があっても割れないようになっている。
2人とも少しずつだが、確実に前を向いて歩き始めていた。独り立ちがもうすぐそこにあるのかもしれないとハジメは思い始めていた。空いている部屋だからというのもあったが、ハジメが引っ越した後、2人を気にかけてくれる人を望んだからでもあった。マーサとジェフにはそのことを伝え承諾を得ている。
そして家にはマーサとジェフ、キルトも一緒に住むようになっている。2階の空き部屋の1部屋を使うようになっていた。
そんな休日。ハジメは藍と陽、舞と航の精霊ズを連れて元マコンの街へ来ていた。明日から市場の建設が始まるため、その下見も兼ねてという意味もあったのだが、ハジメの家、使用人棟が建つ前に他の空き地をどう使うかということも考えたかったのである。カツカツと航が作ってくれた道を歩き、建築予定地まで来る。
「この城壁の向こうってどうなってるんだろ・・・」
ハジメの家が建つ予定の場所の背後にある城壁に手を当ててふと呟く。なんとなく気になったのだ。
「んー。洞窟みたいなのがあるみたい。行ってみる?」
と舞が言う。それに頷くとハジメの体が宙に浮いた。そしてそのまま城壁を飛び越えて街の外へ出た。四方は山に囲まれており、丁度凹を反対にしたような造りになっている。そして地上に降りると正面に闇を湛えた穴がぽっかりと開いている。陽が光を生み出し照らすと少し右へ湾曲して道が奥へ続いている。
「敵対する者はいないようでござる」
航が告げる。5人は中央をハジメとして右前方に藍、その後ろに舞、左前方に陽、その後ろに航が位置して進んでいく。一行が5分ほど進み右の曲がりをまがると更に緩やかに右に湾曲していた。合計10分弱すすむと出口に辿り着く。そこは約20m四方の平地となっており、上は風と雨の浸食により天井はなく太陽光が差し込んでいる。台地には緑が映え、蝶々が飛び交い中心にハジメの家の裏庭にある池の大きさくらいの泉があった。
池の中央にはぽつんと1m四方くらいの陸地があり、そこを中心に太陽光が降り注いでいる。妖精が飛んでいてもおかしくない、なんとも神秘的な雰囲気を持っていた。
その雰囲気に見とれていると、ハジメの瞳からハイライトが消える。それはハジメのマジックバッグから光の石を取り出し錬金術を使い始める。そして瞬く間に3つの台座と1体の女神、2体の男神を作り上げる。その瞬間、ハジメの目に意識が戻る。その瞬間、その空間に静かな男性の声が響く。
『始、感じなさい。これが魔力の使い方です・・・』
ハジメの中で循環していた血液が一気に掌に集まるような感覚がある。気合を入れていないと座り込みそうである。
「て、手が熱い・・・・。これが、本当の魔法・・・?」
『さぁ、始、願いなさい、お前は何を望むのか・・・・』
その声に導かれるままハジメは口を開く。それを聞いた声は静かに告げる。
『・・・良い魂なだけはある・・・。この世界でもきちんと成長している・・・・。知りなさい。世界には、刹那を生きる獣たちと、衝動に支配されているモノたち、希望を生きる者たち、そしてそれらの想いを糧として存在するモノがいる。刹那は喜びを、衝動は力を、希望は全ての想いを、糧とするものは世界を司ると知りない。生きなさい。行きなさい。お前は私たちの子なのだから』
1体の冷たい瞳を湛えた男神の像が澄んだ虹色に輝き、光の粒になり消えていく。像が消え去った後ハジメたちが入ってきた路を背に左奥に一本の柱が地下から伸びる。ハジメの身長のおよそ3倍ほどでその動きは止まる。
『知れ、始。静は動へと繋がる。動は静を以って初めて成し遂げられるのだ。力を望まないお前は力を持て』
続けて猛々しい男神像が浮かび上がり先ほどと同じように輝き、ほろほろと消え去ると右手前から柱が伸びて止まる。そして最後の女神像が同じように輝く。
『始さん。ここへ育った精霊の木を・・・』
あの時聞いた鈴がコロコロとなるような、それでいて威厳のあるような懐かしい声がした。
「アマテラス様・・・?」
『えぇ。お久しぶりですね。ツクヨミが言ったように本当に健やかに育ってくれていますね・・・。さぁ、ツクヨミとタテハヤが待っています。始さんの育てた精霊の木をここへ・・・』
ハジメは言われるがまま先ほどの冷たい瞳の男神が教えてくれたように血液を集める。脚の先から頭、身体を流れる全てのモノを掌へ。ツクヨミが教えてくれたように希望を込めて、願いを込めて、想像する。タテハヤも言った。学びは行動へ移ると。
「精霊の木。我は汝を呼ぶものなり」
その瞬間、ハジメの裏庭にあった精霊の木が目の前に浮かんでいた。
『よく理解しましたね。それがあなた方の力』
アマテラスが優しく言う。そして
『希望を司りし者が育てた世界を織りなす木』
『希望が宿りしその姿を今定めん』
『我ら異界の神が認めよう』
『『『さぁ、その姿を受け入れよ』』』
3柱の神の声が重なる。
池の中央にあった小さな陸地に精霊の木が静かにその根を下ろし、その姿はどんどん小さくなり、ユドルに貰った時の棒のようになった。
「精霊の木が、世界樹の苗木へとその姿を変えたのです」
不意に後ろから声が掛かる。ハジメが振り返るとそこにはこの世界の主神アーシラトが立っていた。その後ろに会ったことのない眼鏡を掛けた青年が立っていた。そしてその後ろには片膝をつき、頭を垂れているハジメの仲間の4人の精霊と、飄々と立っているスクナヒコが居た。
「世界樹は希望の象徴。何人も害することはできません。させません」
とアーシラトが言うと
『『『『『ここは聖域。何人も入ることを能わず』』』』』
青年と4柱の声が重なると右奥と左手前に柱がずずっと生まれ、元からある柱と同じ高さまで上がる。
『『『『『聖域結界』』』』』
どうやら一見どこにでもいる風貌の青年も神様の1柱らしいとハジメは思った。
ハジメたちは元マコンの街まで戻り、屋敷建築予定地にピクニックシートを敷き、座り込んでティータイムをしていた。アーシラトはスクナヒコやナハルの様に頻回にこの世界に降り立つことは出来ない。今回は世界樹という超重要案件であったために来たのであった。折角ならとティーパーティーを開くことになったのである。アーシラトの希望もあったが、もてなす習慣のある日本人のハジメならではの感覚である。青年も嬉しそうな顔をしながら参加している。勿論スクナヒコも座している。
「ハジメさんですね、初めましてー。アーシラトの夫で常世の管理者のスクラドでーす。よろぴくー」
外見は凄く真面目そうなのに、発言はなんかチャラい。しかも昭和臭を感じる。そこへスクナヒコがそっと顔を寄せて、
「な、常世で一番偉いのにチャラいだろ?面白いだろ?」
と言ってくる。そんなことよりも幼女女神であるアーシラトに夫がいた事実の方が驚愕である。スクラドはチャラい上にロリコンなのである。どうしても彼を見る目が冷めてしまう。
「あ、その目は誤解してるなー。僕は年下夫だからねー」
とか爆弾発言をしてくる。アーシラトに視線を送れないが、絶対に怒りオーラが出ているはずである。
「そ、それで結界を張るためにわざわざこちらへ降りて来たのですか?」
大人の閑話休題でスクラドをするっとスルーして、アーシラトへ話を振る。ご機嫌伺い目的も入っているが。
「えぇ。昨日アマテラス様がおいでくださいまして、今日世界樹へと昇華させるとお話がありまして」
そう言いながら、右手でスクラドの脇腹をつねり上げている。勿論見なかったことにしたハジメである。しかしそれを意に介さずスクラドが続ける。
「聖域結界は実体がないと張れないからねー」
「でも、アマテラス様、ツクヨミ様、タテハヤ様は居ませんでしたけど?」
と普通に返すハジメ。
「居たよぉー」
「ハジメさんが作った像が異界の神々の依り代となり、実体となったのです。神の力を行使したために耐えられず消滅しましたが」
チャラいスクラドの口をつねり上げ、アーシラトが続ける。なんだかんだと仲の良い夫婦なのかもしれない。2柱は頭を下げ、
「世界樹は・・・」
アーシラトは言葉を詰まらせる。
「世界樹はこの世界の神の願いであった。全てを調和しこの世界を安定させる」
スクラドが続ける。
「世界樹は世界の始まりだが、世界樹は世界でしか誕生できない。矛盾の上に成り立っている存在」
急に真面目な顔をして話始めるスクラド。
「つまり世界樹は世界を生み出すために必要だけど、その世界がないと誕生できないと?」
「そう。だから我々神はその力で世界を作り、維持する。そして世界樹の誕生を望む。これまでは神の力でその存在があったこの世界はこれからは世界樹によって守られ育てられていく。まぁ、あと数万年は、世界樹が完全に働き始めるまでは手助けが必要だけどねー」
真面目な顔でチャラくなるのはいかがなものだろうか。
「ハジメさん。貴方のお陰で世界樹の苗は生まれました。苗が大木へと育つにつれて私たちは力の余裕を手に入れることができるのです。本当に感謝の言葉しか出てきません。ありがとうございました。さて、私たちはこれで失礼することにします。出来れば・・・。出来ればまたお会いした時もう一度お茶を」
とアーシラトは告げ、帰りたくないとだだをコネ続ける夫の首を右手でしっかりホールドして姿を消していった。そしてその場に残ったのは精霊ズと笑い転げているスクナヒコだけである。
「ひぃーーー。面白い・・・。死んじゃう・・・・。トップなのにあの醜態」
と息も絶え絶えに藻掻いている。その様子を冷めた目でハジメは見ていた。数分後落ち着きを取り戻したスクナヒコは
「あぁ、数千年ぶりの地上なのに相変わらずあの・・・」
そこまで言ってまた笑い始める。更に数分後
「あぁ。笑った笑った。さて、僕もそろそろお暇するね」
と涙を拭きながらその姿を消した。その瞬間
「もー。神様のトップが揃うなんて、存在が消えるかと思ったわー」
と舞が息を吐きながら言う。藍も
「本当に・・・。しっかり抵抗してないと、危ないところでした・・・」
と言い小さくため息を付く。
「皆さんまだ上級精霊になったばかりですからね。こればっかりは慣れるしかありません」
と太陽神の元配下であった陽は額の汗を涼しい顔で拭っている。能面を被っていると思うほどあまり表情の変化のない彼にしては珍しい。それほど2人の圧があったのかとハジメは改めて思う。航は片膝をついたままピクリともしてないのは凄いんだなと思っていると、
「|舞、航が薄くなっているようです」
と陽が言うや否や舞は背後から航の脳天に踵堕としをした。
「急に存在が薄くなっていって・・・。危ないところでござった」
幽霊かと思うほどに背景が見えるほどに薄くなっていた姿が元に戻った航が座り込みながら言った。
ハンドブック 12項目目
12-9.世界樹を生み出そう:Clear!
また同年代の同性の友達出来たようで、仕事が早く終わった時にはお茶をしたりしている姿を街中で見かけたこともある。
コウは冒険者ギルド受付のマーサとハジメの店の荷物係りのジェフの子であるキルトと一緒に市場へ出かけている。気晴らしがメインであるが、商人としての目を養うためらしい。色々自分で考えて行動できるようになっている。ここ1か月くらい店の一角の小さいワゴンでコウの仕入れて来た品物を売るようになっていた。ハジメの店がポーションをメインで売っているためか、ポーションを持ち運ぶための携帯ウエストポーチなど置いてあり、冒険者たちに好評を得ている。なんでも市場で元革職人と知り合いになり、特注で作って貰ってるらしい。中は家具屋のアーヴィンの妻裁縫師のシラトに頼んでポーションが割れないようにクッションが敷かれていて、少々衝撃があっても割れないようになっている。
2人とも少しずつだが、確実に前を向いて歩き始めていた。独り立ちがもうすぐそこにあるのかもしれないとハジメは思い始めていた。空いている部屋だからというのもあったが、ハジメが引っ越した後、2人を気にかけてくれる人を望んだからでもあった。マーサとジェフにはそのことを伝え承諾を得ている。
そして家にはマーサとジェフ、キルトも一緒に住むようになっている。2階の空き部屋の1部屋を使うようになっていた。
そんな休日。ハジメは藍と陽、舞と航の精霊ズを連れて元マコンの街へ来ていた。明日から市場の建設が始まるため、その下見も兼ねてという意味もあったのだが、ハジメの家、使用人棟が建つ前に他の空き地をどう使うかということも考えたかったのである。カツカツと航が作ってくれた道を歩き、建築予定地まで来る。
「この城壁の向こうってどうなってるんだろ・・・」
ハジメの家が建つ予定の場所の背後にある城壁に手を当ててふと呟く。なんとなく気になったのだ。
「んー。洞窟みたいなのがあるみたい。行ってみる?」
と舞が言う。それに頷くとハジメの体が宙に浮いた。そしてそのまま城壁を飛び越えて街の外へ出た。四方は山に囲まれており、丁度凹を反対にしたような造りになっている。そして地上に降りると正面に闇を湛えた穴がぽっかりと開いている。陽が光を生み出し照らすと少し右へ湾曲して道が奥へ続いている。
「敵対する者はいないようでござる」
航が告げる。5人は中央をハジメとして右前方に藍、その後ろに舞、左前方に陽、その後ろに航が位置して進んでいく。一行が5分ほど進み右の曲がりをまがると更に緩やかに右に湾曲していた。合計10分弱すすむと出口に辿り着く。そこは約20m四方の平地となっており、上は風と雨の浸食により天井はなく太陽光が差し込んでいる。台地には緑が映え、蝶々が飛び交い中心にハジメの家の裏庭にある池の大きさくらいの泉があった。
池の中央にはぽつんと1m四方くらいの陸地があり、そこを中心に太陽光が降り注いでいる。妖精が飛んでいてもおかしくない、なんとも神秘的な雰囲気を持っていた。
その雰囲気に見とれていると、ハジメの瞳からハイライトが消える。それはハジメのマジックバッグから光の石を取り出し錬金術を使い始める。そして瞬く間に3つの台座と1体の女神、2体の男神を作り上げる。その瞬間、ハジメの目に意識が戻る。その瞬間、その空間に静かな男性の声が響く。
『始、感じなさい。これが魔力の使い方です・・・』
ハジメの中で循環していた血液が一気に掌に集まるような感覚がある。気合を入れていないと座り込みそうである。
「て、手が熱い・・・・。これが、本当の魔法・・・?」
『さぁ、始、願いなさい、お前は何を望むのか・・・・』
その声に導かれるままハジメは口を開く。それを聞いた声は静かに告げる。
『・・・良い魂なだけはある・・・。この世界でもきちんと成長している・・・・。知りなさい。世界には、刹那を生きる獣たちと、衝動に支配されているモノたち、希望を生きる者たち、そしてそれらの想いを糧として存在するモノがいる。刹那は喜びを、衝動は力を、希望は全ての想いを、糧とするものは世界を司ると知りない。生きなさい。行きなさい。お前は私たちの子なのだから』
1体の冷たい瞳を湛えた男神の像が澄んだ虹色に輝き、光の粒になり消えていく。像が消え去った後ハジメたちが入ってきた路を背に左奥に一本の柱が地下から伸びる。ハジメの身長のおよそ3倍ほどでその動きは止まる。
『知れ、始。静は動へと繋がる。動は静を以って初めて成し遂げられるのだ。力を望まないお前は力を持て』
続けて猛々しい男神像が浮かび上がり先ほどと同じように輝き、ほろほろと消え去ると右手前から柱が伸びて止まる。そして最後の女神像が同じように輝く。
『始さん。ここへ育った精霊の木を・・・』
あの時聞いた鈴がコロコロとなるような、それでいて威厳のあるような懐かしい声がした。
「アマテラス様・・・?」
『えぇ。お久しぶりですね。ツクヨミが言ったように本当に健やかに育ってくれていますね・・・。さぁ、ツクヨミとタテハヤが待っています。始さんの育てた精霊の木をここへ・・・』
ハジメは言われるがまま先ほどの冷たい瞳の男神が教えてくれたように血液を集める。脚の先から頭、身体を流れる全てのモノを掌へ。ツクヨミが教えてくれたように希望を込めて、願いを込めて、想像する。タテハヤも言った。学びは行動へ移ると。
「精霊の木。我は汝を呼ぶものなり」
その瞬間、ハジメの裏庭にあった精霊の木が目の前に浮かんでいた。
『よく理解しましたね。それがあなた方の力』
アマテラスが優しく言う。そして
『希望を司りし者が育てた世界を織りなす木』
『希望が宿りしその姿を今定めん』
『我ら異界の神が認めよう』
『『『さぁ、その姿を受け入れよ』』』
3柱の神の声が重なる。
池の中央にあった小さな陸地に精霊の木が静かにその根を下ろし、その姿はどんどん小さくなり、ユドルに貰った時の棒のようになった。
「精霊の木が、世界樹の苗木へとその姿を変えたのです」
不意に後ろから声が掛かる。ハジメが振り返るとそこにはこの世界の主神アーシラトが立っていた。その後ろに会ったことのない眼鏡を掛けた青年が立っていた。そしてその後ろには片膝をつき、頭を垂れているハジメの仲間の4人の精霊と、飄々と立っているスクナヒコが居た。
「世界樹は希望の象徴。何人も害することはできません。させません」
とアーシラトが言うと
『『『『『ここは聖域。何人も入ることを能わず』』』』』
青年と4柱の声が重なると右奥と左手前に柱がずずっと生まれ、元からある柱と同じ高さまで上がる。
『『『『『聖域結界』』』』』
どうやら一見どこにでもいる風貌の青年も神様の1柱らしいとハジメは思った。
ハジメたちは元マコンの街まで戻り、屋敷建築予定地にピクニックシートを敷き、座り込んでティータイムをしていた。アーシラトはスクナヒコやナハルの様に頻回にこの世界に降り立つことは出来ない。今回は世界樹という超重要案件であったために来たのであった。折角ならとティーパーティーを開くことになったのである。アーシラトの希望もあったが、もてなす習慣のある日本人のハジメならではの感覚である。青年も嬉しそうな顔をしながら参加している。勿論スクナヒコも座している。
「ハジメさんですね、初めましてー。アーシラトの夫で常世の管理者のスクラドでーす。よろぴくー」
外見は凄く真面目そうなのに、発言はなんかチャラい。しかも昭和臭を感じる。そこへスクナヒコがそっと顔を寄せて、
「な、常世で一番偉いのにチャラいだろ?面白いだろ?」
と言ってくる。そんなことよりも幼女女神であるアーシラトに夫がいた事実の方が驚愕である。スクラドはチャラい上にロリコンなのである。どうしても彼を見る目が冷めてしまう。
「あ、その目は誤解してるなー。僕は年下夫だからねー」
とか爆弾発言をしてくる。アーシラトに視線を送れないが、絶対に怒りオーラが出ているはずである。
「そ、それで結界を張るためにわざわざこちらへ降りて来たのですか?」
大人の閑話休題でスクラドをするっとスルーして、アーシラトへ話を振る。ご機嫌伺い目的も入っているが。
「えぇ。昨日アマテラス様がおいでくださいまして、今日世界樹へと昇華させるとお話がありまして」
そう言いながら、右手でスクラドの脇腹をつねり上げている。勿論見なかったことにしたハジメである。しかしそれを意に介さずスクラドが続ける。
「聖域結界は実体がないと張れないからねー」
「でも、アマテラス様、ツクヨミ様、タテハヤ様は居ませんでしたけど?」
と普通に返すハジメ。
「居たよぉー」
「ハジメさんが作った像が異界の神々の依り代となり、実体となったのです。神の力を行使したために耐えられず消滅しましたが」
チャラいスクラドの口をつねり上げ、アーシラトが続ける。なんだかんだと仲の良い夫婦なのかもしれない。2柱は頭を下げ、
「世界樹は・・・」
アーシラトは言葉を詰まらせる。
「世界樹はこの世界の神の願いであった。全てを調和しこの世界を安定させる」
スクラドが続ける。
「世界樹は世界の始まりだが、世界樹は世界でしか誕生できない。矛盾の上に成り立っている存在」
急に真面目な顔をして話始めるスクラド。
「つまり世界樹は世界を生み出すために必要だけど、その世界がないと誕生できないと?」
「そう。だから我々神はその力で世界を作り、維持する。そして世界樹の誕生を望む。これまでは神の力でその存在があったこの世界はこれからは世界樹によって守られ育てられていく。まぁ、あと数万年は、世界樹が完全に働き始めるまでは手助けが必要だけどねー」
真面目な顔でチャラくなるのはいかがなものだろうか。
「ハジメさん。貴方のお陰で世界樹の苗は生まれました。苗が大木へと育つにつれて私たちは力の余裕を手に入れることができるのです。本当に感謝の言葉しか出てきません。ありがとうございました。さて、私たちはこれで失礼することにします。出来れば・・・。出来ればまたお会いした時もう一度お茶を」
とアーシラトは告げ、帰りたくないとだだをコネ続ける夫の首を右手でしっかりホールドして姿を消していった。そしてその場に残ったのは精霊ズと笑い転げているスクナヒコだけである。
「ひぃーーー。面白い・・・。死んじゃう・・・・。トップなのにあの醜態」
と息も絶え絶えに藻掻いている。その様子を冷めた目でハジメは見ていた。数分後落ち着きを取り戻したスクナヒコは
「あぁ、数千年ぶりの地上なのに相変わらずあの・・・」
そこまで言ってまた笑い始める。更に数分後
「あぁ。笑った笑った。さて、僕もそろそろお暇するね」
と涙を拭きながらその姿を消した。その瞬間
「もー。神様のトップが揃うなんて、存在が消えるかと思ったわー」
と舞が息を吐きながら言う。藍も
「本当に・・・。しっかり抵抗してないと、危ないところでした・・・」
と言い小さくため息を付く。
「皆さんまだ上級精霊になったばかりですからね。こればっかりは慣れるしかありません」
と太陽神の元配下であった陽は額の汗を涼しい顔で拭っている。能面を被っていると思うほどあまり表情の変化のない彼にしては珍しい。それほど2人の圧があったのかとハジメは改めて思う。航は片膝をついたままピクリともしてないのは凄いんだなと思っていると、
「|舞、航が薄くなっているようです」
と陽が言うや否や舞は背後から航の脳天に踵堕としをした。
「急に存在が薄くなっていって・・・。危ないところでござった」
幽霊かと思うほどに背景が見えるほどに薄くなっていた姿が元に戻った航が座り込みながら言った。
ハンドブック 12項目目
12-9.世界樹を生み出そう:Clear!
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる