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閑話 第1章

26.閑話:コウ

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「コウー、これ食べる?市場で安かったんだよー。ちょっと魔法の練習で冷やしてみたら美味しかったから。はいあーん」

とご主人様のハジメ様は僕の口に真っ赤に売れたイチゴを入れてくれました。良く冷えていて、甘酸っぱくてとても美味しかったです。僕が美味しいというとご主人様は嬉しそうな顔をしてくれます。僕はその笑顔がとても好きです。リナリー姉さんにも僕と同じことをしていましたが、姉さんは少し恥ずかしそうでした。口に入れられたイチゴがとてもおいしかったのでしょう、目を丸くして幸せそうに食べていました。その姿に僕は幸せを感じるのです。売られたあの日には考えることもできなかったのです。

僕が生まれた村はとても貧しくて、皆お腹を空かせていました。毎日食事も出来ず、2-3日に1度ご飯を食べることが出来ればいい方で、その食事もお腹いっぱいにはなりません。家もぼろぼろで隙間風は当たり前のように入ってきました。実際玄関の扉をノックしたら壊れたということも日常茶飯事でした。畑もありましたが作物は痩せ細り売ることも出来ない事が続いていたのだそうです。

僕の家族は両親と僕、妹の4人でした。妹は生まれつき体が弱く年に数回ポーションを飲んでいたのです。反面僕は元気で畑で作物を作ったりと家を手伝っていました。両親は妹につきっきりでしたがそれなりに暮らしていました。しかし僕が売られる1か月前ほどから両親の態度が変わりました。へんによそよそしくなり、僕はその理由を知ることになりました。

ある秋の昼下がり、いつもの様に畑仕事をしていると、そこへ父親と商人のような男が2人やってきました。男たちは満足そうに僕を見ると父親に向かい、

「約束通り金貨5枚で買おう。それでお前の借金は無しになる。」

と言いました。この時悟りました。僕は金貨5枚で奴隷になるのだと。よそよそしかったのも、悲しそうな目で僕を見ていた理由も知りました。恐らく妹の治療費の借金を払ったのでしょう。それを知った時悲しくもなんともありませんでした。なんとも思わなかったのです。
僕は何も言わず男たちについていきました。両親と妹を振り返ることなくただ着いていきました。

僕を買った商人は違法奴隷商でした。商人たちは獣人の強そうな男、綺麗な人間の女性、眼鏡を掛けた商人風のエルフが居て、商売の時は僕を買った商人以外は偽物のリストリングを付けていました。彼らは着いた街で売られ、数日後には僕たちの側に戻ってきていました。

本物のリストリングを付けた人は僕を入れて5人でした。女性は次々と新しい人が入って、売られていきました。2人大人の男の人がいましたが、荷物持ちとして使われていて、3人目の男を買うと、今まで居た男は新しく開墾している村に寄ったときなどに高く売られていました。

でも僕のような子供を買ってくれるところはありませんでした。売れ残るたびに舌打ちをされ、食事を数日抜かれることもよくありましたが僕はなんとも思いませんでした。そうして3年程が過ぎた時、イブの街の大きな家に仲間の女性が売られていきました。僕はまた数日後に戻るのだろうと思っていましたが、イブの街を離れた翌日に警備隊によって僕たちは囲まれました。そして商人と一緒に居る全員が捕まりイブの街へ連れ戻されたのです。

僕たちは冒険者ギルドに連れていかれ話を聞かれました。どうやら売られた女性が逃げ出すのに失敗し、捕まったようでした。そして商人の悪事が全てバレ、今回捕まったようでした。僕が子どもということもあってか、ギルド長のセバスチャンさんと言う人が担当になり、知っている限り話しました。そしたら「よく頑張ったね」と言われ頭を撫でられたのです。セバスチャンさんがそっとハンカチで涙を拭いてくれたことで自分が泣いていることに気づいたのでした。

そして数日後、商人とその仲間たちは処刑されたと知りました。セバスチャンさんは違法奴隷商人であっても正式な奴隷契約だから僕の奴隷解放は出来ないと言いました。それは仕方のないことですし、今更家に戻ることもしたくありませんでした。

そして更に2日後、セバスチャンさんが僕の居る部屋に入ってきて、

「直ぐに行かなければならいところがあります」

と言い、ベッドに腰かけてぼーっとしていた僕を連れてある場所に行きました。どうやら店の様です。その扉を開けて入って行きます。そこには黒髪で黒目の男の人が立っていて、僕とセバスチャンさんを見比べているようでした。そして僕たちが入ってきた扉に鍵を掛けて上に開くカウンターを通って台所へと案内されました。セバスチャンさんは椅子に座りましたが、奴隷である僕は座ることは許されません。だから立っていたのですが、押さえつけられ無理やり座らせれました。セバスチャンさんに助けを求めましたが、

「大丈夫ですよ、座ってくださいね」

と言われたので仕方なくそのままでいました。もしかすると僕はこの男の人に売られるのかもしれないと思いました。すると体が強張るのが分かりました。僕の頭の中ではどんなことをされるのか不安になりました。開拓される村に売られた男の人は以前「奴隷は殴られたりするが、絶対に反抗してはいけない。そうするともっと酷いことをされる」と僕に教えてくれました。そうしていると店の男の人はお茶とお菓子を僕たちの前に置きました。お菓子はとてもいい匂いで危なくお腹が鳴るところでした。セバスチャンさんの方を見ると

「頂きましょう」

と言い、お菓子を勧めてくれたので、一口と思って食べました。初めて食べたお菓子はとても甘くて甘くて甘くて・・・・。気が付くとセバスチャンさんとお店の男の人の分まで食べてしまっていました。僕が夢中になっている間に話が進んでいたようです。これでは買って貰えないかもしれません。そうなると戦闘奴隷や鉱山奴隷となってしまって死んでしまうのです。自分の行動を強く後悔しました。セバスチャンさんと男の人の話は続いています。

「本物のリストバンドを着けられた者は5人でしたが、4人は病気が判明し現在治療をしていて、今後奴隷商会で売りに出されると思います。それで5人目がこの子なのです。この通りかなりやせ細っていましてこの子を奴隷として売れる体型に戻し売るとなると病気治療後に売られる奴隷よりかなりの時間と金額がかかってしまうのです。本人に掛かった金額は販売料金に上乗せされてしまいます。そうなると売れ残ってしまい戦闘奴隷として戦の最前線に送られてしまうか鉱山で死ぬまで働かせられるかの二者択一になってしまうのです。私としても親の借金の方に売られ、そこまでこのまだ若き者に背負わせるのは・・・・。悩んでいたところ丁度オースティンさんが来られて、事情を説明したらハジメさんに聞いてみたらどうかと言われ、今日訪問させていただいた訳です」

こうして僕はご主人様に買われることになりました。今思えば本当に幸運なことでした。9日に1日はお休みがあるし、その時は自由に過ごして構わないし、使いきれないほどのお小遣いまでくれます。お小遣いの件はリナリー姉さんは甘やかしすぎと怒っていますが。まぁそんなわけで今日も僕は幸せです。
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