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第3章 航路

56.サインを貰うみたいです

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翌朝、リナリーとコウ、ひかりを連れて商業ギルドを訪れる。

「おはようございます」

とハジメが受付の女性に声を掛けると、

「おはようございます、ハジメ様。少々お待ちくださいね」

と笑顔で言い、奥へ消えていった。何か作業中だったのかもしれない、悪いことしたなと思っていると、受付の女性がベスパを連れてハジメの元に戻ってきた。

「ハジメさん、おはようございます。・・・あぁ、ハジメさんが来たときは呼ぶように伝えていましたので。どうぞこちらへ」

と応接室へ通された。ソファーに座るとお茶が運ばれてくる。

「それで、何か御用ですか?」

とお茶を勧められて聞かれる。一口飲むと

「えぇ。実は通いで働いてくれる人材が居ないのかと思いまして」

気を取り直して話を始める。

「なるほど。ようやく人を雇っていただけることになったのですね」

と笑顔で言う。

「ええ。皆には大変な思いをさせていたのに気づけたので」

と繋げると、愉快そうに笑った。

「それで条件はどういったものにしますか?」

ハジメは少し悩んで

「まずは面接は4人で。特にリナリーとコウと仲良く出来ることが条件ですね。この後2人は奴隷から解放しようと思っています。1日仕事でもいいですが、短い時間だけ働きたいって言う方も考えています。うちが忙しいのは昼にかけてなので。あと買った荷物を馬車に載せたり出来る人も探しているんですが・・・」

と希望を伝える。その瞬間リナリーとコウがきょとんとした顔をしているのに気づいたので続ける。

「えぇ。人を雇うとなるとその人物が奴隷を嫌がることがあるだろうし、なにより2人がそれで嫌な思いをしてしまうのは避けるべきですし・・・。2人が望めばうちの店で働いて貰いますし、そうなればいいなと思っていますが。勿論別の仕事したいならそちらを選んでもらっても構わないかとは思っています」

と言いながら2人の頭を優しく撫でると2人は顔をくしゃっとして泣きそうになっているのをなんとか我慢している様子に変わった。どうやら誤解は解けたようである。
この世界において、奴隷から解放されるというのは滅多なことでは起こらないのだ。普通は再度奴隷商人に売られるという方法を取られることが多い。

「短時間勤務ですか・・・・」

とベスパが考え込むと不意に扉が開いてエヴァが入ってる。

「おはよう、ハジメさん。ここに来ているって聞いてね、家の使い心地はどうかと思って寄せて貰ったんだけど・・・。ベスパが考え込むなんて珍しいわね。いつもすぐ返答するのに・・・」

と笑顔で挨拶を交わしたあとベスパの難しそうな顔をみて不思議そうにしている。ハジメはベスパに伝えた内容をエヴァに伝え、難しいかと問う。

「うーん。人格と働く時間、力仕事は特に問題はないと思いますが、奴隷から解放ですか・・・」

「えぇ?何か問題でもあるのでしょうか?」

「実は奴隷から解放するのは出来るのですが、その方法が少し特殊なのです。まずは奴隷ギルドで主人が死亡後解放するといった手続きを取っておくことですが、これはハジメさんが死亡することが条件になりますので、今回は無理です。もう1つは各ギルド長の承認が必要なのです。商業ギルドとしてはハジメさんの貢献度から考えてすぐに許可が出せます。後はこの街の町長のウォールと冒険者ギルドのセバスチャンの許可。そして国王の許可が必要なのです。ウォールとセバスチャンは問題ないと思いますが、国王の許可となるとなかなか難しいのが実情です。今まで解放された奴隷は先に言った方法で解放されることがほとんどなんです。2つ目となると冒険者や商人としてかなりの貢献を国にしたという実績があるものが2人だけなんです。こんなに面倒な手続きになる前は1つのギルドで事足りたのですが、別の国で犯罪を犯し奴隷落ちした王族の1人が国王の許可だけで奴隷から解放され、再び数十人の国民が殺されると言う事件が起こったのです。それで王家でも手出しが出来ない、商業ギルド冒険者ギルドの許可が追加され、主人となった人物の人となりを調べるという目的で町長の承認が必要となったのよ」

とベスパと同じような難し顔をする。

「そうなんですね・・・・。取りあえず頑張ってみます。今すぐは無理でも・・・」

と2人の顔を見つつ笑顔になる。

「そうですか。わかりました。ベスパ、人材紹介を」

と言うとベスパは書類を取ってくると言って、エヴァを書類を持ってくると言って部屋を出たがすぐに2人とも戻ってきた。エヴァが商業ギルド承認印の押されている2枚の『奴隷解放申請書』と書かれた書類を渡してきたので受け取る。その後ベスパからジェフという男性を紹介された。男は商人としての知識はないが、ずっと力仕事をしてきた人物でそのあたりは任せても問題ないらしい。面接は午後から大丈夫だというので、それでお願いをし、午後から来ることを伝える。商業ギルドを出るとリナリーが声を掛けてくる。

「ご主人様、私たちは今のままで十分なんです。ご主人様の側に居れるだけで・・・・。ですから、無理なことは止めてください」

その言葉にコウも頷く。

「そうです、ご主人様。私たちは身分が奴隷だけど、したいこといっぱいさせて貰ってます。このままでも大丈夫です」

そんな2人ほっこりしながらハジメはうんうんと笑顔で頷く。ハジメの秘儀笑顔で胡麻化す作戦であった。取りあえずまだ時間があるためひかりと2人で冒険者ギルドや役場を回ってみるということになった。リナリーとコウは日用品を買って一回家に帰ると言うので、費用を渡しておいた。

ひかりと一緒に冒険者ギルドの受付へ来ると受付嬢へセバスチャンに会えるか聞くと受付嬢は階段を昇って行き、暫くしてセバスチャンと一緒に降りて来た。

「冒険者ギルドでお会いするなんて珍しいですね」

とセバスチャンが笑いながら言う。確かにセバスチャンと会う時はいつも冒険者ギルドではないことが多かった気がする。ハジメは苦笑いを浮かべて

「・・・確かに、そうですね。あぁ、今日はちょっとお願いがあって・・・」

と言うとギルド長室に隣接されている応接室へ2人は通される。そこで奴隷解放の承認が貰えないか聞いてみると冒険者ギルド長としても問題はないとのことだった。ハジメはそんなに冒険者ギルドに貢献はしていないはずだが大丈夫なのか聞いてみると、

「くっくっ。確かにハジメさんはあまり冒険者として活動はしてないですよね。実はリナリーさんとコウさんの貢献度が高いのですよ」

とあくどい人がするように笑う。整った顔の眼鏡でそんな風に笑うと本当に悪いことしてそうな感じに思える。ハジメは彼が正義感の強い人であることはコウを連れて来た時の言動で分かっているのでやめた方がいいかと思うが・・・。

「コウとリナリーの?」

「えぇ。2人からは黙っておいて欲しいと言われたのですが、2人は冒険者ギルドに来る依頼で3週間以上受ける者がいない街の中での依頼を受けてくれていたのです。ハジメさんも御存じの通り、街の中の依頼はどうしても料金が安くなってしまうのです。そのせいで冒険者が受けないことが多い。それを2人がこなしてくれていたのです。今でもハジメさんの店がお休みの時に受けてくれているのですよ」

とハジメの問いにセバスチャンが答える。

「お二人とも身分が奴隷ですので、冒険者登録できないのでは?」

ひかりが問う。そう。この世界では奴隷はギルドに所属することが出来ないのだ。『奴隷』はその身分により様々な制限が掛かっているのが普通だ。ハジメのように出かけたいと言えば二つ返事で行かせるというのは無いのだ。

「えぇ、個人ではできません。登録しているハジメさんとして活動していたんです。2人はハジメさんの奴隷ですから。実際に冒険者の中には奴隷を派遣してお金を稼ぐ主人もいるのです。依頼達成金は主人である人に渡るのですが、ハジメさんは商業ギルドにも所属されているのでそちらの口座に振り込んでいたので、ご存知なかったようですね」

と言う。ハジメは奴隷から解放した時にはそのお金を二等分してお給金貯金に足して渡すことにした。それを聞いたセバスチャンはギルドカードをハジメから受け取ったあと、今まで2人が稼いだお金を引き出しハジメに渡した。ハジメはそれを受け取り2人の貯金袋へ入れる。それを見たセバスチャンが

「ハジメさん、それは?」

「2人はお給料をどうしても受け取ってくれないので、こうして貯めてるんですよ。いつか渡そうと思って」

と照れ臭そうに笑う。それを微笑ましそうに見ながら書類にサインをしてくれた。ハジメとひかりは時間的にまだ余裕があったので役場に向かった。全てが大広場にあるので移動距離は短い。役場の中へ入るとそこにウォールが居たので、声を掛けると応接室に通され、2人と同じように頼むと二つ返事でサインをしてくれた。

「あとは国王ですか・・・・。かなりの難関ですね・・・・」

「えぇ、それでどういった事をすればサインが貰えるか何かご存知ないかと思いまして・・・」

とハジメが返すと

「・・・実は・・・」

と言いながら1枚の紙を取り出し、ハジメとひかりの前に差し出してきた。読んで構わないということなのだろうと判断し、文字を目で追う。

「・・・これは・・・」

「えぇ、ハジメさんはなんとかできるんじゃないかと思いまして」

そこには極秘の文字があるのだった。
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