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閑話 第1章
24.閑話:オースティンとの出会い
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「オースティンさん、ありがとうございました」
とぺこりと頭を下げて熟練の4人の冒険者たちが店を後にする。その姿を眩しそうに見送った。
冒険者を辞めてもう10年くらいになるだろうか。あの頃はワクワクした気持ちでいっぱいだったが、怪我も多かった。冒険者を初めて5年程経った頃、突如人生の終わりを考えるようになっていた。そして買ったのが店とそれを運営する奴隷だった。冒険者として必要なものをセットとして売り出し、そこそこ繁盛するようになった頃、ゴブリンに襲われている初心者冒険者を見かけ助けようとしたとき、パニックに陥っていた一人に利き足を切られたのだ。その場は何とか凌げたが足は思うように動かなくなってしまった。そして冒険者を辞め道具屋として働くことになったのだった。しかしその悔しさをすぐには受け入れることが出来ず、奴隷であるジェーンに八つ当たりをすることもあったが半年ほどかけてようやく受け入れることが出来た。その後様々な冒険者セットを売り出し店はかなりの儲けを出すことになり、ギルド長に抜擢されることになった。
助けた冒険者たちのその後を見たせいか不意に昔を思い出していた。後ろからジェーンが
「ご主人様、お茶をどうぞ」
と言いフレーバーティーを出してくれた。お礼を言い口に含むとため息が漏れた。忘れたと思っていたがまだ少し蟠りがあることに気づき、苦笑いを浮かべた。その時店の扉が開き青年が入ってくる。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
と声を掛けると丁寧に
「見させて頂いてもよろしいですか?」
と言う。
「では用事がありましたら声をかけてください。私はここで仕事をしておりますので」
と伝え、売買帳簿を取り出し確認作業を始める。勿論青年に注意しながらではあったが。青年は何かぼそぼそと呟きながら体力ポーションに近づき眺めている。しばらく色々と売り物を見ていたあと、近づいてきて
「すみません、薬師セット初級ってないですか?」
と聞かれた。
「あぁ、薬師セットの初級ですね。一般には売れないので店先に出してないのですよ」
そう言い、カウンターの下から年季の入った初級の薬師セットを取り出した。金具をパチンとあけてトランクの蓋を持ち上げると中にフラスコやアルコールランプ、ビーカーや乳鉢、メスシリンダーやロート台、ロート、大きなフラスコが4つ入っている。
「この大きな瓶で、あのフラスコが1本に付き2.5本分です。4本作って持ってくると10本分となるわけです」
と伝える。
「えっと、おいくらですか?」
と聞かれた。
「これは私と息子が使っていたものなので、2500Sでどうでしょうか」
と眼鏡を外して青年を見る。私もポーションが作れないか試したがダメだった。しかしなんとなく売るのは躊躇われそのままにしていた。その後別れた妻との間に生まれた息子も薬剤師になりたいと言い出しある薬剤師に弟子入りまでしたが才能はなかったようで1年ほどでそこを出て今では別の街で商人として働いている。その時返却され、そのままになっていた。薬師セットを買い求める人物も居たが新品を買うものが多く売れ残ったということもあったのだが。新品なら10万Sするがもう10年前のものである。そしてなぜかこの青年には譲ってもいいかという気持ちになったこともある。
「買います」
青年は即答した。
「ありがとうございます。薬草5個ほど器具のお試し用としてお渡ししておきますね。うちの店は薬草も扱っています。薬草は10個1束で1500Sとなっていますので宜しければ。フラスコは1個150Sです。持ち込みがないときは買い取り価格から引かせていただきますね」
というと感謝の言葉を述べ青年は店を後にした。その時青年に名を聞かなかったことに気づいた。そしてその機会はすぐに訪れる。翌日
「あの、体力ポーション売りたいんですが」
と声が掛かる。眼鏡を掛けなおしながらカウンターへ来ると昨日の青年が立っていた。
「早速作ったんだね。見せて貰うね」
と言い、眼鏡を外しモノクルを右目につけた。不思議そうにそれを青年が見ていることに気づいた。
「あ、これは鑑定できる魔法道具なんだよ。では早速。おや、これは最高品質に近いですね。器用なのかそれなりに勉強してきたのか。分かりました。フラスコの持ち込みはなしでいいですね。では2本分ですので7400Sお渡ししますね。ありがとうございました」
男は大きな瓶をロートに通し2本の体力ポーションに分けた。軽く水洗いした瓶を返した。
「あ、私オースティンと申します。今後ともよろしくお願いします」
と告げると青年も
「私はハジメと言います。よろしくお願いします」
と頭を下げ、出て行った。それを見送る。
「昨日のうちに道具を使いこなせるなんて・・・。調剤セットを持っていないということは弟子入りもしてないということだし・・・。彼は一体何者なんだ・・・」
と呟く。ジェーンを呼び青年の作ったポーションを鑑定させる。
<鑑定>
体力ポーション:体力を回復させる。切り傷程度なら治る。
冒険者ギルドに売ると3500S 商人ギルドに売ると3850S
買値は4500S程度。 使用期限残り:3か月
「・・・ご主人様・・・このポーションは異常です。体力まで回復させる・・・傷を治すことがついでのようです・・・」
「体力までもですか・・・」
この世界に出回っているポーションは傷を治すだけである。簡単に言うと怪我は直すがHPは回復しないのが普通である。たまに遺跡やダンジョンから体力が回復する体力ポーションが出ることがあるが市場に出ることはない。有力者に納めるのが常だからである。
取りあえず今はお金がない様子であるため落ち着くまでは買取を続けて折を見て店を持たせることにしようと思うのだった。
とぺこりと頭を下げて熟練の4人の冒険者たちが店を後にする。その姿を眩しそうに見送った。
冒険者を辞めてもう10年くらいになるだろうか。あの頃はワクワクした気持ちでいっぱいだったが、怪我も多かった。冒険者を初めて5年程経った頃、突如人生の終わりを考えるようになっていた。そして買ったのが店とそれを運営する奴隷だった。冒険者として必要なものをセットとして売り出し、そこそこ繁盛するようになった頃、ゴブリンに襲われている初心者冒険者を見かけ助けようとしたとき、パニックに陥っていた一人に利き足を切られたのだ。その場は何とか凌げたが足は思うように動かなくなってしまった。そして冒険者を辞め道具屋として働くことになったのだった。しかしその悔しさをすぐには受け入れることが出来ず、奴隷であるジェーンに八つ当たりをすることもあったが半年ほどかけてようやく受け入れることが出来た。その後様々な冒険者セットを売り出し店はかなりの儲けを出すことになり、ギルド長に抜擢されることになった。
助けた冒険者たちのその後を見たせいか不意に昔を思い出していた。後ろからジェーンが
「ご主人様、お茶をどうぞ」
と言いフレーバーティーを出してくれた。お礼を言い口に含むとため息が漏れた。忘れたと思っていたがまだ少し蟠りがあることに気づき、苦笑いを浮かべた。その時店の扉が開き青年が入ってくる。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
と声を掛けると丁寧に
「見させて頂いてもよろしいですか?」
と言う。
「では用事がありましたら声をかけてください。私はここで仕事をしておりますので」
と伝え、売買帳簿を取り出し確認作業を始める。勿論青年に注意しながらではあったが。青年は何かぼそぼそと呟きながら体力ポーションに近づき眺めている。しばらく色々と売り物を見ていたあと、近づいてきて
「すみません、薬師セット初級ってないですか?」
と聞かれた。
「あぁ、薬師セットの初級ですね。一般には売れないので店先に出してないのですよ」
そう言い、カウンターの下から年季の入った初級の薬師セットを取り出した。金具をパチンとあけてトランクの蓋を持ち上げると中にフラスコやアルコールランプ、ビーカーや乳鉢、メスシリンダーやロート台、ロート、大きなフラスコが4つ入っている。
「この大きな瓶で、あのフラスコが1本に付き2.5本分です。4本作って持ってくると10本分となるわけです」
と伝える。
「えっと、おいくらですか?」
と聞かれた。
「これは私と息子が使っていたものなので、2500Sでどうでしょうか」
と眼鏡を外して青年を見る。私もポーションが作れないか試したがダメだった。しかしなんとなく売るのは躊躇われそのままにしていた。その後別れた妻との間に生まれた息子も薬剤師になりたいと言い出しある薬剤師に弟子入りまでしたが才能はなかったようで1年ほどでそこを出て今では別の街で商人として働いている。その時返却され、そのままになっていた。薬師セットを買い求める人物も居たが新品を買うものが多く売れ残ったということもあったのだが。新品なら10万Sするがもう10年前のものである。そしてなぜかこの青年には譲ってもいいかという気持ちになったこともある。
「買います」
青年は即答した。
「ありがとうございます。薬草5個ほど器具のお試し用としてお渡ししておきますね。うちの店は薬草も扱っています。薬草は10個1束で1500Sとなっていますので宜しければ。フラスコは1個150Sです。持ち込みがないときは買い取り価格から引かせていただきますね」
というと感謝の言葉を述べ青年は店を後にした。その時青年に名を聞かなかったことに気づいた。そしてその機会はすぐに訪れる。翌日
「あの、体力ポーション売りたいんですが」
と声が掛かる。眼鏡を掛けなおしながらカウンターへ来ると昨日の青年が立っていた。
「早速作ったんだね。見せて貰うね」
と言い、眼鏡を外しモノクルを右目につけた。不思議そうにそれを青年が見ていることに気づいた。
「あ、これは鑑定できる魔法道具なんだよ。では早速。おや、これは最高品質に近いですね。器用なのかそれなりに勉強してきたのか。分かりました。フラスコの持ち込みはなしでいいですね。では2本分ですので7400Sお渡ししますね。ありがとうございました」
男は大きな瓶をロートに通し2本の体力ポーションに分けた。軽く水洗いした瓶を返した。
「あ、私オースティンと申します。今後ともよろしくお願いします」
と告げると青年も
「私はハジメと言います。よろしくお願いします」
と頭を下げ、出て行った。それを見送る。
「昨日のうちに道具を使いこなせるなんて・・・。調剤セットを持っていないということは弟子入りもしてないということだし・・・。彼は一体何者なんだ・・・」
と呟く。ジェーンを呼び青年の作ったポーションを鑑定させる。
<鑑定>
体力ポーション:体力を回復させる。切り傷程度なら治る。
冒険者ギルドに売ると3500S 商人ギルドに売ると3850S
買値は4500S程度。 使用期限残り:3か月
「・・・ご主人様・・・このポーションは異常です。体力まで回復させる・・・傷を治すことがついでのようです・・・」
「体力までもですか・・・」
この世界に出回っているポーションは傷を治すだけである。簡単に言うと怪我は直すがHPは回復しないのが普通である。たまに遺跡やダンジョンから体力が回復する体力ポーションが出ることがあるが市場に出ることはない。有力者に納めるのが常だからである。
取りあえず今はお金がない様子であるため落ち着くまでは買取を続けて折を見て店を持たせることにしようと思うのだった。
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