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第1部 始
1.最初の最初
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「ふぅ・・・・」
金色の長い髪がゆれ、口元の小さなホクロが愁いを帯びる。どうみても少女・・・いや幼女である彼女はここ100年余りずっとため息ばかりついている。
彼女が見ているのは数枚の周囲に浮かんだ画面のようなものであり、そこには首輪を着けられ競り落とされようとしている少女や青年、戦いによって命を落としていく騎士たちと死んだ騎士から装備を剥ぎ取っている民衆、貴族に罪を押し付けられて金を徴収されている商人とその鬱憤を晴らそうと殴られている首輪を着けた者たち、自分たちが生きていくため力弱いものを捨てようとしている人々などの目を覆いたくなるような様子が次々に映し出されて消えていく。
彼女がため息を付くのは仕方がないことであろう。もう何度目になるかもわからないため息をもう一度吐くとそこに少女と同年代の美しく愁いを帯びた少年が現れる。
「・・・相変わらず、ですね、アーシラト様・・・」
と少年は美しい瞳に冷たさを浮かべながら画面を眺めて少女に話しかけた。
「太陽神シャプシェ・・・。えぇ、なんと愚かなんでしょうか・・・・。このままではこの世界は黒に飲まれてしまいます」
少年に視線をやりつつ答える。
周囲には神殿のような石造りの空間が広がっていて、天井はなく少女の上から優しい光が降り注いでいる。その神殿の外には赤青黄の花々が季節関係なく咲き誇っておりその中央には聖水を湛えた小さな池があり、そこで大小様々な小鳥が水浴びをしていた。そのような空間は言葉通りどこまでも続いている。
「・・・・あまりご迷惑はおかけしたくないのですけど・・・・」
とアーシラトが呟き目を瞑り両手を胸の前で祈るように組むとオレンジ色の暖かな光が生まれる。彼女がゆっくり金色の瞳を開けるとその光はゆっくりと消えていった。
~地球 side~
平安時代のような屋敷から丁寧に作られた日本庭園を眺めていた十二単の女性は何かに気づいたように掌を上にする。そこへオレンジ色の光が小鳥のように舞い降りた。それを左耳に当てて暫くすると嘆息を一つ。
「姉上、また異なる世界ですか・・・・」
と後ろにいた武官のような恰好をした一人の男が顔を顰めながら呟く。
「えぇ、月夜見。そのようです。アーシラト様のところからの要請です・・・・」
と月夜見の顰め面を咎めることなくコロコロと鈴が転がるようで威厳のある不思議な声で言う。
「兄様、そのような顔を姉上の前でするのはどうかと思うぞ」
と月夜見の横にいた猛々しさと威厳を兼ね備えた男が言う。姉上と呼ばれた女性がそちらへ視線をやり、
「建速もお久しぶりですね」
と優しく微笑む。
「しかし、今までも様々な我らが世と異なるところからの転生の願いはあまりにも多すぎると思うのだがな」
と皮肉を込めて月夜見が建速に言う。
「・・・たしかにそうですね・・・。いくら我らが世に住まう魂たちが強いとはいえ。その強は魂自身が研鑽を絶え間なく積み苦難を乗り切ってきたからだからな・・・」
建速が言う。
「・・・国生みの神である父伊邪那岐と神生みの神である母伊邪那美が決めた事とは言え、地球に住む人々は神々による祝福も、精霊による加護もなしに力強く生きていますものね・・」
と天照が右の掌を上にすると宇宙が広がり、徐々に銀河系、地球へと近づいていく。
「そのような過酷な環境で切磋琢磨した健全に近づこうとしている魂を差し出すというのはやはり私には抵抗がありますよ、姉上」
と月夜見が地球を見つめながら静かに天照に告げる。その時話している3人の後ろにいた女官の一人が
「お三方様。優しさと柔軟さを持った完全になるために順調な魂が一つこちらへ還ってきました」
と言う。
「”逢瀬の間”に」
と天照が言うと女官の姿は煙のように消えた。
「おくるのですか?」
と建速が問うと、月夜見も姉の方を見る。
「月夜見と須佐之男が罪を許されてどれくらいになったかしら?」
ツクヨミとスサノオは保食神と大気都比売神を滅ぼしたことがある。その際天照の怒りを買い、暫くの間謹慎を言い渡されたことがある。しかし滅ぼされた神の欠片から牛馬や蚕、稲や麦という穀物が生まれた。それを用いて魂たちは食の文化を作り上げ、それを元に様々な発展を遂げていく。それを見た父母から2柱は許され、こうして再度兄弟で会うことができるようになった。
「そうですね、およそ5千年前ほどかと。その節は申し訳ありませんでした」
と月夜見が頭を下げ、それに合わせて須佐之男も頭を下げた。
「もうそんなになるのですね・・・。二柱の事があって、私は、私たちの見守った魂が他の世で種を撒くことが出来れば、と思うようになりました・・・」
「姉上・・・」
「・・・しかし、今回の魂は穢れの少ない魂。ご本人の意思を尊重しようと思うのです。良いと言えば良し。嫌だおっしゃるならアーシラト様には待っていただくしかないと思っているのです・・・・」
天照は静かに空を見上げ、アーシラトのいる場所へ意識を飛ばした。
それから瞬きの間にアマテラスは
「選ばれてしまった方は行くことを決められました・・・」
と少し寂し気に目を伏せる。
「兄上」
「建速」
「我らも立ち向かう魂が健やかに育つことを願おう。そして・・・」
「「困難が立ちふさがりどうしようもなくなったとき、1度だけだが力を貸そう」」
2柱が掌を合わせると2つの小さな小さな真っ白な光が空に向かい真直ぐに昇って行った。
「「「魂に救いの祈りを」」」
3柱の声は静かにゆっくりと周囲へと溶けていった。
金色の長い髪がゆれ、口元の小さなホクロが愁いを帯びる。どうみても少女・・・いや幼女である彼女はここ100年余りずっとため息ばかりついている。
彼女が見ているのは数枚の周囲に浮かんだ画面のようなものであり、そこには首輪を着けられ競り落とされようとしている少女や青年、戦いによって命を落としていく騎士たちと死んだ騎士から装備を剥ぎ取っている民衆、貴族に罪を押し付けられて金を徴収されている商人とその鬱憤を晴らそうと殴られている首輪を着けた者たち、自分たちが生きていくため力弱いものを捨てようとしている人々などの目を覆いたくなるような様子が次々に映し出されて消えていく。
彼女がため息を付くのは仕方がないことであろう。もう何度目になるかもわからないため息をもう一度吐くとそこに少女と同年代の美しく愁いを帯びた少年が現れる。
「・・・相変わらず、ですね、アーシラト様・・・」
と少年は美しい瞳に冷たさを浮かべながら画面を眺めて少女に話しかけた。
「太陽神シャプシェ・・・。えぇ、なんと愚かなんでしょうか・・・・。このままではこの世界は黒に飲まれてしまいます」
少年に視線をやりつつ答える。
周囲には神殿のような石造りの空間が広がっていて、天井はなく少女の上から優しい光が降り注いでいる。その神殿の外には赤青黄の花々が季節関係なく咲き誇っておりその中央には聖水を湛えた小さな池があり、そこで大小様々な小鳥が水浴びをしていた。そのような空間は言葉通りどこまでも続いている。
「・・・・あまりご迷惑はおかけしたくないのですけど・・・・」
とアーシラトが呟き目を瞑り両手を胸の前で祈るように組むとオレンジ色の暖かな光が生まれる。彼女がゆっくり金色の瞳を開けるとその光はゆっくりと消えていった。
~地球 side~
平安時代のような屋敷から丁寧に作られた日本庭園を眺めていた十二単の女性は何かに気づいたように掌を上にする。そこへオレンジ色の光が小鳥のように舞い降りた。それを左耳に当てて暫くすると嘆息を一つ。
「姉上、また異なる世界ですか・・・・」
と後ろにいた武官のような恰好をした一人の男が顔を顰めながら呟く。
「えぇ、月夜見。そのようです。アーシラト様のところからの要請です・・・・」
と月夜見の顰め面を咎めることなくコロコロと鈴が転がるようで威厳のある不思議な声で言う。
「兄様、そのような顔を姉上の前でするのはどうかと思うぞ」
と月夜見の横にいた猛々しさと威厳を兼ね備えた男が言う。姉上と呼ばれた女性がそちらへ視線をやり、
「建速もお久しぶりですね」
と優しく微笑む。
「しかし、今までも様々な我らが世と異なるところからの転生の願いはあまりにも多すぎると思うのだがな」
と皮肉を込めて月夜見が建速に言う。
「・・・たしかにそうですね・・・。いくら我らが世に住まう魂たちが強いとはいえ。その強は魂自身が研鑽を絶え間なく積み苦難を乗り切ってきたからだからな・・・」
建速が言う。
「・・・国生みの神である父伊邪那岐と神生みの神である母伊邪那美が決めた事とは言え、地球に住む人々は神々による祝福も、精霊による加護もなしに力強く生きていますものね・・」
と天照が右の掌を上にすると宇宙が広がり、徐々に銀河系、地球へと近づいていく。
「そのような過酷な環境で切磋琢磨した健全に近づこうとしている魂を差し出すというのはやはり私には抵抗がありますよ、姉上」
と月夜見が地球を見つめながら静かに天照に告げる。その時話している3人の後ろにいた女官の一人が
「お三方様。優しさと柔軟さを持った完全になるために順調な魂が一つこちらへ還ってきました」
と言う。
「”逢瀬の間”に」
と天照が言うと女官の姿は煙のように消えた。
「おくるのですか?」
と建速が問うと、月夜見も姉の方を見る。
「月夜見と須佐之男が罪を許されてどれくらいになったかしら?」
ツクヨミとスサノオは保食神と大気都比売神を滅ぼしたことがある。その際天照の怒りを買い、暫くの間謹慎を言い渡されたことがある。しかし滅ぼされた神の欠片から牛馬や蚕、稲や麦という穀物が生まれた。それを用いて魂たちは食の文化を作り上げ、それを元に様々な発展を遂げていく。それを見た父母から2柱は許され、こうして再度兄弟で会うことができるようになった。
「そうですね、およそ5千年前ほどかと。その節は申し訳ありませんでした」
と月夜見が頭を下げ、それに合わせて須佐之男も頭を下げた。
「もうそんなになるのですね・・・。二柱の事があって、私は、私たちの見守った魂が他の世で種を撒くことが出来れば、と思うようになりました・・・」
「姉上・・・」
「・・・しかし、今回の魂は穢れの少ない魂。ご本人の意思を尊重しようと思うのです。良いと言えば良し。嫌だおっしゃるならアーシラト様には待っていただくしかないと思っているのです・・・・」
天照は静かに空を見上げ、アーシラトのいる場所へ意識を飛ばした。
それから瞬きの間にアマテラスは
「選ばれてしまった方は行くことを決められました・・・」
と少し寂し気に目を伏せる。
「兄上」
「建速」
「我らも立ち向かう魂が健やかに育つことを願おう。そして・・・」
「「困難が立ちふさがりどうしようもなくなったとき、1度だけだが力を貸そう」」
2柱が掌を合わせると2つの小さな小さな真っ白な光が空に向かい真直ぐに昇って行った。
「「「魂に救いの祈りを」」」
3柱の声は静かにゆっくりと周囲へと溶けていった。
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