2 / 173
第1部 始
1.最初の最初
しおりを挟む
「ふぅ・・・・」
金色の長い髪がゆれ、口元の小さなホクロが愁いを帯びる。どうみても少女・・・いや幼女である彼女はここ100年余りずっとため息ばかりついている。
彼女が見ているのは数枚の周囲に浮かんだ画面のようなものであり、そこには首輪を着けられ競り落とされようとしている少女や青年、戦いによって命を落としていく騎士たちと死んだ騎士から装備を剥ぎ取っている民衆、貴族に罪を押し付けられて金を徴収されている商人とその鬱憤を晴らそうと殴られている首輪を着けた者たち、自分たちが生きていくため力弱いものを捨てようとしている人々などの目を覆いたくなるような様子が次々に映し出されて消えていく。
彼女がため息を付くのは仕方がないことであろう。もう何度目になるかもわからないため息をもう一度吐くとそこに少女と同年代の美しく愁いを帯びた少年が現れる。
「・・・相変わらず、ですね、アーシラト様・・・」
と少年は美しい瞳に冷たさを浮かべながら画面を眺めて少女に話しかけた。
「太陽神シャプシェ・・・。えぇ、なんと愚かなんでしょうか・・・・。このままではこの世界は黒に飲まれてしまいます」
少年に視線をやりつつ答える。
周囲には神殿のような石造りの空間が広がっていて、天井はなく少女の上から優しい光が降り注いでいる。その神殿の外には赤青黄の花々が季節関係なく咲き誇っておりその中央には聖水を湛えた小さな池があり、そこで大小様々な小鳥が水浴びをしていた。そのような空間は言葉通りどこまでも続いている。
「・・・・あまりご迷惑はおかけしたくないのですけど・・・・」
とアーシラトが呟き目を瞑り両手を胸の前で祈るように組むとオレンジ色の暖かな光が生まれる。彼女がゆっくり金色の瞳を開けるとその光はゆっくりと消えていった。
~地球 side~
平安時代のような屋敷から丁寧に作られた日本庭園を眺めていた十二単の女性は何かに気づいたように掌を上にする。そこへオレンジ色の光が小鳥のように舞い降りた。それを左耳に当てて暫くすると嘆息を一つ。
「姉上、また異なる世界ですか・・・・」
と後ろにいた武官のような恰好をした一人の男が顔を顰めながら呟く。
「えぇ、月夜見。そのようです。アーシラト様のところからの要請です・・・・」
と月夜見の顰め面を咎めることなくコロコロと鈴が転がるようで威厳のある不思議な声で言う。
「兄様、そのような顔を姉上の前でするのはどうかと思うぞ」
と月夜見の横にいた猛々しさと威厳を兼ね備えた男が言う。姉上と呼ばれた女性がそちらへ視線をやり、
「建速もお久しぶりですね」
と優しく微笑む。
「しかし、今までも様々な我らが世と異なるところからの転生の願いはあまりにも多すぎると思うのだがな」
と皮肉を込めて月夜見が建速に言う。
「・・・たしかにそうですね・・・。いくら我らが世に住まう魂たちが強いとはいえ。その強は魂自身が研鑽を絶え間なく積み苦難を乗り切ってきたからだからな・・・」
建速が言う。
「・・・国生みの神である父伊邪那岐と神生みの神である母伊邪那美が決めた事とは言え、地球に住む人々は神々による祝福も、精霊による加護もなしに力強く生きていますものね・・」
と天照が右の掌を上にすると宇宙が広がり、徐々に銀河系、地球へと近づいていく。
「そのような過酷な環境で切磋琢磨した健全に近づこうとしている魂を差し出すというのはやはり私には抵抗がありますよ、姉上」
と月夜見が地球を見つめながら静かに天照に告げる。その時話している3人の後ろにいた女官の一人が
「お三方様。優しさと柔軟さを持った完全になるために順調な魂が一つこちらへ還ってきました」
と言う。
「”逢瀬の間”に」
と天照が言うと女官の姿は煙のように消えた。
「おくるのですか?」
と建速が問うと、月夜見も姉の方を見る。
「月夜見と須佐之男が罪を許されてどれくらいになったかしら?」
ツクヨミとスサノオは保食神と大気都比売神を滅ぼしたことがある。その際天照の怒りを買い、暫くの間謹慎を言い渡されたことがある。しかし滅ぼされた神の欠片から牛馬や蚕、稲や麦という穀物が生まれた。それを用いて魂たちは食の文化を作り上げ、それを元に様々な発展を遂げていく。それを見た父母から2柱は許され、こうして再度兄弟で会うことができるようになった。
「そうですね、およそ5千年前ほどかと。その節は申し訳ありませんでした」
と月夜見が頭を下げ、それに合わせて須佐之男も頭を下げた。
「もうそんなになるのですね・・・。二柱の事があって、私は、私たちの見守った魂が他の世で種を撒くことが出来れば、と思うようになりました・・・」
「姉上・・・」
「・・・しかし、今回の魂は穢れの少ない魂。ご本人の意思を尊重しようと思うのです。良いと言えば良し。嫌だおっしゃるならアーシラト様には待っていただくしかないと思っているのです・・・・」
天照は静かに空を見上げ、アーシラトのいる場所へ意識を飛ばした。
それから瞬きの間にアマテラスは
「選ばれてしまった方は行くことを決められました・・・」
と少し寂し気に目を伏せる。
「兄上」
「建速」
「我らも立ち向かう魂が健やかに育つことを願おう。そして・・・」
「「困難が立ちふさがりどうしようもなくなったとき、1度だけだが力を貸そう」」
2柱が掌を合わせると2つの小さな小さな真っ白な光が空に向かい真直ぐに昇って行った。
「「「魂に救いの祈りを」」」
3柱の声は静かにゆっくりと周囲へと溶けていった。
金色の長い髪がゆれ、口元の小さなホクロが愁いを帯びる。どうみても少女・・・いや幼女である彼女はここ100年余りずっとため息ばかりついている。
彼女が見ているのは数枚の周囲に浮かんだ画面のようなものであり、そこには首輪を着けられ競り落とされようとしている少女や青年、戦いによって命を落としていく騎士たちと死んだ騎士から装備を剥ぎ取っている民衆、貴族に罪を押し付けられて金を徴収されている商人とその鬱憤を晴らそうと殴られている首輪を着けた者たち、自分たちが生きていくため力弱いものを捨てようとしている人々などの目を覆いたくなるような様子が次々に映し出されて消えていく。
彼女がため息を付くのは仕方がないことであろう。もう何度目になるかもわからないため息をもう一度吐くとそこに少女と同年代の美しく愁いを帯びた少年が現れる。
「・・・相変わらず、ですね、アーシラト様・・・」
と少年は美しい瞳に冷たさを浮かべながら画面を眺めて少女に話しかけた。
「太陽神シャプシェ・・・。えぇ、なんと愚かなんでしょうか・・・・。このままではこの世界は黒に飲まれてしまいます」
少年に視線をやりつつ答える。
周囲には神殿のような石造りの空間が広がっていて、天井はなく少女の上から優しい光が降り注いでいる。その神殿の外には赤青黄の花々が季節関係なく咲き誇っておりその中央には聖水を湛えた小さな池があり、そこで大小様々な小鳥が水浴びをしていた。そのような空間は言葉通りどこまでも続いている。
「・・・・あまりご迷惑はおかけしたくないのですけど・・・・」
とアーシラトが呟き目を瞑り両手を胸の前で祈るように組むとオレンジ色の暖かな光が生まれる。彼女がゆっくり金色の瞳を開けるとその光はゆっくりと消えていった。
~地球 side~
平安時代のような屋敷から丁寧に作られた日本庭園を眺めていた十二単の女性は何かに気づいたように掌を上にする。そこへオレンジ色の光が小鳥のように舞い降りた。それを左耳に当てて暫くすると嘆息を一つ。
「姉上、また異なる世界ですか・・・・」
と後ろにいた武官のような恰好をした一人の男が顔を顰めながら呟く。
「えぇ、月夜見。そのようです。アーシラト様のところからの要請です・・・・」
と月夜見の顰め面を咎めることなくコロコロと鈴が転がるようで威厳のある不思議な声で言う。
「兄様、そのような顔を姉上の前でするのはどうかと思うぞ」
と月夜見の横にいた猛々しさと威厳を兼ね備えた男が言う。姉上と呼ばれた女性がそちらへ視線をやり、
「建速もお久しぶりですね」
と優しく微笑む。
「しかし、今までも様々な我らが世と異なるところからの転生の願いはあまりにも多すぎると思うのだがな」
と皮肉を込めて月夜見が建速に言う。
「・・・たしかにそうですね・・・。いくら我らが世に住まう魂たちが強いとはいえ。その強は魂自身が研鑽を絶え間なく積み苦難を乗り切ってきたからだからな・・・」
建速が言う。
「・・・国生みの神である父伊邪那岐と神生みの神である母伊邪那美が決めた事とは言え、地球に住む人々は神々による祝福も、精霊による加護もなしに力強く生きていますものね・・」
と天照が右の掌を上にすると宇宙が広がり、徐々に銀河系、地球へと近づいていく。
「そのような過酷な環境で切磋琢磨した健全に近づこうとしている魂を差し出すというのはやはり私には抵抗がありますよ、姉上」
と月夜見が地球を見つめながら静かに天照に告げる。その時話している3人の後ろにいた女官の一人が
「お三方様。優しさと柔軟さを持った完全になるために順調な魂が一つこちらへ還ってきました」
と言う。
「”逢瀬の間”に」
と天照が言うと女官の姿は煙のように消えた。
「おくるのですか?」
と建速が問うと、月夜見も姉の方を見る。
「月夜見と須佐之男が罪を許されてどれくらいになったかしら?」
ツクヨミとスサノオは保食神と大気都比売神を滅ぼしたことがある。その際天照の怒りを買い、暫くの間謹慎を言い渡されたことがある。しかし滅ぼされた神の欠片から牛馬や蚕、稲や麦という穀物が生まれた。それを用いて魂たちは食の文化を作り上げ、それを元に様々な発展を遂げていく。それを見た父母から2柱は許され、こうして再度兄弟で会うことができるようになった。
「そうですね、およそ5千年前ほどかと。その節は申し訳ありませんでした」
と月夜見が頭を下げ、それに合わせて須佐之男も頭を下げた。
「もうそんなになるのですね・・・。二柱の事があって、私は、私たちの見守った魂が他の世で種を撒くことが出来れば、と思うようになりました・・・」
「姉上・・・」
「・・・しかし、今回の魂は穢れの少ない魂。ご本人の意思を尊重しようと思うのです。良いと言えば良し。嫌だおっしゃるならアーシラト様には待っていただくしかないと思っているのです・・・・」
天照は静かに空を見上げ、アーシラトのいる場所へ意識を飛ばした。
それから瞬きの間にアマテラスは
「選ばれてしまった方は行くことを決められました・・・」
と少し寂し気に目を伏せる。
「兄上」
「建速」
「我らも立ち向かう魂が健やかに育つことを願おう。そして・・・」
「「困難が立ちふさがりどうしようもなくなったとき、1度だけだが力を貸そう」」
2柱が掌を合わせると2つの小さな小さな真っ白な光が空に向かい真直ぐに昇って行った。
「「「魂に救いの祈りを」」」
3柱の声は静かにゆっくりと周囲へと溶けていった。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
転生少女、運の良さだけで生き抜きます!
足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】
ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。
女神はミナの体を創造して問う。
「要望はありますか?」
ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。
迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる