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第三章
14.貴方は美しい
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「失礼いたしました、ローレンス様。もう大丈夫です」
リリアーヌが静かに立ち上がって椅子に座り直した。顔は泣き濡れているが、普段と変わらない落ち着いた声に戻っていた。
ローレンスは黙ってハンカチを差し出した。白い麻で、LとFを組み合わせた意匠が刺繍されている。
「ありがとうございます」
リリアーヌは素直に受け取って、瞼を拭った。
「お恥ずかしいですわ……」
「俺しかいないのだから、気にすることはない」
わざと不愛想に答えて、リリアーヌのほうへ向き直る。
「マテオと離婚するという選択肢はないのか?その……ご両親がもう亡くなっているのなら、ご実家に縛られる必要もあるまい?」
リリアーヌの顔がまた曇った。
「はい、両親の死後、何度か離婚を申し出ましたが聞き入れてもらえないのです。外聞が悪いと……それに伯爵家の爵位ももうマテオに移ってしまってますから、離婚が成立したとしてもどこにも行くあてもなく」
「よくある話ではあるな」
「どうしても離婚したいのならば、結婚前の支度金と両親への支援、それから慰謝料を一括で払えと言われています。わたくしにはどうすることもできませんわ」
「それもよくある話だ」
「ローレンス様」
リリアーヌが居住まいを正してローレンスに懇願した。
「わたくしをここに置いて下さい。今まで通り、このお屋敷で働かせて下さいませ。ご迷惑はおかけしませんから」
「それは構わないが、ただ貴女は表向きは夫のある身で、貴族だ。貴族の夫婦の中には長い間公然と別居している者もいるが、流石に伯爵夫人が悪徳高利貸しに雇われているなどという噂が拡まると貴女の評判が……」
「わたくしは、ローレンス様を悪徳高利貸しだなどとは思っておりません」
リリアーヌは間髪入れずきっぱりと答えた。その言葉に怒気がこもっていることにローレンスは驚く。
「確かに事業としておやりになっていることは称賛されることではないかも知れませんが、借りたお金はお返しする、当然の摂理でございましょう?それにわたくしは社交界に出ておりませんもの、評判など落ちようがございませんわ」
「それはそうだが」
「ですから、わたくしがお借りしたお金は働いて必ずお返しします。今はまだそれしか申し上げられません。その後のことは、その時考えます」
「……そうか。では今まで通り、この屋敷で働いてくれ。それから、貴女がここにいる間、俺は常に紳士であると誓う。だからこの前のようなことは、二度と起こらない。安心してくれ」
この前の、という言葉を聞いて、リリアーヌはさっと顔を赤らめた。
「ありがとうございます……ローレンス様はいつでも紳士ですわ。ですから、今のお言葉を信じます」
その日から、ローレンスはリリアーヌを時々散歩に誘うようになった。
少し前、商会の仕事で得た現金がかなり貯まっていたリリアーヌはその使い道をあれこれ考え、散々迷った末に外出着を一着だけ仕立てた。
それは金茶とクリーム色で縞模様を織り出した美しい絹地で、裁ち方によって見頃やスカートの縞の向きが立体的に変わるというデザインだった。
少し派手ではないかとリリアーヌは心配したが、若いのだからこれぐらい冒険しても問題ないと仕立て屋に押し切られた。その代わり装飾は前立てと袖口に並べたくるみボタンと、襟元と袖口の控えめなレースだけにした。
ドレスが仕立てあがった日、リリアーヌとローレンスは事務所から馬車に乗って屋敷に戻ろうとしていた。普段はほとんど口をきかず真っすぐ屋敷に戻るのに、その日のリリアーヌがいつになく落ち着きがなくソワソワしていることにふとローレンスは気づいて声をかけた。
「リリアーヌ殿、どうかしたのか?今日は心ここにあらずといった感じがするが」
窓から往来を眺めていたリリアーヌははっとして答えた。
「し、失礼いたしました」
「いや、いいんだ。だが、何か気にかかることでもあるのか?」
「いえ、あの……」
「いいから言ってみなさい」
「あの……寄って頂きたいところがあるのです……」
「寄り道か?珍しいな。構わんよ。どこだ?」
「……仕立て屋に……」
ローレンスはリリアーヌの口から仕立て屋に寄りたいなどという言葉が出るとは思ってもいなかったので大層驚いた。
「仕立て屋?貴女が?」
リリアーヌは耳まで真っ赤になって答えた。
「申し訳ございません……借金のある身でこのような贅沢が許されないのは十分承知しておりますが、商会のお仕事で頂いたお金が少し貯まりましたので、ドレスを一着だけ……」
すると突然ローレンスが声を上げて笑い出したので、リリアーヌは心臓が止まりそうになった。
(ローレンス様が、笑ってらっしゃる……!)
「何だ、そんなことか!貴女が働いて稼いだ金だ、何を気にする必要がある?借金は毎月きちんと返してもらっているのだから、それ以外は好きに使えばいい。誰にも遠慮は要らん。おい、南通りに行ってくれ」
御者が馬車の向きを変える。ローレンスが座席に座り直した。
「一着しか仕立てなかったのか?」
「え?あ、はい」
「勿体ないことを……貴女はもう少し自分を大切にしたほうがいい。もっと我儘になって、貪欲になりなさい。こんなにも美しいのだから」
リリアーヌの胸が苦しくなった。自分が美しいなどと思ったことはない。むしろあの夜マテオに酷い言葉を投げかけられてから、自分は醜い惨めな女なのだとずっと思っていた。
「いえ、一着で十分でございますわ!それよりそんな、美しいなどと、お世辞を仰らないで下さい」
「お世辞ではないよ。貴女は美しい。……着いたぞ。一緒に行こうか?いい機会だからあと何着か……」
「いっ、いえ!とんでもない。ローレンス様はこちらでお待ちになって下さい。すぐ戻って参りますから!」
いつになく焦ったリリアーヌはバタバタと馬車から降りて店に駆け込んだのだった。
(やっぱりこの色にして正解だったわ。素敵……)
その夜、家事を終えて自室に戻ったリリアーヌは、衣装箱を開けてうっとりと真新しいドレスを眺めた。
『貴女は美しい』
ローレンスの言葉が蘇ってくる。
夕食後、いつものように茶を運んで行ったリリアーヌに、ローレンスはいつになく熱心に何度も仕立てたドレスを着て見せてくれと頼んできたのだが、リリアーヌは固辞したのだった。
(あんなに熱心に言って下さったのだから、お見せすれば良かったかしら……ローレンス様、お気を悪くなさってないと良いのだけれど)
今になってローレンスの残念そうな顔を思い出して、じわじわと後悔の念が込みあがってくる。
それによくよく考えてみれば、外出着を仕立ててはみたもののどこにも出かける予定も着ていく場所も思いつかない。リリアーヌの華やいだ気分は急速に萎んでいってしまった。
(なんだかわたくし、馬鹿みたいね。残念だけど、このドレスが日の目を見る時はなさそうだわ。もっと早く気づけばよかった)
リリアーヌは小さな溜息をつくと、ドレスを包んでいた薄紙を元に戻して衣装箱の蓋を閉じ、箪笥にそっとしまったのだった。
それから数日経ったある日の午後、リリアーヌが厨房でパイを焼いていると突然ローレンスが現れ、開いていたドアをノックした。
「ローレンス様、どうかなさいましたか?このような場所にわざわざ」
厨房の入り口で立ったまま中に入ってこないローレンスに近づく。それにしても背が高い。リリアーヌはローレンスの肩のあたりまでしか届かない。
「今、時間はあるか?」
「はい?」
思ってもみなかった質問にリリアーヌは首を傾げた。
「急ぎで片づけないといけない仕事はあるか?」
「いえ、そこまで切羽詰まったものはございませんが、それが何か?」
「そうか……もし差し支えなければ、ちょっと付き合ってもらえないか?」
「?」
「……俺は時々、王立公園に散歩に出かけるんだが、その、もし貴女さえ良ければ一緒に……今の時期雪の庭園がとても綺麗なので……嫌いでなければ……」
柄にもなく顔を横に向けてぼそぼそと呟いたローレンスを見ていたリリアーヌも、答えに詰まってしまう。
「あ、はい、す、好きです。いえ、散歩は。つ、連れて行って下さるのですか?」
「あ、ああ……馬車を準備させて来る」
「では、支度をして参りますね」
自室に戻ろうとしたリリアーヌをローレンスが呼び止めた。
「リリアーヌ殿」
「はい?」
「……その格好で出かけるのか?」
その質問の意味を理解したリリアーヌは花が咲いたような笑顔で答えた。
「いいえ、いいえ、着替えて参りますわ、ローレンス様!」
軽くお辞儀をすると、小走りで階段を駆け上がる。
息を切らせて客室に飛び込むと箪笥から衣装箱を引っ張り出し、大急ぎで真新しい外出着を身に着けた。
あまり時間がないのが惜しかったが、波打つ黒髪を緑色のリボンでまとめ、背中にゆったりと流れ落ちるように形作る。
小さな帽子を被り、手袋を嵌め、コートを手に自室を後にして玄関に向かうと、既にローレンスが階段の下で待っていた。
呼吸を落ち着かせ、静かに階段を降りる。
「お待たせいたしました、ローレンス様」
その声に顔を上げたローレンスは、一瞬大きく目を見開いて息を吸い込むと、感嘆の声を洩らした。
「素晴らしい」
リリアーヌは頬を染めて問いかけた。
「少し派手かもと思ったのですが、おかしくありませんか?」
「想像以上だ」
そう言うとローレンスは左手を差し出した。
「馬車の準備ができている。さあ行こう。アラン、出かけてくる」
「行ってらっしゃいませ」
リリアーヌが静かに立ち上がって椅子に座り直した。顔は泣き濡れているが、普段と変わらない落ち着いた声に戻っていた。
ローレンスは黙ってハンカチを差し出した。白い麻で、LとFを組み合わせた意匠が刺繍されている。
「ありがとうございます」
リリアーヌは素直に受け取って、瞼を拭った。
「お恥ずかしいですわ……」
「俺しかいないのだから、気にすることはない」
わざと不愛想に答えて、リリアーヌのほうへ向き直る。
「マテオと離婚するという選択肢はないのか?その……ご両親がもう亡くなっているのなら、ご実家に縛られる必要もあるまい?」
リリアーヌの顔がまた曇った。
「はい、両親の死後、何度か離婚を申し出ましたが聞き入れてもらえないのです。外聞が悪いと……それに伯爵家の爵位ももうマテオに移ってしまってますから、離婚が成立したとしてもどこにも行くあてもなく」
「よくある話ではあるな」
「どうしても離婚したいのならば、結婚前の支度金と両親への支援、それから慰謝料を一括で払えと言われています。わたくしにはどうすることもできませんわ」
「それもよくある話だ」
「ローレンス様」
リリアーヌが居住まいを正してローレンスに懇願した。
「わたくしをここに置いて下さい。今まで通り、このお屋敷で働かせて下さいませ。ご迷惑はおかけしませんから」
「それは構わないが、ただ貴女は表向きは夫のある身で、貴族だ。貴族の夫婦の中には長い間公然と別居している者もいるが、流石に伯爵夫人が悪徳高利貸しに雇われているなどという噂が拡まると貴女の評判が……」
「わたくしは、ローレンス様を悪徳高利貸しだなどとは思っておりません」
リリアーヌは間髪入れずきっぱりと答えた。その言葉に怒気がこもっていることにローレンスは驚く。
「確かに事業としておやりになっていることは称賛されることではないかも知れませんが、借りたお金はお返しする、当然の摂理でございましょう?それにわたくしは社交界に出ておりませんもの、評判など落ちようがございませんわ」
「それはそうだが」
「ですから、わたくしがお借りしたお金は働いて必ずお返しします。今はまだそれしか申し上げられません。その後のことは、その時考えます」
「……そうか。では今まで通り、この屋敷で働いてくれ。それから、貴女がここにいる間、俺は常に紳士であると誓う。だからこの前のようなことは、二度と起こらない。安心してくれ」
この前の、という言葉を聞いて、リリアーヌはさっと顔を赤らめた。
「ありがとうございます……ローレンス様はいつでも紳士ですわ。ですから、今のお言葉を信じます」
その日から、ローレンスはリリアーヌを時々散歩に誘うようになった。
少し前、商会の仕事で得た現金がかなり貯まっていたリリアーヌはその使い道をあれこれ考え、散々迷った末に外出着を一着だけ仕立てた。
それは金茶とクリーム色で縞模様を織り出した美しい絹地で、裁ち方によって見頃やスカートの縞の向きが立体的に変わるというデザインだった。
少し派手ではないかとリリアーヌは心配したが、若いのだからこれぐらい冒険しても問題ないと仕立て屋に押し切られた。その代わり装飾は前立てと袖口に並べたくるみボタンと、襟元と袖口の控えめなレースだけにした。
ドレスが仕立てあがった日、リリアーヌとローレンスは事務所から馬車に乗って屋敷に戻ろうとしていた。普段はほとんど口をきかず真っすぐ屋敷に戻るのに、その日のリリアーヌがいつになく落ち着きがなくソワソワしていることにふとローレンスは気づいて声をかけた。
「リリアーヌ殿、どうかしたのか?今日は心ここにあらずといった感じがするが」
窓から往来を眺めていたリリアーヌははっとして答えた。
「し、失礼いたしました」
「いや、いいんだ。だが、何か気にかかることでもあるのか?」
「いえ、あの……」
「いいから言ってみなさい」
「あの……寄って頂きたいところがあるのです……」
「寄り道か?珍しいな。構わんよ。どこだ?」
「……仕立て屋に……」
ローレンスはリリアーヌの口から仕立て屋に寄りたいなどという言葉が出るとは思ってもいなかったので大層驚いた。
「仕立て屋?貴女が?」
リリアーヌは耳まで真っ赤になって答えた。
「申し訳ございません……借金のある身でこのような贅沢が許されないのは十分承知しておりますが、商会のお仕事で頂いたお金が少し貯まりましたので、ドレスを一着だけ……」
すると突然ローレンスが声を上げて笑い出したので、リリアーヌは心臓が止まりそうになった。
(ローレンス様が、笑ってらっしゃる……!)
「何だ、そんなことか!貴女が働いて稼いだ金だ、何を気にする必要がある?借金は毎月きちんと返してもらっているのだから、それ以外は好きに使えばいい。誰にも遠慮は要らん。おい、南通りに行ってくれ」
御者が馬車の向きを変える。ローレンスが座席に座り直した。
「一着しか仕立てなかったのか?」
「え?あ、はい」
「勿体ないことを……貴女はもう少し自分を大切にしたほうがいい。もっと我儘になって、貪欲になりなさい。こんなにも美しいのだから」
リリアーヌの胸が苦しくなった。自分が美しいなどと思ったことはない。むしろあの夜マテオに酷い言葉を投げかけられてから、自分は醜い惨めな女なのだとずっと思っていた。
「いえ、一着で十分でございますわ!それよりそんな、美しいなどと、お世辞を仰らないで下さい」
「お世辞ではないよ。貴女は美しい。……着いたぞ。一緒に行こうか?いい機会だからあと何着か……」
「いっ、いえ!とんでもない。ローレンス様はこちらでお待ちになって下さい。すぐ戻って参りますから!」
いつになく焦ったリリアーヌはバタバタと馬車から降りて店に駆け込んだのだった。
(やっぱりこの色にして正解だったわ。素敵……)
その夜、家事を終えて自室に戻ったリリアーヌは、衣装箱を開けてうっとりと真新しいドレスを眺めた。
『貴女は美しい』
ローレンスの言葉が蘇ってくる。
夕食後、いつものように茶を運んで行ったリリアーヌに、ローレンスはいつになく熱心に何度も仕立てたドレスを着て見せてくれと頼んできたのだが、リリアーヌは固辞したのだった。
(あんなに熱心に言って下さったのだから、お見せすれば良かったかしら……ローレンス様、お気を悪くなさってないと良いのだけれど)
今になってローレンスの残念そうな顔を思い出して、じわじわと後悔の念が込みあがってくる。
それによくよく考えてみれば、外出着を仕立ててはみたもののどこにも出かける予定も着ていく場所も思いつかない。リリアーヌの華やいだ気分は急速に萎んでいってしまった。
(なんだかわたくし、馬鹿みたいね。残念だけど、このドレスが日の目を見る時はなさそうだわ。もっと早く気づけばよかった)
リリアーヌは小さな溜息をつくと、ドレスを包んでいた薄紙を元に戻して衣装箱の蓋を閉じ、箪笥にそっとしまったのだった。
それから数日経ったある日の午後、リリアーヌが厨房でパイを焼いていると突然ローレンスが現れ、開いていたドアをノックした。
「ローレンス様、どうかなさいましたか?このような場所にわざわざ」
厨房の入り口で立ったまま中に入ってこないローレンスに近づく。それにしても背が高い。リリアーヌはローレンスの肩のあたりまでしか届かない。
「今、時間はあるか?」
「はい?」
思ってもみなかった質問にリリアーヌは首を傾げた。
「急ぎで片づけないといけない仕事はあるか?」
「いえ、そこまで切羽詰まったものはございませんが、それが何か?」
「そうか……もし差し支えなければ、ちょっと付き合ってもらえないか?」
「?」
「……俺は時々、王立公園に散歩に出かけるんだが、その、もし貴女さえ良ければ一緒に……今の時期雪の庭園がとても綺麗なので……嫌いでなければ……」
柄にもなく顔を横に向けてぼそぼそと呟いたローレンスを見ていたリリアーヌも、答えに詰まってしまう。
「あ、はい、す、好きです。いえ、散歩は。つ、連れて行って下さるのですか?」
「あ、ああ……馬車を準備させて来る」
「では、支度をして参りますね」
自室に戻ろうとしたリリアーヌをローレンスが呼び止めた。
「リリアーヌ殿」
「はい?」
「……その格好で出かけるのか?」
その質問の意味を理解したリリアーヌは花が咲いたような笑顔で答えた。
「いいえ、いいえ、着替えて参りますわ、ローレンス様!」
軽くお辞儀をすると、小走りで階段を駆け上がる。
息を切らせて客室に飛び込むと箪笥から衣装箱を引っ張り出し、大急ぎで真新しい外出着を身に着けた。
あまり時間がないのが惜しかったが、波打つ黒髪を緑色のリボンでまとめ、背中にゆったりと流れ落ちるように形作る。
小さな帽子を被り、手袋を嵌め、コートを手に自室を後にして玄関に向かうと、既にローレンスが階段の下で待っていた。
呼吸を落ち着かせ、静かに階段を降りる。
「お待たせいたしました、ローレンス様」
その声に顔を上げたローレンスは、一瞬大きく目を見開いて息を吸い込むと、感嘆の声を洩らした。
「素晴らしい」
リリアーヌは頬を染めて問いかけた。
「少し派手かもと思ったのですが、おかしくありませんか?」
「想像以上だ」
そう言うとローレンスは左手を差し出した。
「馬車の準備ができている。さあ行こう。アラン、出かけてくる」
「行ってらっしゃいませ」
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