37 / 40
狂犬Subは根こそぎ貪る
脅かす存在
しおりを挟む
改めて自覚すると落ち着かない。あまりに穏やか過ぎて、本当にこれはあるのか? と疑いたくなってしまう。
ここにないようであるもの。悪くはない、と思う。
少なくともあって困るものではない。ただ、心もとなくて何かしたほうがいいような気になってくる。
何か起きれば、呆気なく壊れて消えてしまいそうな泡みたいな儚さがある。
人狼である俺や、元の世界のヤツらよりもか弱い守流のような――。
「……ん?」
ふと帽子の中で俺の耳が守流の声を拾う。
知り合いにでも会ったのだろう。
軽い驚きと、焦りと、動揺――嬉しさ。
俺の胸がざわつく。
守流の心が揺れている。契約を交わして繋がり合ったせいで、鮮明に心の動きを感じてしまう。
これは俺の平穏を壊すものだ。
腹の底から憤りに近い焦燥が込み上げ、俺は思わず立ち上がった。
見知らぬ場所でも守流の気配と声が聞こえる方角を辿って行けば、その姿を見つけることができた。
透明の容器に液体が入ったものが陳列された、大きな箱の前に守流はいた。
その近くには見慣れぬ男が守流に微笑み、声をかけている。
身なりが清潔で品を感じさせる優男。守流の顔がはにかんでいるように見えて、俺の胸が焼け付く。
足早に近づいていけば、俺に気づいて守流が振り向く。
伝わってきたのは強い焦りと悲しみ。
腹立たしかったが、敢えて俺は唇に笑みを浮かべて守流へ寄った。
「守流、そいつは誰だ?」
声をかけながら肩を抱けば、守流の顔が耳まで赤くなる。そして俺と優男をオロオロと見交わしながら教えてくれた。
「えっと、仕事先でお世話をしているおばあちゃんのお孫さんで、須藤葉祐さん。よくおばあちゃんに会いにいらっしゃるんだ」
「ただの顔見知りか……早くあっちへ行くぞ」
肩を強く抱いたまま守流を連れて行こうとした時、「あの……っ」と優男が声を震わせながら俺たちを呼び止める。
振り向いて視線を合わせてやると、優男は明らかに委縮しながらも声をかけてきた。
「失礼ですが、貴方は古矢さんの――」
言葉にするのは面倒だ。逐一本当のことを言ったところで理解はしないだろうし、コイツの理解を得ても意味がない。
だから俺は無言で守流の唇を奪ってやった。
見て分かれ。察しろ。
これは俺のものだ。
優男から息を引く音がする。守流からも同様の音が聞こえ、酷く動揺した気配が伝わってきた。
フッ、と込み上げた笑いを表に出してから、俺は守流を連れてその場から離れる。
「……アグ……外で、あんなことは――」
「忘れるな。もう守流は俺のものだ。他を見るな」
俺が低い小声で囁けば守流は押し黙り、俺が促すままに歩いてくれた。
ここにないようであるもの。悪くはない、と思う。
少なくともあって困るものではない。ただ、心もとなくて何かしたほうがいいような気になってくる。
何か起きれば、呆気なく壊れて消えてしまいそうな泡みたいな儚さがある。
人狼である俺や、元の世界のヤツらよりもか弱い守流のような――。
「……ん?」
ふと帽子の中で俺の耳が守流の声を拾う。
知り合いにでも会ったのだろう。
軽い驚きと、焦りと、動揺――嬉しさ。
俺の胸がざわつく。
守流の心が揺れている。契約を交わして繋がり合ったせいで、鮮明に心の動きを感じてしまう。
これは俺の平穏を壊すものだ。
腹の底から憤りに近い焦燥が込み上げ、俺は思わず立ち上がった。
見知らぬ場所でも守流の気配と声が聞こえる方角を辿って行けば、その姿を見つけることができた。
透明の容器に液体が入ったものが陳列された、大きな箱の前に守流はいた。
その近くには見慣れぬ男が守流に微笑み、声をかけている。
身なりが清潔で品を感じさせる優男。守流の顔がはにかんでいるように見えて、俺の胸が焼け付く。
足早に近づいていけば、俺に気づいて守流が振り向く。
伝わってきたのは強い焦りと悲しみ。
腹立たしかったが、敢えて俺は唇に笑みを浮かべて守流へ寄った。
「守流、そいつは誰だ?」
声をかけながら肩を抱けば、守流の顔が耳まで赤くなる。そして俺と優男をオロオロと見交わしながら教えてくれた。
「えっと、仕事先でお世話をしているおばあちゃんのお孫さんで、須藤葉祐さん。よくおばあちゃんに会いにいらっしゃるんだ」
「ただの顔見知りか……早くあっちへ行くぞ」
肩を強く抱いたまま守流を連れて行こうとした時、「あの……っ」と優男が声を震わせながら俺たちを呼び止める。
振り向いて視線を合わせてやると、優男は明らかに委縮しながらも声をかけてきた。
「失礼ですが、貴方は古矢さんの――」
言葉にするのは面倒だ。逐一本当のことを言ったところで理解はしないだろうし、コイツの理解を得ても意味がない。
だから俺は無言で守流の唇を奪ってやった。
見て分かれ。察しろ。
これは俺のものだ。
優男から息を引く音がする。守流からも同様の音が聞こえ、酷く動揺した気配が伝わってきた。
フッ、と込み上げた笑いを表に出してから、俺は守流を連れてその場から離れる。
「……アグ……外で、あんなことは――」
「忘れるな。もう守流は俺のものだ。他を見るな」
俺が低い小声で囁けば守流は押し黙り、俺が促すままに歩いてくれた。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
溺愛アルファは運命の恋を離さない
リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27)
──愛してる。俺だけの運命。
婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。
ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。
新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!?
※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる