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清純Domはすべてを捧げる
異世界からの逃亡者
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◇ ◇ ◇
ガッ、ガッ、と。
目の前の食いっぷりに僕は目を丸くするばかりだった。
僕の家に連れて来て早々、彼のお腹が盛大に鳴った。
見たところ大きなケガは見当たらなくて、取り敢えず買い置きの冷凍食品をいくつか出したら、一気に食べ尽くされてしまった。
しかも「もっと食わせろ」との声。
豪快な食べっぷりの割に、彼の顔は青白いまま。
食べる形相は険しく、鬼気迫るものがあった。
まるで食べ続けないと死んでしまいそうな――。
買い置きの食パンを食べている間に、僕は手早くインスタントラーメンを作る。ひとパック五袋入り。大鍋に全部入れて煮立たせた。
「これで足りるかな?」
ドン、と鍋を目の前に置けば、彼はフォークを手にして直に麺をすすり出す。
「あっちぃ! こんなクソ熱いモン出すな!」
怒鳴りながらも必死に食らう姿が、やけに痛々しく見えてくる。
僕は彼の隣に座って声をかける。
「あの、僕は古矢守流。君の名前を教えてくれますか?」
「……アグーガル」
「アグーガルさん、ご飯、これで足りますか?」
「全っ然。良質な肉を食らえば少しは持つがな」
「肉は買い置きがないけれど、卵なら――」
「あるならくれ。生でいい。この中にブチ込んでくれ」
言われるままに僕が卵を次々と割って鍋へ入れると、グチャグチャと麺に絡めてアグーガルさんが食す。
すると顔に血の気が戻り、アグーガルさんの食べる勢いが落ち着く。
完食してフーッと息をつくと、鋭い目で僕を射抜いた。
「……お前、なぜ俺を助けやがった?」
感謝なんて微塵もない。敵意のかたまりをぶつけられ、僕は固まってしまう。
「た、倒れていたから、助けなきゃと思って……」
「弱っているSubなら利用できると思ったか? そんな貧弱な体じゃあ、いくらDomでも支配できるSubなんかいないだろうしなぁ」
サブ? ドム?
知らない単語に首を傾げる僕を、アグーガルさんが鼻で笑う。
「善人ヅラしながら、さりげなく俺に命令するのは気分が良いか?」
「命令? 僕はそんなこと――」
「誰にも相手にされないから、こんなやり方でないとDomの衝動を解消できないなんて、哀れなヤツだ」
「あの、何を言ってるのかまったく分からないんですが……」
「嘘をつくな。『いい子だから』なんて命令しやがって」
「ご、ごめんなさい、子供扱いして……っ」
慌てて僕は頭を下げる。
確かにあの言い方は怒って当然だと思う。
明らかに成人している男性には失礼な言い方だった。
口が勝手に動いたから、なんて言い訳はできない。
しっかり謝らないと――ふと頭を上げると、アグーガルさんは目を丸くしていた。
「……マジで分からないのか?」
「は、はい……」
「そういや、耳も尻尾もないな……でもコイツは紛れもなくDom――」
今度は口元に手を置き、アグーガルさんがブツブツと呟き出す。
しばらくして、大きなため息とともに犬耳が頭上で寝た。
「――俺の世界から落ちたのか。アイツらのせいで」
急に声が掠れて泣きそうな色が覗く。
怖い人から急に迷い子のようになって、アグーガルさんの心が不安定になっている。
どうも人間ではないみたいだけれど、困っているのは間違いない。助けてあげないと。
胸奥から使命感が湧き出てきて、僕は彼の顔を覗き込んで、細まった瞳と視線を合わせた。
「あの、事情を教えてくれませんか?」
「知ってどうする?」
「できる限りアグーガルさんの力になりたいです」
「……世話をしたがるのはDomの本能か、気持ち悪い。だがアイツらよりはマシ、か」
気持ち悪いって……。
よく分からない中で悪口を言われたのは理解できて、ちょっと傷つく。そんな僕をよそにアグーガルさんは教えてくれた。
ガッ、ガッ、と。
目の前の食いっぷりに僕は目を丸くするばかりだった。
僕の家に連れて来て早々、彼のお腹が盛大に鳴った。
見たところ大きなケガは見当たらなくて、取り敢えず買い置きの冷凍食品をいくつか出したら、一気に食べ尽くされてしまった。
しかも「もっと食わせろ」との声。
豪快な食べっぷりの割に、彼の顔は青白いまま。
食べる形相は険しく、鬼気迫るものがあった。
まるで食べ続けないと死んでしまいそうな――。
買い置きの食パンを食べている間に、僕は手早くインスタントラーメンを作る。ひとパック五袋入り。大鍋に全部入れて煮立たせた。
「これで足りるかな?」
ドン、と鍋を目の前に置けば、彼はフォークを手にして直に麺をすすり出す。
「あっちぃ! こんなクソ熱いモン出すな!」
怒鳴りながらも必死に食らう姿が、やけに痛々しく見えてくる。
僕は彼の隣に座って声をかける。
「あの、僕は古矢守流。君の名前を教えてくれますか?」
「……アグーガル」
「アグーガルさん、ご飯、これで足りますか?」
「全っ然。良質な肉を食らえば少しは持つがな」
「肉は買い置きがないけれど、卵なら――」
「あるならくれ。生でいい。この中にブチ込んでくれ」
言われるままに僕が卵を次々と割って鍋へ入れると、グチャグチャと麺に絡めてアグーガルさんが食す。
すると顔に血の気が戻り、アグーガルさんの食べる勢いが落ち着く。
完食してフーッと息をつくと、鋭い目で僕を射抜いた。
「……お前、なぜ俺を助けやがった?」
感謝なんて微塵もない。敵意のかたまりをぶつけられ、僕は固まってしまう。
「た、倒れていたから、助けなきゃと思って……」
「弱っているSubなら利用できると思ったか? そんな貧弱な体じゃあ、いくらDomでも支配できるSubなんかいないだろうしなぁ」
サブ? ドム?
知らない単語に首を傾げる僕を、アグーガルさんが鼻で笑う。
「善人ヅラしながら、さりげなく俺に命令するのは気分が良いか?」
「命令? 僕はそんなこと――」
「誰にも相手にされないから、こんなやり方でないとDomの衝動を解消できないなんて、哀れなヤツだ」
「あの、何を言ってるのかまったく分からないんですが……」
「嘘をつくな。『いい子だから』なんて命令しやがって」
「ご、ごめんなさい、子供扱いして……っ」
慌てて僕は頭を下げる。
確かにあの言い方は怒って当然だと思う。
明らかに成人している男性には失礼な言い方だった。
口が勝手に動いたから、なんて言い訳はできない。
しっかり謝らないと――ふと頭を上げると、アグーガルさんは目を丸くしていた。
「……マジで分からないのか?」
「は、はい……」
「そういや、耳も尻尾もないな……でもコイツは紛れもなくDom――」
今度は口元に手を置き、アグーガルさんがブツブツと呟き出す。
しばらくして、大きなため息とともに犬耳が頭上で寝た。
「――俺の世界から落ちたのか。アイツらのせいで」
急に声が掠れて泣きそうな色が覗く。
怖い人から急に迷い子のようになって、アグーガルさんの心が不安定になっている。
どうも人間ではないみたいだけれど、困っているのは間違いない。助けてあげないと。
胸奥から使命感が湧き出てきて、僕は彼の顔を覗き込んで、細まった瞳と視線を合わせた。
「あの、事情を教えてくれませんか?」
「知ってどうする?」
「できる限りアグーガルさんの力になりたいです」
「……世話をしたがるのはDomの本能か、気持ち悪い。だがアイツらよりはマシ、か」
気持ち悪いって……。
よく分からない中で悪口を言われたのは理解できて、ちょっと傷つく。そんな僕をよそにアグーガルさんは教えてくれた。
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