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第一話 気になるお隣さんをウォッチング
授業中の戦闘ごっこ
しおりを挟む中間テストが終わって散々な結果でも俺は気を張っていたらしい。
結果がすべて返ってきて、母ちゃんから次回のテストで点数上がるまで小遣いカット宣言されて、それはもうガッカリした日の翌日。
「……え……今、何時? ……はぁぁぁぁ?!」
ささやかながらのテスト勉強に加えて、お隣さんのファンタジーコスプレ寸劇鑑賞を連日していたせいもあって、寝不足が積み重なっていたのは自覚してたけど……昼の十時かよ! 大遅刻確定じゃねーかっ!
慌ててベッドから飛び起きて制服に着替えてリビングへ向かうと、テーブルの上に弁当とバナナ、そしてメモが置かれていた。
『しっかり行って、怒られて来なさい 母より』
うう……高校に入ってから、義務教育終わったんだし自分のケツは自分で拭けるようになってね、という母ちゃんの教育方針で、朝の起床が遅くても起こしてくれないようになった。ガミガミ怒るタイプじゃないけれど、結構シビアな愛のムチは効きまくる。
俺は急いでバナナを食べ切ると、弁当をカバンに入れて家を飛び出した。
どうにか三限目の終わりぐらいには滑り込めそうか? でも授業中に駆け込んで注目されたくないから、休み時間になるまで待ってたほうがいいか……?
考えながら走り続ければ、授業中で静まり切った学校へ到着する。
靴を履き替え、乱れた息を整えている最中――。
「――くな……待て! ――……逃げるのだけは――」
玄関から近い所にある階段あたりから、人の声と、強く踏み込んだり走ったりする足音が聞こえてくる。
声は、たぶん圭次郎。
授業中なのに何やってんだ? まさか教室抜け出して寸劇の練習?
足を忍ばせて曲がり角まで移動し、俺は少しだけ顔を覗かせて様子を探る。
てっきり圭次郎だけだと思っていたらそうじゃなくて、思わず俺の目が点になった。
階段の前に立ち、圭次郎は険しい顔で見上げていた。
その視線を追っていくと――階段の踊り場に立つ、全身黒タイツの男。顔まで黒いマスクで覆い尽くしてやがる。
……誰?! 何してんだよ、こんな所で!
息を殺して二人の様子をうかがっていると、圭次郎は男に向かって指差した。
「火の精霊よ、紅蓮の鎖で我が敵を捕縛せよ……っ!」
低い声で圭次郎が呟いた瞬間、男は踊り場から一気に階段の一番下まで飛び降りて着地する。
そしてすかさず圭次郎に迫りつつ、手を伸ばす――咄嗟に圭次郎が横へ飛び、離れながらも指差しは止めない。
ババッ、と唐突に圭次郎が指差した腕を振りまくれば、男は届くはずのないその手を避けるように階段を飛び上がったり、降りたり、跳ねたり。
……緊迫感はあるんだけど、何やってんだコイツら?
火の精霊とか、紅蓮の鎖とか、中二病満載な単語を口にして……まさかここでも寸劇の練習をしてんのか? そういえば今、数学の授業なんだよな。百谷家の長男先生が担当だし、弟が抜け出しても黙認しちゃうか……どうもあの家で圭次郎が一番強いっぽいし。
練習熱心だなあ、本っ当……良い動きしてるな、どっちも。
それだけコスプレ人生に命かけてんだな。すげぇよ、圭次郎。このままコスプレ界の絶対王子になっちまえよ。
ここまで真剣だと心の底から応援したくなってしまう。武器もなければ、腕や脚がぶつかり合うこともない戦闘ごっこでも、双方が本気なら迫力が凄まじい。もうこれ、ショーにして金取ってもいいくらいだ――。
見惚れて夢中になっている俺の前に、急に飛び退いた圭次郎が来る。
「わ……っ」
あまりに唐突で、うっかり俺は声を出して後ろに下がってしまった。
ガッ、と踏み込む内履きの音。ダメ押しだった。
圭次郎と黒尽くめの男が各々にこっちを見てしまった。
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