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終章 愛の糧

時は過ぎて

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 この地に来て三年の月日が経った頃だった。

 朝の食事を終え、日課になっているバラの手入れを二人でしていると、一羽の鳩が俺の肩に止まった。

「急になんだ? ……ああ、脚に手紙が。もしかしてクウェルク様ですか?」

 俺が尋ねると鳩は何度も首を縦に振る――果たして本当にクウェルク様なのか、鳩がよく見せる動きなのか、今の俺には分からない。

 苦笑しているとミカルが「じっとしていて下さいね」と、鳩から手紙を取り外しにかかる。
 その間に俺は鳩のほうへ顔を向けて話しかけた。

「もしかすると今、何か話されているかもしれませんが……申し訳ありません。今の俺にはもう何も分からないのです」

 バラの朝露を糧にするようになり、三か月が経つ頃だっただろうか。
 次第に俺の体はミカルと同じように、朝に目覚め、昼に活動し、夜に眠るようになった。

 そして血は一切必要なくなり、血を吸い上げる牙は縮み、人間と変わらない体となった。

 もう以前のように素早く動くことも、鋭い爪で引き裂くことも、小さな動物を操ることもできない。まだ確証はないが、おそらく俺は人に戻ったのだろう。

 最近は腹が空き、ミカルとともに人と同じ食事が欠かせなくなった。
 食後はミカルが欠かさず飲む、バラの香りが漂う紅茶も楽しんでいる。昼食後にまったりとくつろぎながら紅茶を嗜み、ミカルと会話する時間が一日の中で一番気に入っていた。

 手紙を外したミカルが先に目を通す。それから微笑みながら俺へ手渡した。

「魔の者の王クウェルクからの朗報です。どうやら色々と上手くいったようですね」

 今の生活を堪能しながら、心のどこかで同胞たちのことが引っかかっていた。俺たちが離れた後、退魔師たちと魔の者のぶつかり合いは激しさを増しただろう。

 ミカルとビクトルが抜けて力を弱めただろうが、退魔師の協会には大勢いる。おそらく大人数で挑まれ、数では圧倒的に劣る魔の者たちは苦戦してきたはず。

 朗報という言葉を聞いて、俺は安堵の息をつく。
 何枚もしたためた細かい文字の手紙を読み進めれば、彼らの奮闘ぶりが伝わってくる。

 俺たちがいなくなった後、大規模な戦いが続いたらしい。
 有力な退魔師たちは俺たちを追って、待ち構えていたヒューゴに軒並みやられた。図らずに俺たちが囮となった形だ。クウェルク様も『利用させてもらったぞ』と断言している。

 勝手に離れてしまったことに罪悪感を持っていたが、利用してもらったなら少し心が救われる。
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