薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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四章 そして彼は愛を知る

襲撃

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 ミカルの忌々しげな口調に、目の前の追手たちの素性を察する。
 魔の者を相手にする退魔師たちの中で、彼らは人を始末することに特化した者たちなのだろう。

 表向きは魔の者に寝返った者を始末するため。しかし実際は自分たちが優位になるよう、都合の悪い権力者や有力者を手にかけ、協会が自由に動ける状況を作り上げてきたことが透けて見える。

 ああ、魔の者にとって厄介だからということを差し引いても、退魔師協会というのは不愉快で目障りで、反吐が出る。

 俺はミカルの隣に並び、腰に挿した剣の柄へ手を置き、追手たちを見据えた。

「元仲間で情もあるだろうが、あれらは始末するぞ」

「彼らへの情など最初から持っておりませんから、どうぞ遠慮なく」

 ミカルも細身の剣を抜く。何度も刃を交えたことはあるが、決して折れることのなかった剣。敵を同じにして戦う日が来るとは……と思わずにいられない。

 谷を挟んで互いに攻撃姿勢を取りながら睨み合う。
 下手に動けば隙を突かれる。それは追手たちも感じているらしく、誰も動こうとしない。

 滝の音だけが響き渡る中――俺たちの間に影が割り込んだ。

「くっ……後ろにもいたか!」

 振り向くよりも先に俺たちは各々にその場を飛び退く。
 ブゥンッ、と勢いよく振り下ろされた剣の風圧が、俺を追い駆け、肌を撫でてきた。

 これを合図に谷の向こう側の追手たちも橋を渡り、俺たちへ刃を向けてくる。

 瞬く間に俺とミカルは引き離され、バラバラに応戦していく。

 今までの追手と違い、こいつらは実際に刃を交える戦い方に慣れている。術など使わずとも魔を払う刃だけで魔の者を切り捨て、不要な人間を排除してきたのだろう。

 誰が相手でも俺のやることは変わらない。
 俺を仕留めたがる刃を避け、一人の追手の懐へ入り込んだ瞬間に俺は剣を抜く。

 シュッ――逃げられるよりも先に剣が届く。

 小さな呻きを漏らしながら追手が倒れる。
 まだ息はある。が、助ける素振りも動揺もなく、追手たちは倒れた者に構わず、むしろ躊躇なくその背を踏みつけて俺へ襲いかかった。

 迫る刃をかわし、一旦は逃げる素振りを見せる。
 そして追い駆けようとした彼らを迎え撃つため、剣を鞘に納め、引き抜くと同時に地面を蹴る。

 一瞬で彼らの間を通り、刃を食らわす。
 これがただの退魔師ならば身を守れず倒れるのだが――この追手たちは剣で上手く俺の攻撃を弾き、凌いでしまう。

 不意を突かれてしまったことが痛い。
 橋の間近ではミカルが追手たちに取り囲まれ、追い詰められているのが見える。

 切られるのが先か、崖に落とされるのが先か。
 早く助けなければと俺の中で焦りが募っていく。
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