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四章 そして彼は愛を知る
目的地へ
しおりを挟む山へ夕日が沈む間際に馬車を町に返すよう人へ頼み、俺たちは空よりも早く夜の暗さを漂わせた森の中へと足を踏み入れる。
闇夜でも見える目を持つ俺が前を行きたいところだが、目的の場所はミカルしか知らない。昨夜使った結界石の明かりをランプに灯し、少しでも目立たぬよう息を潜めて進んでいく。
ここまで追手は来るのだろうか? うまく行方をくらませることができていればいいのだが。
俺は気を緩めず、辺りを警戒しながらそんなことを考える。
吸血鬼の王である俺と、退魔師の協会内でも一番の強さを誇るであろうミカル。俺たちが手を踏むとなれば、今は優勢な人間側が一気に劣勢となるだろう。それが分かっていなから見逃すとは思えない。
このまま目的地へ着いても、すぐに追手に囲まれて戦う羽目になるのではないか?
……もしそうなれば、俺が前に出て戦うしかない。ミカルが人間相手と戦うより、俺のほうがうまく戦える。
前を歩くミカルの背を見ながら、必ず守ってみせると心に誓う。
これ以上、人から理不尽を与えられるのはもういいだろう。まさか神はミカルが命を落とすまで、理不尽を味わい続けろというのか?
本当にこの世の神はろくでもない。
そんなことを考えながら歩いていけば、月上がりが差し込む開けた場所が見えてきた。
ザアァァァ――と、細い滝が流れ落ちる音が聞こえる。
木々の合間を縫って森を抜ければ、滝を間近に臨んだ小さく細い木の橋がかけられ、谷間の向こうへと行けるようになっていた。
「もう少しです。無事に着けば、もう何も心配しなくても良くなりますから――」
俺に振り向きながら嬉しそうに話すミカルだったが、スッ、と表情を消して立ち止まる。
ふぅ……と息をついてから、ミカルはハッキリと声を出した。
「隠れても無駄ですよ。侵入者が来たことが分かる目印がありますので……まったく。愛する人とただ穏やかに暮らしたいだけなのですがね」
きっとミカルの本音だろう。協会に仕返すこともなく、ただ離脱して俺との日々を営む――まあ協会からすれば、それが困るのだろう。いつ俺の頼みを聞いて、魔の者たちに力を貸すのだろうかと気が気でないはず。
しばらくして、橋の向こう側の岩陰から黒い外套をまとった男たちが数名ほど現れる。
退魔師なのだろうが、今までの追手とは毛並みが少し違う気がする。姿は見えるのに気配はなく、足音なども聞こえない。むしろこれは――。
「ミカル。コイツらは厄介者を排除する役目の者か?」
「裏方の雑用係ですよ。協会に都合の悪いものを、闇に紛れて消す役目の者……面倒ですね」
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