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四章 そして彼は愛を知る

気づけば馬車の中

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   ◇ ◇ ◇

 ――ガタ……ゴト、ゴト。
 体の揺れと下からの振動に気づいて、俺は目を覚ます。

 狭い個室に低い天井。溝のような所に俺は寝かされているようで、左右は狭く、寝返りを打つのもやっとだ。

 頭上の近くには窓があるようで、遮光の布を垂らしていても外の明るさが分かる。
 かすかに赤みを帯びている。もう間もなく夕刻を迎えようとしているらしい。

 つまり俺は昨夜、ミカルと力尽きるまで交わって眠りについた後、今の今まで目を覚まさなかったということ。

 次第に意識が冴え、己の状況を把握していく。

 俺は今、馬車の中で寝かされている。
 体は拘束されていない。本来なら足を置く所に寝かされているが、少しでも寝心地が良いようにと布が敷かれている。

 退魔師たちに掴まった訳じゃない。恐らくミカルが馬車を借り、俺を寝かせたまま移動しているのだろう。

 体を起こし、俺は椅子に腰かけてから御者に声をかける連絡窓をコンコンと叩いてみる。
 すると間もなく馬車は走るのをやめ、中へ出入りする扉がそっと開いた。

「カナイ、おはようございます、よく眠れましたか?」

 夜もまともに眠れていないだろうに、顔を出したミカルの表情は活き活きとしている。
 こいつの活力はいったいどこから来ているんだ? と内心首を傾げていると、ミカルは車内へ乗り込み、俺の隣に座る。

 自分で俺の調子を聞いたくせに、人の答えを聞かず首を伸ばして口付ける。
 まったく……昨夜あれだけ口づけて、まだやり足らなかったのか。

 半ば呆れつつ、俺は目覚めのキスを受け入れる。
 何度か唇を啄むように戯れ、浅く舌を差し入れて、ミカルは俺を味わった。

 名残惜しそうに唇を柔らかく押し付けた後、ミカルは俺の体から離れてくれた。

「目が覚めて、何の相談もなしに移動していて驚いたでしょう? 町で馬車を借りて目的地へ向かっています。もう間もなくで目的地に着きますよ」

「そうか……寝ていたから呆気ないというか、あっという間だな」

「本当は最後まで馬車を走らせたいところですが、山の入り組んだ所を抜けなければいけないので、間もなく徒歩で向かわなくてはいけなくなります。装備は町で買ってきましたから、山のふもとへ着くまでに着替えて下さい」

 ちらりとカナイの目が向かい側の座席へ向く。つられて視線を向ければ、折り畳まれた衣服や外套や靴が置かれていた。

 そしてふと今の自分の格好に気づいてしまう――布に身にまとっているだけだ。何も着ていない。

 布一枚の下は裸だと分かり、俺の中から恥じらいが込み上げてくる。
 顔を熱くしなから体を縮こまらせた俺へ、ミカルが手を差し出す。

「手伝いましょうか?」

「……やめろ。それだけで済ます気ないだろ」

 俺が軽くその手を払うと、ミカルは愉快げに「分かりましたか」と笑った。
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