薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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四章 そして彼は愛を知る

●すべてを捕らえたい

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「助けに来てくれて、ありがとうございます。もし来なかったとしても、どうにか逃げ延びてカナイを探すつもりでしたが……嬉しかったです」

「勘違いするな。お前の血以外が飲めなくなったと分かったからだ。そうでなければ、皆とともに逃げている。人間に囚われるなどあり得ない――」

「でも、今は私に囚われてくれていますよね」

 諦め悪く俺たちの間に一線を引こうとしても、ミカルは甘く囁いて小さな抵抗を奪ってくる。

 ゆっくりと髪や肩口にミカルの唇が落とされる。
 小さなキスを贈られただけで、危うく俺の腰が抜けて座り込みそうだ。

 やめろ、と言うつもりで振り向くが――間近になったミカルの顔に吸い寄せられるように、俺は自分から首を伸ばして口づけていた。

 唇が触れ合った瞬間、ずっと抑え込んでいた疼きが、体の奥底から一斉に這い上がってくる。

 気持ち良い。欲しい。もっと触れて。奥までぐちゃぐちゃに――体が獣に成り果て、ミカルに抱き潰されたがってしまう。
 それと同時に激しい飢えも沸き起こってくる。この世界で唯一、私が口にできる血。そして甘く芳醇な美味なる血。私を熱く抱き締めるこの体の肌の下は、甘美なものが詰まっている。

 ――ミカルが欲しい。
 私がここまで囚われてしまったように、この男のすべてを捕らえたい。

 堪え切れずミカルの唇に牙を立て、俺は軽く吸い上げる。
 わずかな吸血でも強力な快楽が生まれる。一瞬、ミカルの肩が跳ねた後、俺の口内で戯れていた舌の勢いが増す。

「ン……っ……ふ、ぅ……」

 喉の奥から悩ましげな声が漏れてしまう。どうしようもなくミカルを求めてしまっていることに羞恥を覚え、冷え切っていた俺の体が一気に熱をはらむ。

 もう理性が利かない。俺のすべてを晒して、与えて、奪われたい。
 そして同じだけミカルから奪いたい。

 口だけの睦み合いだけでは物足りなくなり、自然と俺は強請るように自分から胸を押し付け、腰を揺らす。拒む気はないと答えるように、ミカルの手が俺の背から腰へと撫で下ろされる。

 たったひと撫で。それだけで腰の奥がさらに疼きを覚え、込み上げてくる淡い快感のもどかしさに俺は感じ入ってしまう。

 ようやく唇を離したミカルが、俺の頭を愛しげに撫でながら妖しく微笑む。

「あちらに寝床がありますから、そこへ……こんなに求めてくれる貴方を愛したい」

 俺が渇望しているのがただの食事ではない、ということをミカルにはっきりと突きつけられる。

 俺は今まで、誰かと愛し合ったことはない。
 一方的に犯されるか、慰められるか、仲間であることを確かめられるか。

 俺を愛したいから抱く、というのはミカルが初めてだ。

 人であった時から知ることのなかったものを、ミカルが教えようとしている。
 これを不快どころか、喜びを覚えてしまうほどには、俺の心はミカルに囚われていた。

 短く、わずかに俺は頷く。
 分かりにくいであろう俺の答えを拾い上げ、ミカルは了承の口づけを俺に贈った。
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