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四章 そして彼は愛を知る

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   ◆ ◆ ◆

 赤く仄暗い夕日が、辛うじて林の中を照らす。

 大きな木の陰に隠れた私は背中を寄りかからせ、乱れた息で胸を上下させる。

「ハァ、ハァ……まったく。理由ができれば、仲間すら容赦なく排除ですか……これだから退魔師は……」

 汗を滴らせながら失笑してしまう。
 協会の内部に入り、影響力をつけて、少しは腐った根を治せたかと思っていたが――根本は何も変わっていなかったらしい。

 よほど私を始末したかったのだろう。近々カナイを協会へ連行しに来るという動きは察していたが、ここまで私に追手を向けるとは思わなかった。

 カナイたちが連れて行かれ、ビクトルとともに拘束された後。
 隙を突いて屋敷を脱出したものの、それを読んでていた協会は追手を先回りさせ、私たちを待ち構えていた。

『ミカル・アルゲッティ、ビクトル・ベレディン! 両名を魔に染まりし罪により、協会から除名し、その罪を滅する』

 顔なじみの中年退魔師――いつも年下の私の立場が上ということに、不満げな顔を見せていた卑屈な男――が声高に協会の決定を押し付け、十数名ほどを私たちにけしかけてきた時には、内心ひどく呆れてしまった。

 そしてビクトルとともに逃亡し、新たにやってくる追手たちをかわしながら、次第に確信していく。

 協会の本命は私の排除。カナイのことはおまけ程度だ。
 それほど以前の状態に戻りたかったのだと分かり、私の中でわずかに存在していた協会への期待は潰えた。

 前々から私は魔の者との対話と、滅する以外の道を提案してきた。
 それが本気なのだとようやく理解したのは、カナイを捕らえて私邸に連れ込んだ時なのだろう。そうでなければもっと早くに私を排除したはず。

 私の始末が目的ならば話は早い。
 ビクトルに先へ行くよう提案し、私は囮になる道を選んだ。

 カナイが汚される前に、助けが間に合うように――。

「ようやく、カナイが私へ心を開きかけているというのに……邪魔はさせませんよ」

 まだ動悸は落ち着かないが、幾分と呼吸は楽になった。
 耳をすませば己の鼓動だけでなく、遠くのほうから疎らに駆けてくる足音が聞こえてくる。

 ふぅ――、と長息を吐き出した後、私は足下の柔らかな腐葉土を蹴って走り出す。

 ここはまだ私にとって不利な場所。
 私に手出しができなくなる罠を仕掛けられるような森へ逃げ込むまでは、本格的に戦えない。

 こんな所でやられる訳にはいかない。
 逃げ切った先にある希望を活力にし、私は林から木々が茂る森へと向かっていった。
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