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三章 バラの香に囚われて

なぜ合流できたのか

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「大、丈夫だ……しばらくすれば収まる。それよりも、状況を――」

 無理やり体から湧き上がる疼きを押し殺し、ヒューゴに尋ねる最中、

「クク、無事か?!」

 ビクトルが部屋へ駆け込み、即座にククの元へ駆け寄る。心配で仕方がないことが隠せないしかめ面。ミカル同様、完全にこちら側へ来てしまっている。

 即座にククの結界石を外すと、さらに全身を見回し、何かされたかを確かめる。
 叩かれて頬が赤くなっている以外は問題がないと分かり、少し安堵の息をついた後、ビクトルはククの頬にそっと手を当てた。

「この姿でも手を出したのか、コイツらは……」

「私が教えた通りだっただろ、ビクトル? 以前よりもマシにはなったが、本質は何も変わってはおらぬ。むしろ一部は表に出ぬようにと、陰湿さが際立つようになった」

 か弱い見た目にそぐわぬ物言いをククがしても、ビクトルは何も驚かない。ちゃんと正体を知っている証だ。

 ククは立ち上がり、手首をぶらつかせながら俺を見下ろす。

「カナイよ。身を挺して私を守ろうとしてくれたこと、恩に着るぞ。ここを離れて同胞の元へ戻ったらすぐ休め。追手の心配はせずとも良い。我らで返り討ちにしてくれよう」

 話しながらククの姿が徐々に膨らみ、歪み、本来の姿へと変わっていく。
 かすかに白緑色が混じった銀髪は真っすぐに背中まで伸び、背丈も中背の男らしいものへと変化する。大きな紅玉の目は小さくなり、穏やかながらも精悍なたくましい顔つきへと戻る。

 魔の者の王クウェルク様。俺よりも長く生きられている故の余裕ある空気が、まだ脱出を終えていない俺たちに安心感を与えてくれる。

「ビクトル、ヒューゴ、よく助けに来てくれた。喧嘩せずに合流できたか?」

 そこは俺も気になっていたところだ。ビクトルもミカル同様に、手強い退魔師として何度も俺たちの前に立ちはだかってきた男だ。

 どんな経緯があったか知る由もないヒューゴたちには、ビクトルが味方になったと言っても絶対に信じはしないだろう。だが、こんなに早く合流して助けに来てくれたところを見ると、まったく揉めずに受け入れたのだと推測できる。

 魔の者は警戒心が強い。特にヒューゴは輪をかけて用心深く、人相手ならば特に信用しない。そんな男がビクトルと助けに来たことが意外だった。

 ヒューゴは顔色ひとつ変えず、淡々と事実を告げた。

「はい、問題なく。この者の体からクウェルク様の匂いが色濃くありましたので、すぐに精を受けた者だと分かりました。身も心もすべてクウェルク様へ捧げた証。すぐに同胞であると判断できました」

 ……そうか、このために一晩必要だったのか。
 人狼の鼻の良さがここまでだと知らなかったであろうビクトルが、ヒューゴに顔を向けてぎょっとする。そして頬を赤く染めてうつむき、羞恥に耐えようと震えていた。
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