上 下
58 / 82
三章 バラの香に囚われて

援軍

しおりを挟む
「クク……できれば目を閉じて、耳を塞いで、俺の見苦しい姿を見ないで欲しい。頼む」

 俺の願いにククは体を横たえたまま、涙目でコクコクと頷く。だが、

「ちゃんと見てもらわないと困るなあ。俺たちに逆らったらどうなるか……おい、目を閉じるなよガキ。お前らの王がどれだけいやらしい生き物か、しっかり見てやれ」

 見逃すどころか、さらなる羞恥を与えようとしてくる退魔師たちに、怒りで俺の頭の中が焼き切れそうだ。

 心の中で憎悪と嫌悪をぶつけるが、何も気づかず彼らは嘲笑を浮かべるばかり。
 そして俺の下半身を陣取ったままの若い退魔師が、俺の腰へと手をかけ、衣服を脱がしにかかる。

 ずり……と下半身の肌が露わになりかけたその時――。

 ――バンッ!
 荒々しく扉が開く音がした。

 一斉に退魔師たちが振り返り、その姿を見た瞬間。
 彼らの喉や胸から血が飛び散り、呆気なく倒れていく。

 血の香りに混じって鼻へ伝わる、よく馴染んだ匂い。
 姿を視界に入れるよりも前に、俺は窮地を救ってくれた者の正体に気づいた。

「ヒューゴ……!」

「カナイ様! お待たせして申し訳ありません……っ」

 早急にククを抱き起して無事を確かめた後、ヒューゴが俺の元へと駆け付ける。

 何十年も離れずに苦楽を共にしてきた、この世の誰よりも俺のことを見知ってきた人狼の僕。
 ひと月ほど会わなかったせいで、いつになくヒューゴの顔が新鮮に思えてならない。

 ヒューゴは俺に触れようと手を伸ばす。だが俺の衣服に指先がついただけで、バチィッ、と小さな雷が生まれたかのような音と痺れが走る。

 ついさっきククを起こした時にはならなかった現象。それだけ俺へ念入りに術を施していたという証だ。
 忌々しげに舌打ちし、自らが傷つくのを恐れずにヒューゴは俺の結界石を外そうとする。慌てて俺は首を横に振った。

「慌てるな……っ、これには外し方がある。結界石の中で色が違う石を砕けば、それで解除できるはずだ」

 俺の話に一瞬ヒューゴは目を丸くした後、すぐ行動に移してくれる。
 先に手首を封じる結界石を壊し、その次に両足首も自由にしてくれ、俺はどうにか体を起こした。

「助かったヒューゴ……ありがとう」

「もったいないお言葉……もっと俺が強ければ、貴方をこんな目に合わせず済んだのに」

 苦々しい口調で顔を悔しげにしかめながら、ヒューゴが俺の背へ手を置いてくる。
 特に他意のない触れ合い。しかし薬を飲まされ、体の感覚を狂わさされた俺には淫らな刺激だった。

「……ッ」

「カナイ様? まさか、何かされたのですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...