薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

●反転する感情

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 ただでさえ体を繋げたせいで心が揺さぶられやすくなっているのに、素のままでも激しく動揺することを言われて、俺の頭がひどく乱れていく。

 ずっと理解できない男だと思っていたのに、遠い過去の接点が見えてしまったせいで、急に心が昂って止まらない。

 目を見開いて驚き固まる俺の意識を、ミカルが口づけで呼び戻す。

「唐突に命以外のあらゆるものを理不尽に奪われ、途方に暮れていた私へ、貴方は声をかけてくれた……そして私を抱擁しながら「すまない」と謝ってくれましたよね? 理不尽な現状に涙を流してくれましたよね? あの邂逅で、私はどれだけ救われたことか……」

「……っ、私が……っ、お前に理不尽を与えた要因を、作ったのだぞ……っ?」

「カナイはあの惨状を嘆いてくれた……私にとって、人よりも魔の者のほうが情け深いと思うきっかけでしたね。あの日から、貴方は私の特別なんです」

 言いながらミカルは私の中を掻き混ぜ、動揺する心までグチャグチャに崩していく。

 あの時の子どもがこんなに立派に、手強く育ったなんて。
 膨れ上がっていたはずの憎らしさは急にしぼみ、再会と成長を喜ぶ気持ちが俺の中から躍り出てくる。

 昔、一晩も過ごしたことのない、短い時を共有しただけの相手だというのに。
 俺にとって印象深く、心残りだった思い出。今までミカルに抱いていた印象が、瞬く間に塗り替えられていく。

「愛しています、カナイ……あの日からずっと……っ。どうか、私を受け入れてはくれませんか?」

 理由と事情を知ったからといって、ミカルと恋愛したいとは思わない。それとこれとは話が別だ。

 しかし、ついさっきなら即座に拒めたはずなのに、今は拒絶の言葉が出てこない。

「ぅ……あっ、ミカ、ル……ぅぅ……アっ……あぁ……っ」

「変わりましたね、感じ方が……もっと名前を呼んで。私を刻んで……」

 感極まった声で囁きながら、ミカルの腰が速さを増す。
 俺の奥を何度も短い間隔で押し、追い詰めて、追い詰めて、そして――。

「カナ、イ……、……カナイ……ッ……」

 深々と俺を貫き、ミカルは最奥で熱を放つ。
 その感覚に狂喜する体は、少しでも多く俺への熱情を飲みたくて激しく脈打つ。

 ハァ、ハァ……しばらく動きを止め、肩で息をしながら互いに息を整える。

 もう終わるのだろうかとぼんやり考えていると、カナイが腰の動きを再開させていく。

 終わらない。ミカルの熱情に塗れた中は、ミカルと睦み合う音をより放ち、クチッ、クチッ、と俺を淫らにさせてくる。
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