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三章 バラの香に囚われて

●一生飢えるように

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 いっそ手ひどく扱われたほうが割り切れるというのに。
 俺の気も知らずにミカルがそっと囁いてくる。

「どんな事情があれど、貴方は私に体を許してくれた……その対価にこの命を捧げますから。このひと時を終え、私を利用し尽くした後に捨てても構いません。だから……貴方を愛させて下さい」

 今にも泣きそうな顔でそう告げられ、俺は答えに詰まる。
 どうして圧倒的に有利な立場だというのに、ここまで自分を捧げようとする?

 ずっとミカルは俺と仲良くできればそれで構わないと言ってきた。
 ただの世迷言と思っていたが、本当にそれだけが目的らしいと理解してしまう。

 ミカルが緩やかに気遣いながら、しかし容赦なく俺の中へ埋まっていく。
 押し広げられていく圧迫感に思わず息を殺し、奥歯を噛み締めていると、

「息は止めないで……なるべく深く、ゆっくりと呼吸を……ええ、そうです。不要な痛みは感じないで」

 人の頭を撫でながらミカルは俺をなだめ、深く繋がっていく。
 そうして根元まで埋まり、動きを止めてじっとする。

 ミカルは動いていないのに、俺の中が鼓動に合わせて脈打ち、勝手に締め付ける。その度に腰の奥が落ち着かなくなり、甘い疼きを覚え出す。

 気持ちはなくとも体はミカルを求めてしまう。それがなんとも悔しくて腹立たしい。
 このまま堕とされるのは面白くなくて、俺はミカルへ呟く。

「……俺を、組み敷いた気分はどうだ?」

「カナイには悪いですが、嬉しいですよ……本当はもっと、貴方に喜んでもらいたいところですが」

「そうか……ならば、もっとお前がみっともなく悦べ」

 俺はミカルの首元へ顔を近づけ、その肌へ牙を立てる。
 軽く血を吸えばわずかな量でも快楽を与えられる。行為の最中ならばより濃密な快感を覚えさせ、相手を虜にすることができる。

 一度体験すれば、もう人相手では満足できない体と化す。
 とことん俺で快感を覚えればいい。そうして俺なしではいられない状態にした上で、この男を捨ててやる。

 そして一生俺に飢えればいい――強く願いながら血を吸えば、普段よりも濃厚な甘みとバラの香が口の中へ広がった。

「……っ、私を、より夢中にさせたいのですか……嬉しいですよ、カナイ……」

 俺の牙から逃げるどころか、頭を抱擁して肌を押し付けてくる。間違いなく快感は得ているらしく、中でミカルのものがさらに硬くなった気配がした。

 血を吸われながらミカルは腰を揺らす。
 耳元でフー、フー、と荒い息が聞こえてくる。興奮しながらも、まだ俺を傷つけまいと自分を抑えている気配がする。
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