上 下
29 / 82
二章 駆け引き

俺も翻弄される側

しおりを挟む
 グッ、とミカルの指がビクトルの腕へ食い込む。
 かなり力が入っているというのに、強靭な筋肉に弾き返されない握力。物腰柔らかな外観からは想像がつかない。

 少し頭が冷えたのか、ビクトルは舌打ちしながら俺から手を離す。
 そして俺とミカルを交互に睨みつけてから鼻を鳴らした。

「フン、俺はお前たちから絶対に目を離さないからな。遅かれ早かれ協会はミカルを除名するだろう。そうなればカナイの始末も時間の問題……覚悟していろ」

 ビクトルが踵を返し、強く足を踏みしめながら部屋を出ていく。

 小さな息をつく俺にミカルが近づき、ぼそりと囁く。

「申し訳ありません。ビクトルはいつもこんな短慮な男ではないはずなのですが……彼に何かしたのですか?」

「さてな。お前はどう思う? 俺を疑うか?」

「疑いませんよ。そんなことを疑っても、意味はありませんから」

 手に取るように心が見えたビクトルから、まったく読めないミカルへと替わってしまった。厄介なほうが来てしまったとため息を吐き出す。

 俺の気持ちはよく分かると言いたげに、ミカルが苦笑する。

「もしかして、私は来ないほうが良かったのですか?」

「ビクトルのほうが分かりやすくて楽だからな。頭に血が上っているおかげで、思いがけず色々な話を溢してくれる」

「私もカナイが尋ねてくれるなら、喜んで教えますよ?」

「お前は分かりにくいから、真偽の区別がつきにくい。それに距離が近い。下心もある。接しにくくてたまらん」

 俺の本心を暴露してやると、ミカルは「困りましたね」と息をついた。

「貴方と分かり合いたいのに、それが裏目に出てしまうとは……やり方を変えて、もっと分かりやすくしましょうか」

 ミカルの手が俺の肩を掴む。そして唇が耳に触れるか触れないかの所で話し出す。

「私のことが少しでも分かるよう、体を重ねてみますか? 互いに体と命を預け合えば、今よりも私のことが分かるようになると思いますが」

 咄嗟に俺は耳を押え、ミカルへ振り向く。
 戯言を言うなと口を開きかけ、間近になったミカルと目が合い、思わず固まる。

 目が笑っていない。本気の言葉だ。

 手を離せと跳ねのけることも忘れて、俺はミカルを睨む。

「お前は俺をどうしたいんだ? 人が誘えば拒み、そのくせ抱きたい素振りを見せて……俺が喜んでお前に身を任せると思うか? 欲しいなら奪え。俺の心がお前になびくなどという奇跡は期待するな」

「……貴方から奪えるはずがないでしょう。私は遠回りでも話を重ねて、少しずつ私を知ってもらい、その奇跡が起きることを待つしかできない。時間がなくても、不可能だろうという予感しかなくても――」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

処理中です...