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二章 駆け引き

本気だからこそ

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「そんな酔狂な者は知らん。もし存在するなら、今ごろはもう少し人と魔の者は歩み寄っているだろ」

「……歩み寄れると、思いますか……それなら良かった」

 俺の嫌味に、ミカルが心底安堵した息をつく。
 まるで救われたと言いたげで、俺は血を吸いながら顔をしかめる。

 ミカルの事情から考えると、魔の者へ罪悪感を覚えているのだろう。
 しかし、それを差し引いてもミカルの言動が分からない。

 魔の者たちに悪いことをしたと思っているなら、もっと俺たちに協力的だろう。
 俺を捕らえた時の手加減のなさを思い出すと、どう考えても悪いと思っている者の言動ではない。

 ガリッ。歯に力を加え、俺はミカルの血を強く吸った。

「もっと素直になれ。お前の本音はなんだ?」

 血を吸われている者へ命令すれば、意識があれば言うことを聞いてくれる。
 ミカルの心がもっと分かるだけでも良い収穫だ。退魔師の中でも実力のある男の考えが分かれば、それを攻撃にも脅しにも活かせる。

 ミカルの体に力が入る。なんともささやかな抵抗。ねっとりと血をすすればミカルが小さく震え、声を押し出した。

「……貴方と仲良くなりたい。私の狙いなんて、それだけです」

 またそれか。この状態で言うなら本音なのだろう。

 徹底して俺を尊重し、傷つけまいと意地でも誠意を貫き、今も仲良くなりたいとほざく。まるで――。

「ミカルよ、お前は俺に気があるのか? まるで恋でもしているように聞こえるぞ」

 冗談のつもりで口にした言葉。ミカルは首を縦には振らなかった。

「そうですよ……否定、しません」

 思わず俺はミカルの首筋から口を離し、その顔を呆然と見つめてしまう。

 俺の冗談を冗談で返した……だけだよな?

 深刻に受け止めようとする自分が愚かなのだと言い聞かせ、真に受けないように努力していたが――。

 ――チュッ、と。ミカルに唇を吸われた。

「な、何を……っ」

「貴方を本気で愛しているから傷つけたくないし、おびただしい快感で誘惑されても耐えられるのです……貴方と、真に心を通わせることができれば、どれだけ幸せなことか……」

 うっとりとした表情を浮かべて俺を見つめてくるミカルへ、俺は睨まれたカエルのように硬直する。

 いったい俺のどこに惹かれた? 十三年も戦い、命のやり取りを続けていたのだぞ? ままならぬ相手に苛立ちを覚えこそすれ、恋情を覚えるような交流を持ったことなど一度もない。

 思わず後ろへ下がろうとするが、血に含まれる微毒のせいで体に力が入らず、無様に倒れかけてしまう。

 そんな俺をミカルは咄嗟に抱き留め、助けてくれた。
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