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二章 駆け引き

この男が理解できない

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   ◇ ◇ ◇

 やはり連日昼間に目を覚まし、活動を繰り返すのは体に負担がかかる。

 もう魔の者の時間になったと分かっているのに、体が起きようとしない。瞼も固く閉じたままで、意識だけがぼんやりと働く。

 どうにか起きなければ……。
 ミカルは寝込みを襲うような人間ではないと分かったが、様子が違えば怪しまれる。

 何も変わらぬふりをしなければ。
 奴の隙を突くためには、俺が隙を作る訳にはいかない――。

 気力を振り絞り、瞼を震わせながら俺は目を開ける。

 すぐ視界に入ってきたものに、思わずカッと目を見開いてしまった。

「おはようございます、カナイ。よく眠っていましたね」

 いつもの紅茶の香りがなく、気配も感じず、まったく気づかなかった。
 枕元に腰かけながら俺を覗き込んでいたミカルが、目を合わせた瞬間に破顔する。

 驚きで硬直した俺の顔が、次第にヒクヒクと引きつっていく。

「……いつからそこにいた?」

「半刻ほど前ですね。ずっと警戒した顔ばかり見ていたので、それ以外の顔を見てみたくなりまして……ちょっと魔が差しました」

「何を言っている? 半刻も眺め楽しめる顔ではないだろ。本当の狙いはなんだ?」

「狙いも何も、純粋に見たかっただけです。失礼なことだとは分かっていましたから、早く切り上げるつもりだったのですが、目を離せなくなってしまいまして」

 ……分からない。本気でこの男が理解できない。

 取り敢えず面白くないことをされたのは理解したから、あからさまに顔をしかめて不快さを露わにする。

「人の寝顔を見続けるなど悪趣味な奴め。そこを退け。起き辛いだろ」

「ああ、申し訳ありません。せめてものお詫びに何か言うことを聞きますから、それで許して頂けますか? あくまで叶えられる範囲ですが」

 ミカルが笑いながら告げてくる。俺が絶対に手出しできないと確信しているからこそ、余裕を持った発言だ。

 腹立たしいことだが丁度いい。
 俺は口元に手を置き、考えるふりをする。それから既に言おうと決めていたことを切り出した。

「それならお前の話を聞かせろ」

「私の、ですか?」

「俺ばかりが話をするだけでは面白くない。お前も何か言え。他愛のない雑談ではなく、お前自身のことを」

 ミカルが意外そうに目を丸くした後、すぐに笑みを浮かべる。先ほどよりも上機嫌なものだ。

「嬉しいですね、私に興味を持って下さっているとは。ええ、喜んで。今紅茶を淹れますから、飲みながら話しましょう」

 そう言って腰を上げると、ミカルは俺に手を差し出す。
 血を飲んで微毒にやられていないというのに……こういった行動が染み付いているのだろう。他の誰かにもやること。そうとしか考えられない。

 まだ体が起き切っていない。他意のない手を跳ねつける気力がもったいなくて、俺は靴を履いてからミカルの手を取り、立ち上がらせてもらった。
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