上 下
2 / 8

ため息もEDも止まらなくて

しおりを挟む
「はぁ……」

 隆幸さんが仕事へ行っている間、俺はパソコンの前で文章を打ち込みながら何度もため息をつく。

 もっと甘い生活を期待してたのに……なんでこんなに泣きたくなる生活を送らなきゃいけないんだよ。
 エッチができないからって、それだけで隆幸さんのことを嫌いになんかならない。体の関係が嫌なら嫌で受け入れるつもりだ。それが隆幸さんの望みなら。


 今の関係を望んだのは俺からだった。
 高校生で荒れた生活を送っていた俺に、危なっかしいからってゲーセンで声かけてくれて、弟みたいに構ってくれて――隆幸さんのさりげない優しさに救われて、俺は恋に落ちた。

 想いを自覚してからは、とにかく押した。押して、押して、あからさまに好意があるとバレても気にせず押しまくった。満更じゃない反応に手応えを感じて告白したら、隆幸さんは腕を組んで唸り出した。
 とにかく付き合えるなら、どんな形になってもいいと思っていた。だから俺は隆幸さんの肩を掴んで訴えた。

 俺が抱かれる側でいいから。尻の悩みは俺が受け持つから、と。

 ここまで言ってようやく隆幸さんは俺に頷いてくれた。
 後から聞いた話だが、俺が積極的に押し始めた頃からすでに意識してくれていたらしい。でも尻を掘られることに抵抗があり過ぎて、自分から関係を前に進めることができなかったと隆幸さんから懺悔された。

 隆幸さんの仕事が忙しくなる前までは、会えばエッチしていたし、途中で萎えることもなかったから、俺とのエッチが嫌になったワケではないだろう。

 すべては許容オーバーな多忙さのせい。
 こんなことで隆幸さんとの関係にヒビが入ってしまうなんて許せなかった。


 記事をキリの良い所まで書き上げてから、俺はネットでEDに効果のあるものを調べてみる。

 本当は病院で診てもらうのが一番だろうが、あの忙しさじゃあ通うのは無理だ。いっそ仕事をやめろと言いたいところだが、ここしばらくが特別であって、もう少しで修羅場は抜けるらしい。となれば、食事に気をつけつつマッサージするぐらいしか俺にはできない。

「はぁ……まだ隆幸さん三十なのに……もっと自分を大切にしてくれよ」

 言えば追い詰めるだけだから本人には言わないが、隆幸さんへのぼやきがポロポロと零れた。



 夜。俺はさっそく隆幸さんをベッドへうつ伏せに寝かせてマッサージする。
 あまり強く押すと揉み返しで余計に酷くなるから、背中全体をさすりながら、たまにツボをゆっくりと押して、またさすってを繰り返す。

「あー……ありがとな修吾。すごく気持ちいい……」

 うっとりとした声を出す隆幸さんに思わず腰が疼く。しばらくおあずけを食らっているせいか、何気ない言動がエロく感じてしまう。

 ……ちょっとでもその気にならないかな? なんて淡い期待を持ちながら、俺はリラックスしている隆幸さんの耳元で囁いてみる。
 
「俺も締め切り前とか凝りまくるからさ……覚えて俺にやってくれよ」

 ふぅ、と耳に息を吹きかけると――無反応。俺は首を傾げてから隆幸さんの顔を覗き込む。すると、もう完全に寝入ってしまっていた。

 すややかな寝息を立てる隆幸さんに、思わずため息をついてしまう。
 俺は「……お疲れさん」と呟いてから隆幸さんの髪を撫で、そのまま一緒に寝た。



 そんな日々が続いて、やっと隆幸さんが仕事の忙しさから解放された。
 これでいっぱい休めば数日後には元気になって――と思っていた。

 けれど現実は、いつまで経っても隆幸さんはEDのままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

23時に明かりを消して

秋臣
BL
俺と晃は幼馴染。 家が近所で親同士も仲がいい、一緒にいるのが当たり前だったし、なんの疑問もなかった。 ある日兄貴のアパートに誘われた俺と晃に 兄貴はニヤリと笑ってこう言った。 「23時になったら明かりとテレビを消せ」 それが俺たちの関係を大きく変えることになるなんて思いもせずに…

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...