嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

文字の大きさ
上 下
81 / 100
六章 嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんだと知る

強すぎるエリクと残された面々

しおりを挟む
「エリク……ロジー……なぜ、ここに」

 見上げながら思わず呟いたガイの隣に、ロジーがゆっくり降り立つ。

 母竜よりも小さいが、ロジーは馬ほどの大きさになっていた。
 白銀の鱗も、背に生え揃った白銀の毛も、ほのかに輝いて神々しい。

 場の勢いが落ちていくのが分かり、ガイは辺りを見渡す。
 なぜか魔物たちが倒れていき、その場で苦しげに唸り出す。

 それは舞台の上の魔王ベルリムも同じだった。

「神竜の子……しかも、その力は……神、そのもの……力が入らぬ……」

《うん、ボクをうんだママのパパは、えらいかみさまだから!》

 えっへん、とロジーが胸を張る。

 神竜と神の子。
 魔の弱点である神の力がここに現れてしまったせいで、魔物たちの力が抜けているらしいとガイは察する。

 ロジーの真実と力にガイが目を丸くしていると、その背から降りたエリクがガイに駆け寄った。

「ご無事ですか、ガイ様!」

「あ、ああ、まったく問題ないが……」

「それは良かったです……魔王からの手紙を見て、こちらにお邪魔していることを知りまして。長居してお疲れだろうと思って、私たちが迎えに参りました」

 周囲には魔物も人間――自分の上司どころか自国の王までも――が並ぶ中、エリクは臆することなく、いつも通りの調子でガイの肩を抱く。

「お待たせして申し訳ありません。家に帰る前に、どこか温泉に立ち寄りましょう。しっかり体を温め、癒やしてから家に戻りましょうね」

「待ってくれ、俺は、家に戻ることは――」

「……ガイ様」

 戸惑いと葛藤で心から歓迎できないガイの口を、エリクがキスで塞ぐ。

 魔物たちは唸り声を止める。人間側は体を強張らせる。

 見せつけることになってしまったガイも固まった。
 ただ顔に熱が集まるばかりで、延々と考えていたことも焦りも、何もかも頭の中から消されてしまった。

 唇を離したエリクの顔は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。

「もうガイ様は私の妻です。神の前で誓い、祝福を受けました。いかなる時も愛しています」

 周囲がざわつく。
 あちこちから「え……ガイ様、人妻?」という動揺の声が聞こえてきた。

 その声が聞こえ、動揺を理解しているはずなのに、エリクは煽るようにガイを抱き締めた。

「もうガイ様は私の妻で、愛し合った仲で、子供もいます。ガイ様も私を愛していると言って下さいましたし、家も購入しました。今は新婚で毎日が夢のように幸せな日々を送っているのですよ、私のガイ様は」

 エリクの奇行が暴走している。
 ただ事実を並べただけだと分かっているが、こんな場で言うことか? しかも自国を前にして、無礼極まりない。

 やっと人間側が我に返り、ウーゴが声を上げた。

「エリク・マレーロ! 親衛隊に身を置き、ガイ様に想いを寄せる者を徹底して排除し、一番近づけまいとしていたというのに……抜け駆けするとは、我らへの裏切りではないか」

「理不尽な命を与えられて、寄り添おうとしなかった親衛隊に幻滅しましたので。私はガイ様を支えるためだけに退役し、駆けつけました。その中で愛を育んで何が悪いのですか?」

 にこやかに言い返すエリクだが、細くなった目から覗く瞳は笑っていない。

 ……エリクが強すぎる。
 物理的な力ではなく、愛があると確信を持った強さ。こんなに頼もしいものだったのかとガイは目を見張る。

 ウーゴが押し黙り、入れ替わるようにベルリムがガイに話しかけてきた。

「ガイ将軍……本当にそなたは、この者を選ぶのか? ただの人間が理不尽な歪みに振り回されず、そなたを愛し続けられると思うのか?」

 ベルリムの言葉にガイの胸が重くなる。が、

「魔王に私の何が分かると? 自分の思い通りにしようとして、勝手に不幸を決めつけて、ガイ様を惑わさないで頂けますか? 私たちの仲は神が祝福してくれた……だから手を出せなかったのでは? 神の加護でガイ様は守られていたのでしょう?」

 エリクの眼差しがウーゴに向けていたものよりも冷ややかになり、ベルリムを突き刺す。明らかな怒りが滲み出て、思わずガイの背もゾクリとなる。

 いくら弱体化しているとはいえ、魔王すら威圧してしまうエリクの強さをガイが実感していると、

「さあ、帰りましょうガイ様。貴方の居場所は、こちらに……」

 肩を抱きながらエリクがガイに手を差し出す。

 本当にこの手を取っていいのか?
 わずかに上げかけたが、ガイは手を止めてしまう。

「……俺が君の手を取れば、この先ずっと迷惑をかける。エリクの人生を振り回すぐらいなら、俺は……」

「そんな心配は無用です。だってガイ様を生涯愛することが、私の夢だったんですから」

「だが――」

「その憂い、誰が植え付けたのですか……まったく腹立たしい」

 ガイの手を、エリクがグッと掴んだ。

「覚悟していて下さい。帰ったら教えて差し上げますから」

 そしてガイの手を引き、一緒にロジーの背に乗ってしまった。



 飛び去っていくガイたちを見上げながら、残された者たちの心は人魔ともにひとつになり、叫んでいた。

「「「「あの野郎、また――」」」」

「「「「「「「「抜け駆けしやがったぁぁぁぁ……っ!!!!」」」」」」」」

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...