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六章 嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんだと知る
強すぎるエリクと残された面々
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「エリク……ロジー……なぜ、ここに」
見上げながら思わず呟いたガイの隣に、ロジーがゆっくり降り立つ。
母竜よりも小さいが、ロジーは馬ほどの大きさになっていた。
白銀の鱗も、背に生え揃った白銀の毛も、ほのかに輝いて神々しい。
場の勢いが落ちていくのが分かり、ガイは辺りを見渡す。
なぜか魔物たちが倒れていき、その場で苦しげに唸り出す。
それは舞台の上の魔王ベルリムも同じだった。
「神竜の子……しかも、その力は……神、そのもの……力が入らぬ……」
《うん、ボクをうんだママのパパは、えらいかみさまだから!》
えっへん、とロジーが胸を張る。
神竜と神の子。
魔の弱点である神の力がここに現れてしまったせいで、魔物たちの力が抜けているらしいとガイは察する。
ロジーの真実と力にガイが目を丸くしていると、その背から降りたエリクがガイに駆け寄った。
「ご無事ですか、ガイ様!」
「あ、ああ、まったく問題ないが……」
「それは良かったです……魔王からの手紙を見て、こちらにお邪魔していることを知りまして。長居してお疲れだろうと思って、私たちが迎えに参りました」
周囲には魔物も人間――自分の上司どころか自国の王までも――が並ぶ中、エリクは臆することなく、いつも通りの調子でガイの肩を抱く。
「お待たせして申し訳ありません。家に帰る前に、どこか温泉に立ち寄りましょう。しっかり体を温め、癒やしてから家に戻りましょうね」
「待ってくれ、俺は、家に戻ることは――」
「……ガイ様」
戸惑いと葛藤で心から歓迎できないガイの口を、エリクがキスで塞ぐ。
魔物たちは唸り声を止める。人間側は体を強張らせる。
見せつけることになってしまったガイも固まった。
ただ顔に熱が集まるばかりで、延々と考えていたことも焦りも、何もかも頭の中から消されてしまった。
唇を離したエリクの顔は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「もうガイ様は私の妻です。神の前で誓い、祝福を受けました。いかなる時も愛しています」
周囲がざわつく。
あちこちから「え……ガイ様、人妻?」という動揺の声が聞こえてきた。
その声が聞こえ、動揺を理解しているはずなのに、エリクは煽るようにガイを抱き締めた。
「もうガイ様は私の妻で、愛し合った仲で、子供もいます。ガイ様も私を愛していると言って下さいましたし、家も購入しました。今は新婚で毎日が夢のように幸せな日々を送っているのですよ、私のガイ様は」
エリクの奇行が暴走している。
ただ事実を並べただけだと分かっているが、こんな場で言うことか? しかも自国を前にして、無礼極まりない。
やっと人間側が我に返り、ウーゴが声を上げた。
「エリク・マレーロ! 親衛隊に身を置き、ガイ様に想いを寄せる者を徹底して排除し、一番近づけまいとしていたというのに……抜け駆けするとは、我らへの裏切りではないか」
「理不尽な命を与えられて、寄り添おうとしなかった親衛隊に幻滅しましたので。私はガイ様を支えるためだけに退役し、駆けつけました。その中で愛を育んで何が悪いのですか?」
にこやかに言い返すエリクだが、細くなった目から覗く瞳は笑っていない。
……エリクが強すぎる。
物理的な力ではなく、愛があると確信を持った強さ。こんなに頼もしいものだったのかとガイは目を見張る。
ウーゴが押し黙り、入れ替わるようにベルリムがガイに話しかけてきた。
「ガイ将軍……本当にそなたは、この者を選ぶのか? ただの人間が理不尽な歪みに振り回されず、そなたを愛し続けられると思うのか?」
ベルリムの言葉にガイの胸が重くなる。が、
「魔王に私の何が分かると? 自分の思い通りにしようとして、勝手に不幸を決めつけて、ガイ様を惑わさないで頂けますか? 私たちの仲は神が祝福してくれた……だから手を出せなかったのでは? 神の加護でガイ様は守られていたのでしょう?」
エリクの眼差しがウーゴに向けていたものよりも冷ややかになり、ベルリムを突き刺す。明らかな怒りが滲み出て、思わずガイの背もゾクリとなる。
いくら弱体化しているとはいえ、魔王すら威圧してしまうエリクの強さをガイが実感していると、
「さあ、帰りましょうガイ様。貴方の居場所は、こちらに……」
肩を抱きながらエリクがガイに手を差し出す。
本当にこの手を取っていいのか?
わずかに上げかけたが、ガイは手を止めてしまう。
「……俺が君の手を取れば、この先ずっと迷惑をかける。エリクの人生を振り回すぐらいなら、俺は……」
「そんな心配は無用です。だってガイ様を生涯愛することが、私の夢だったんですから」
「だが――」
「その憂い、誰が植え付けたのですか……まったく腹立たしい」
ガイの手を、エリクがグッと掴んだ。
「覚悟していて下さい。帰ったら教えて差し上げますから」
そしてガイの手を引き、一緒にロジーの背に乗ってしまった。
飛び去っていくガイたちを見上げながら、残された者たちの心は人魔ともにひとつになり、叫んでいた。
「「「「あの野郎、また――」」」」
「「「「「「「「抜け駆けしやがったぁぁぁぁ……っ!!!!」」」」」」」」
見上げながら思わず呟いたガイの隣に、ロジーがゆっくり降り立つ。
母竜よりも小さいが、ロジーは馬ほどの大きさになっていた。
白銀の鱗も、背に生え揃った白銀の毛も、ほのかに輝いて神々しい。
場の勢いが落ちていくのが分かり、ガイは辺りを見渡す。
なぜか魔物たちが倒れていき、その場で苦しげに唸り出す。
それは舞台の上の魔王ベルリムも同じだった。
「神竜の子……しかも、その力は……神、そのもの……力が入らぬ……」
《うん、ボクをうんだママのパパは、えらいかみさまだから!》
えっへん、とロジーが胸を張る。
神竜と神の子。
魔の弱点である神の力がここに現れてしまったせいで、魔物たちの力が抜けているらしいとガイは察する。
ロジーの真実と力にガイが目を丸くしていると、その背から降りたエリクがガイに駆け寄った。
「ご無事ですか、ガイ様!」
「あ、ああ、まったく問題ないが……」
「それは良かったです……魔王からの手紙を見て、こちらにお邪魔していることを知りまして。長居してお疲れだろうと思って、私たちが迎えに参りました」
周囲には魔物も人間――自分の上司どころか自国の王までも――が並ぶ中、エリクは臆することなく、いつも通りの調子でガイの肩を抱く。
「お待たせして申し訳ありません。家に帰る前に、どこか温泉に立ち寄りましょう。しっかり体を温め、癒やしてから家に戻りましょうね」
「待ってくれ、俺は、家に戻ることは――」
「……ガイ様」
戸惑いと葛藤で心から歓迎できないガイの口を、エリクがキスで塞ぐ。
魔物たちは唸り声を止める。人間側は体を強張らせる。
見せつけることになってしまったガイも固まった。
ただ顔に熱が集まるばかりで、延々と考えていたことも焦りも、何もかも頭の中から消されてしまった。
唇を離したエリクの顔は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「もうガイ様は私の妻です。神の前で誓い、祝福を受けました。いかなる時も愛しています」
周囲がざわつく。
あちこちから「え……ガイ様、人妻?」という動揺の声が聞こえてきた。
その声が聞こえ、動揺を理解しているはずなのに、エリクは煽るようにガイを抱き締めた。
「もうガイ様は私の妻で、愛し合った仲で、子供もいます。ガイ様も私を愛していると言って下さいましたし、家も購入しました。今は新婚で毎日が夢のように幸せな日々を送っているのですよ、私のガイ様は」
エリクの奇行が暴走している。
ただ事実を並べただけだと分かっているが、こんな場で言うことか? しかも自国を前にして、無礼極まりない。
やっと人間側が我に返り、ウーゴが声を上げた。
「エリク・マレーロ! 親衛隊に身を置き、ガイ様に想いを寄せる者を徹底して排除し、一番近づけまいとしていたというのに……抜け駆けするとは、我らへの裏切りではないか」
「理不尽な命を与えられて、寄り添おうとしなかった親衛隊に幻滅しましたので。私はガイ様を支えるためだけに退役し、駆けつけました。その中で愛を育んで何が悪いのですか?」
にこやかに言い返すエリクだが、細くなった目から覗く瞳は笑っていない。
……エリクが強すぎる。
物理的な力ではなく、愛があると確信を持った強さ。こんなに頼もしいものだったのかとガイは目を見張る。
ウーゴが押し黙り、入れ替わるようにベルリムがガイに話しかけてきた。
「ガイ将軍……本当にそなたは、この者を選ぶのか? ただの人間が理不尽な歪みに振り回されず、そなたを愛し続けられると思うのか?」
ベルリムの言葉にガイの胸が重くなる。が、
「魔王に私の何が分かると? 自分の思い通りにしようとして、勝手に不幸を決めつけて、ガイ様を惑わさないで頂けますか? 私たちの仲は神が祝福してくれた……だから手を出せなかったのでは? 神の加護でガイ様は守られていたのでしょう?」
エリクの眼差しがウーゴに向けていたものよりも冷ややかになり、ベルリムを突き刺す。明らかな怒りが滲み出て、思わずガイの背もゾクリとなる。
いくら弱体化しているとはいえ、魔王すら威圧してしまうエリクの強さをガイが実感していると、
「さあ、帰りましょうガイ様。貴方の居場所は、こちらに……」
肩を抱きながらエリクがガイに手を差し出す。
本当にこの手を取っていいのか?
わずかに上げかけたが、ガイは手を止めてしまう。
「……俺が君の手を取れば、この先ずっと迷惑をかける。エリクの人生を振り回すぐらいなら、俺は……」
「そんな心配は無用です。だってガイ様を生涯愛することが、私の夢だったんですから」
「だが――」
「その憂い、誰が植え付けたのですか……まったく腹立たしい」
ガイの手を、エリクがグッと掴んだ。
「覚悟していて下さい。帰ったら教えて差し上げますから」
そしてガイの手を引き、一緒にロジーの背に乗ってしまった。
飛び去っていくガイたちを見上げながら、残された者たちの心は人魔ともにひとつになり、叫んでいた。
「「「「あの野郎、また――」」」」
「「「「「「「「抜け駆けしやがったぁぁぁぁ……っ!!!!」」」」」」」」
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