嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

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六章 嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんだと知る

国が傾いたとしても

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 まさか、本当に自分のことを……?

 にわかに信じられず戸惑うガイを他所に、ベルリムは凛とした声で告げる。

「人間どもの軍に使者を送れ。何人でも構わない。腕に覚えのある者を、我が闘技大会に招待する。そこで勝ち抜けば、望みのものを返す、と伝えろ」

「ハッ、承知しました!」

 報告したオークが姿を消した途端、辺りの空気がビリビリと震えるほど、魔物たちが咆哮する。

 今まで敵として戦い合ってきた者たちまで、戦闘を止め、入場口に体を向け、外の軍を威嚇するように叫んでいる。そこには確かな一体感があった。

 ベルリムがその理由を教えてくれる。

「我も含めて、我らは人間どもに憤っているのだよ。敬愛するガイ将軍を冷遇されていたのだから……ここにいる者は皆、そなたを渡すまいと命をかけることも厭わぬ」

「そ、そこまでするのか? やめてくれ。戦う理由が俺の取り合いなんて、どうかしている――」 

「命をかけて当然だ。それで国が傾いたとしても、そなたにはそれだけの価値がある」

 悪い冗談だと思いたかった。
 しかしベルリムの雰囲気も、目の色も、甘さが一切ない。命を捧げる将がまとう空気だと察してしまい、ガイは口を閉ざす。

 まるで今までのことを自分の代わりに憤るように、魔物たちの怒号や咆哮が収まらない。

 圧倒されてしまい、ガイは何も言うことも、動くこともできずに時だけが過ぎていき――。

 ――入場口から、見慣れた顔が次々と現れた。

 元副将のウーゴに部隊長たち。特に戦場で活躍していた兵も十数名おり、あまり顔を合わせていない王宮魔道士たちもいる。

 サグニア王国の元敵将ゲインも、レアランダのものとは違う武具を装備した兵たちを従えており――副官ラヒュはゲインに渋々ついて来たらしく、不満全開な顔を隠そうともしていない。

 そして彼らを率いて先頭を歩くのは、イヴァン王。

 闘技場を最も観戦できる席にいるガイを、彼らは真っ直ぐに見上げてくる。
 いずれも顔つきが険しく、瞳に覚悟と熱を宿している――ラヒュだけは怒りと嫉妬の炎で睨みつけていた。

 スッ、とベルリムが手を上げると、魔物たちが一斉に静まる。

 一歩前に足を進める音すら響いて聞こえる中、イヴァン王が声を放つ。

「魔王よ、我らの英雄を迎えに来た。余を人質に取り、優しき英雄を脅す形で魔の領域に囲うという卑怯な行い……到底許すことはできぬ!」

 昔からぶつけていた冷ややかな視線が嘘のように、今のイヴァン王がガイに向けてくる目が熱い。あまりの変わりように、ガイは夢でも見ているのかという気になってしまう。

 怒りを露わにするイヴァン王とは反対に、ベルリムは静かに、しかし重く通る声で応える。

「卑怯? 貴様らの汚らわしい劣情と都合でガイ将軍を追い詰め、不遇を続けた最たる愚民の分際で、よくそのようなことを言えるな」

「……反論はせぬ。余は愚かだった……だからこそ、理不尽な態度を取り続けてしまった余の犠牲になろうとする英雄を、見放すことなどできぬであろう」
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