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六章 嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんだと知る
みんな何かおかしなものを食べていないか?
しおりを挟む夜を迎え、本日の対戦をすべて消化し終えて魔城は静けさを取り戻す。
まだ明日以降も闘技大会は続き、優勝者が決まるまでガイは魔王ベルリムの大切な来賓としてもてなされることになっていた。
街の大衆浴場よりも広い大理石の風呂を一人で浴び。
魔城の主であるベルリムと同席する夕食は様々な料理が並べられ。
就寝の部屋は来客室と思えないほど豪勢な調度品が置かれた大部屋に、竜が寝てもはみ出さないほどの特大ベッド。
母国を含め、様々な所で歓待を受けたことはあるが、ここまでの厚遇は経験がなかった。
ベルリムの言葉が皮肉でも仰々しく飾り立てた口先だけのものでもなく、本気で魔族たちが自分に心酔し、歓迎しているのだとガイは理解する。
命の危機はない。
しかし別の危機が孕んでいることを、ガイはなんとなく自信は持てないが肌で感じ取っていた。
(強き者と敬ってくれるのは光栄だが……このままここに居れば、勝者となった魔物に引き渡され、エリクが俺にしてきたようなことをされる……のか?)
もう何も知らない身ではない。
エリクのような熱を孕んだ目を持つ者たちが、自分にどんな欲を抱いているのか想像できるようになってしまい、ガイは額を押さえて小首を振る。
(なぜ俺にそんな感情を持てるんだ? 美女でもなければ、美しい容姿でもない。無骨で筋肉と傷痕だらけの年を重ねた中年の男だ。みんな何かおかしなものを食べていないか? エリクも――)
ふと大勢の理解できない者たちにエリクも混ぜかけて、ガイは思考を止める。
唯一自分を追い駆け、愛を与えてくれたエリク。
いったい何を思ってここまで求めてくれるのかという理由は、まだエリクの口からは聞いていない。
口で理由を教えてくれても、きっと理解できないだろうという予感がする。
ただ、エリクは行動で教えてくれた。
どれだけ自分を愛したくてたまらなかったのかを。
胸の奥が熱く疼いて、ガイは己の胸倉をギュッと掴む。
(……何もなかったなら、今頃はエリクに愛されていたな)
いくらお互いに体力があるといっても、連日はやりすぎだとガイは軽くたしなめたが、返ってきた答えは「新婚とはこういうものです」というエリクの断言。
頭の中に鮮明にエリクが浮かぶと、理解できない現状と比較されて確信を持ってしまう。
(色々見えてくると分かってしまうな……エリクが一番おかしい)
おかしくて普通ではないことを教えられてしまって、それが唯一与えられた愛なのだから、なんてことだと思ってしまう。
しかし、ガイの顔に浮かぶのは柔らかな笑みだった。
コンコン、と。
扉を叩く音でガイは我を取り戻す。
「ガイ将軍、部屋に入っても良いか? 話がしたい」
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