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幕間五 若者はすべてを理解して手を伸ばす(エリク視点)

身の程知らずだからこそ

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「そろそろ戻りましょうか。ガイ様、きっと良い子だと喜んで下さいますよ――私のことを」

《ボクにきまってるでしょ! パパ、おとなげないー》

「覚えておいて下さい。私は同担拒否のガイ様ガチ勢なので、子供であっても手を抜きません」

《そんなのおぼえたくないよー。ママにいいつけてやるからー》

「ガイ様は私のことをよく分かっていらっしゃいますので、『それがエリクなんだ』で終わりますね。ええ、間違いなくそうなります」

《ホントにそうなのか、すぐいっちゃうからね!》

 言い合いながら、エリクとロジーは元来た道を歩いて家に戻っていく。

 本当は誰からも愛されているのに、牽制し合って手を伸ばされず、気づかぬまま年を重ねてしまったガイに、今まで溜め込んだ愛を捧げるために――。

 草木の合間から家が見えてきた時だった。
 エリクの肩でロジーが身を強張らせ、爪を立てる。

《……イヤなかんじがする》

「どうかしましたか、ロジー?」

《いえのなか、モヤモヤがあるよ……ママのあったかいかんじが、ない》

 ざわ、と。エリクの背筋が総毛立つ。

 弾かれたように駆け出し、家の扉を勢いよく開ければ、ガイの姿はなかった。

 あるのは、床に落ちていた小さな筒のみ。

「ガイ、様……」

 いったい何が起きた?
 まさか国からの手紙に戻って来いとでも書かれて、戻ってしまった?
 いや、そんな理由で何も言わずに行ってしまわれる人ではない。旅の支度をした形跡もない。他に理由は――。

 立ち尽くしながらエリクが目まぐるしく頭を働かせていると、肩から降りたロジーが筒に鼻を近づけた。

《まほうのにおいだ……ちょっともどしてみる》

 言うなりロギーは体を光らせる。
 すると部屋中に無数の小さな黒い粒が浮かび上がり、ロギーの頭上に集まっていく。

 そして黒い靄となり、透明な壁が浮かんだかと思えば、イヴァン王を捕えた黒翼の男が語り出した。

 現王を返して欲しければ、ガイが魔王ベルリムの元に来いという誘い。

 映されたものが消えた後、ロギーが小さな頭を振った。

《これ、おてがみのまほうだ。ママ、まぞくにもすかれてるよー。いどうのまほうはもどせないし……どうしようパパ――》

 振り向いたロギーを手に取り、エリクは素早く答えた。

「ガイ様が魔王ベルリムの元に向かわれたなら、迎えに行くまでです」

《パパ、まおうがどこにいるかわかるの?》

「今は分かりませんが、だからこそ動いて切り拓かねば……何も動かず嘆くだけ、時間も無駄になります。できることをやるしかありません」

 ただの人間が単身で魔王の元に乗り込むなど、命知らずなことだと誰もが口にする行為。

 それでもエリクに諦めるという選択はなかった。

「身の程知らずだからこそ、私は至宝を手にすることができたのです。相手が魔王であろうが、神であろうが、私はガイ様を取り戻します」

《……わかった、ボクもがんばる! ママをつれてかえれるように!》

 言いながらロギーの体が光り、虚空に浮かび上がる。

 次第に光は膨れ上がり、馬よりも大きくなり――あまりの眩しさにエリクは目を硬く閉じることしかできなかった。



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