嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

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幕間五 若者はすべてを理解して手を伸ばす(エリク視点)

まったくロジーは

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   ◆ ◆ ◆

 家からしばらく森の奥へ進むと、木々が開けた場所に出る。

 日差しを遮るものがなく、小さな池は存分に光を弾いて輝き、草花はそよ風に心地よく揺れて伸びやかに過ごす。ガイとロジーのお気に入りの場所だった。

 ここへ来るまでは不満を垂れ流していたロジーだったが、来た途端にはしゃぎ、我先にと走り出していった。

《わーい! みずあびだー!》

 真っ先にロジーは池に飛び込み、何度も潜っては飛び跳ねてを繰り返す。

 そんな無邪気に騒ぐロジーを、エリクは近くの木に背を預けながら見守る。

 昨日も、その前の日も、ロジーはこの池で泳いでいた。
 よく飽きないものだな――と思った時、エリクの脳裏にガイがよぎる。

 一緒にロジーを見守るガイの顔は嬉しげで、いつも幸せそうだった。

 その顔を横目で見つめるのがエリクにはたまらなく至福だったが、今はその姿がない。この場にガイがいないというだけで、見える景色がくすんでしまう。

 それでもロジーの存在と、この場所の風景はエリクにとっては特別で、ガイがいないための苛立ちは生まれなかった。

 風が心地良い。
 本当にこれは現実なのだろうかとエリクがぼんやりしていると、足元からロジーの声がした。

《パパー、ちょっとききたいことがあるんだけど》

「なんだロジー?」

《どうしてママはパパをえらんだの? ママならもっと、いいひとえらべるのに》

 ……なんて生意気な。こんな可愛げのない生後一週間が、私とガイ様の子供だなんて――ああ、駄目だ。まだこの現実を実感してしまうと、興奮して鼻血が出そうになる……っ。

 思わずエリクは鼻を押さえて深呼吸し、頭に上りかかった熱を抑え込んでいく。

 どうにか鼻血の兆候を鎮めてから、エリクはロジーに答えた。

「ガイ様が私を選んだのではありません。私が身の程知らずを承知で、ガイ様に手を伸ばしたんです」

《そうなの? すごーくイヤだけど、ママ、パパのことすきだから、ママがえらんだとおもってた……ってパパ、なんではなつまんでるの?》

「まったくロジーは……っ、私をイヤだと言いながら、どうしてそう喜ばせることを言うんですか! ケンカを売られたら買いますが、貴方の素直すぎる発言は威力が大きすぎて私の負け確定ですよ!」

《……ちょっとなにいってるかわかんないんだけど》

 呆れた声を出しながら、ロジーは全身を震わせて水滴を飛ばし、おもむろにエリクの体をよじ登って肩に乗る。

《パパ、いつからママのことすきだったの?》

 問われてエリクは目を閉じ、昔を懐かしみながら口を開いた。

「六歳の頃からですよ。戦から帰ってきた英雄に皆が湧きました……馬上のガイ様は凛々しくて、子供たちの憧れの的でしたよ。でも、私がガイ様を呼んだ時、振り向いて手を振ってくれた時の笑顔が優しくて、柔らかくて……初恋でしたね」
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