嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

文字の大きさ
上 下
64 / 100
五章 嫌われ将軍、ママになる

初夜を迎えたその先は

しおりを挟む



 小さな明かり取りの窓に朝日が差し込み、ガイは目を覚ます。
 体が重だるい。寝起きのはずなのに、疲れが全身に満ちていた。

 しばらくぼんやりしながら、目の前で寝息を立てるエリクを見つめる。
 年の差二十歳以上の若者。まだ戦いの経験を重ねていない体に目立った傷痕はなく、色白の肌が美しい。

 凛々しく整った顔立ちは、眠りについているとあどけなさが滲む。満足気に微笑みを浮かべているせいか、なおさら年齢よりも幼く見えてならない。

(……まさか、昨夜の続きを夢で見ていたりするのか?)

 ふとそんなことを考えて、ガイの脳裏に初夜の記憶がよぎる。

 好きに動けばいいとは言った。一回で終わらないだろうという予感もあった。

 言いはしたが……限度というものがあるだろう。

 あの後、散々喘がされたことを思い出し、ガイは細長い息を吐き出しながら額を押さえた。

(ずっと俺をああしたかったのか、エリクは……なぜ俺なんだ? 受け入れれば分かるかと思ったが、やはりエリクのことはよく分からない)

 どれだけエリクが想いを募らせていたのかは、昨夜で思い知らされた。圧倒されるばかりだったが、あれで良かったらしいと思うと、少しだけ安堵する。

 しばらくはこんな夜が続くのか――保つのか、俺の体は?

 戦わない生活は体を鈍らせるかと危惧していたが、どうやらその心配はないらしい。

 エリクに応えながら体も鍛えられる。
 案外と良いことなのかもしれない、と気恥ずかしさを紛らわせる言い訳を見つけ、ガイがいつもの自分を取り戻していると、

「……ん?」

 ふと枕元から、コツ、と小さな音が聞こえてきて、ガイは上体を起こす。

 そして卵を置いた小箱を見れば、手編みの布団かから覗いた殻にヒビが入っていた。

 ついに生まれる!
 思わずガイは小箱を持ち上げ、無骨で大きな人差し指でそっと卵を撫でる。

「もう少しだ、頑張れ……」

 ガイの声に応えるように、卵は左右に揺れ、さらにヒビを大きくする。

 動きに気づいたエリクが、もぞもぞと動き、ゆっくりと起き上がった。

「おはようございます、ガイ様……お体は大丈夫ですか……?」

「俺は問題ない。それよりも、生まれるぞ!」

「……えっ、ガイ様、私の子を身籠られたのですか!? 夢だと思っていたのに、まさか現実になるなんて!」

「さっきまでそんな夢を見てたのか、君は?! 寝ぼけるんじゃない、エリク! 神竜の卵が孵る――」

 寝起きからガイには予測不可能なことを言い出すエリクに驚かされる中。

 コツコツ……パリッ。
 卵が割れ、ほのかな光が溢れた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...