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五章 嫌われ将軍、ママになる
全部、下心です
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「ガイ様、こちらを用意してみましたが、いかがでしょうか?」
姿を見せたエリクの手には、小箱のようなものがあった。
ガイに近づいてそれを差し出せば、毛糸の布団で温かそうに包まれた卵が入っていた。
「あ、ああ、良いと思うが、これはエリクが作ったのか?」
「はい、指で編みました。子供の頃に祖母から教えてもらいまして」
にこやかに答えると、エリクは小箱を壁側の枕元の隅にそっと置いた。
「これで夜中に生まれてしまっても、凍えずに済むかと思います。ガイ様、どうか安心して眠られて下さい」
話を聞きながら、そういえば遠征でエリクを従者として連れていた時、細やかに動いていたことをガイは思い出す。
今と違ってその時は常に気難しい顔をして、黙々とやっていた。
していることは前と変わらないのかもしれないが、和やかな表情を見せている今は、その一つ一つを特別に感じてしまう。
エリクはその頃から、自分のことを愛してくれていた。
ふと気づいてガイの顔が甘く緩む。
「ありがとう、エリク。君の気遣いと支えに感謝するばかりだ」
「……っ、いえ、そんな……」
「俺は力を使うことなら容易いが、細かいことや生活のことは不得手で分からぬことも多い。これからも頼りにしている」
感謝の言葉にエリクが目を泳がし、そわそわし始める。
そして小さく咳をしてからガイの隣に座ると、気恥ずかしげに呟いた。
「……全部、下心です」
「下心?」
「少しでも気を許してもらいたくて、思いつく限りのことをしているだけなんです……ガイ様が欲しくてたまらないだけの、欲だらけの人間なんですよ。私は……」
ベッドに置いていたガイの手を、エリクが上に重ねて握り込んでくる。
熱く、湿った感触。緊張しているのが伝わってきて、ガイに移っていく。
「卵の寝床も、この夜を邪魔されないためのものですし、この家を選んだのも、誰にも貴方の声を聞かせたくなかったから……神殿の誓いの言葉は、ガイ様を私に繋いでしまいたいがため」
エリクから熱い吐息が漏れる。
次に何を求められるか、うっすらでもガイは察する。
この先を言うのは勇気がいるだろう。
いつもいつも、気持ちを告げるのはエリクばかりだ。
だから、せめてエリクが少しでも安心して次を言えるように――。
「……神に誓って家族になったなら、今晩は初夜になるな」
「……っ」
「そのつもりでここにいるのだろ、エリク?」
おもむろにガイが顔を近づけ、エリクを間近に覗き込む。
ゴクリ、とエリクが生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「……ガイ様……もう触るだけでは足りません。すべてが欲しいです……」
ゆっくりとエリクの唇が近づいてくる。
重なる間際、ガイは自ら首を伸ばして快く迎えた。
姿を見せたエリクの手には、小箱のようなものがあった。
ガイに近づいてそれを差し出せば、毛糸の布団で温かそうに包まれた卵が入っていた。
「あ、ああ、良いと思うが、これはエリクが作ったのか?」
「はい、指で編みました。子供の頃に祖母から教えてもらいまして」
にこやかに答えると、エリクは小箱を壁側の枕元の隅にそっと置いた。
「これで夜中に生まれてしまっても、凍えずに済むかと思います。ガイ様、どうか安心して眠られて下さい」
話を聞きながら、そういえば遠征でエリクを従者として連れていた時、細やかに動いていたことをガイは思い出す。
今と違ってその時は常に気難しい顔をして、黙々とやっていた。
していることは前と変わらないのかもしれないが、和やかな表情を見せている今は、その一つ一つを特別に感じてしまう。
エリクはその頃から、自分のことを愛してくれていた。
ふと気づいてガイの顔が甘く緩む。
「ありがとう、エリク。君の気遣いと支えに感謝するばかりだ」
「……っ、いえ、そんな……」
「俺は力を使うことなら容易いが、細かいことや生活のことは不得手で分からぬことも多い。これからも頼りにしている」
感謝の言葉にエリクが目を泳がし、そわそわし始める。
そして小さく咳をしてからガイの隣に座ると、気恥ずかしげに呟いた。
「……全部、下心です」
「下心?」
「少しでも気を許してもらいたくて、思いつく限りのことをしているだけなんです……ガイ様が欲しくてたまらないだけの、欲だらけの人間なんですよ。私は……」
ベッドに置いていたガイの手を、エリクが上に重ねて握り込んでくる。
熱く、湿った感触。緊張しているのが伝わってきて、ガイに移っていく。
「卵の寝床も、この夜を邪魔されないためのものですし、この家を選んだのも、誰にも貴方の声を聞かせたくなかったから……神殿の誓いの言葉は、ガイ様を私に繋いでしまいたいがため」
エリクから熱い吐息が漏れる。
次に何を求められるか、うっすらでもガイは察する。
この先を言うのは勇気がいるだろう。
いつもいつも、気持ちを告げるのはエリクばかりだ。
だから、せめてエリクが少しでも安心して次を言えるように――。
「……神に誓って家族になったなら、今晩は初夜になるな」
「……っ」
「そのつもりでここにいるのだろ、エリク?」
おもむろにガイが顔を近づけ、エリクを間近に覗き込む。
ゴクリ、とエリクが生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「……ガイ様……もう触るだけでは足りません。すべてが欲しいです……」
ゆっくりとエリクの唇が近づいてくる。
重なる間際、ガイは自ら首を伸ばして快く迎えた。
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