嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

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五章 嫌われ将軍、ママになる

俺たちの家

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   ◇ ◇ ◇

 二人が購入した町外れの家は、以前住んでいた木こりが建てたもの。
 そのせいか、かなりの年数が経っているはずなのに、立派な丸太で組まれた家は未だに頑強で朽ちた気配はなかった。

 家のすぐ近くは林が広がり、その奥はヨルリア山脈に至る森が続いている。
 近所の家は、草むらや畑を挟んだ向こう側。遠くに小さく見えるぐらいに離れていた。

 これなら子竜が生まれても人の目に付きにくい。ついでに愛馬たちも伸び伸びとくつろげる。そう考えて選んだ臨時の住処だった。



 町で購入した生活道具を、ガイたちは手分けして片付け、食料は保管部屋や箱にしまっていく。

 掃除はエリクが手際よく進め、ガイは夕食の下ごしらえをこなす。
 日が沈む頃に食事を共にした後、先にガイが近くの温泉を引いて作られた温水のシャワーを浴びて寝支度を整える。

 二階の屋根裏部屋に運んだベッドに腰掛け、ふぅ、とガイは息をつく。

 そして腕を組み、首を傾げた。

(なんだろうか……新しい場所に住むというのに違和感がないというか、体が勝手に気を緩めるというか)

 まだ初日だというのに、もうここに馴染み切っている気がしてならない。
 野営慣れしているせいで、屋根があるだけで快適だと感じるような人間。それでも見知らぬ場所ならば、少なからず気が張り、肩に力が入りもする。

 それなのに、今は全身がくつろいでいるのを感じる。
 幼少の頃に育ててもらった老夫婦の家でも、将軍となってから住んでいた屋敷でも、ここまで心身が脱力することはなかった。

 脱力するまま、ガイは後ろに倒れ込む。
 ぼふん、と布団の柔らかさに背を沈めながら深呼吸すれば、淡い心地よさに包まれる。

 宿で寝る前、下着姿でベッドに入れば眠気で力は抜けていく。
 しかしそれは体が疲れて休みたがるから。気が緩まるとは少し違う。

 こんなに指の先まで安堵感で満たされるのは、ガイにとって初めてだった。

 しばらくここで暮らす――エリクが家族の誓いを立ててくれたことを思い出した途端、ガイは顔の熱が上がっていくのを感じる。

 ついさっきまでの脱力が嘘のように、胸が高鳴っていく。
 騒々しいと感じるのに、これもまた心地よいと思う自分がいた。

(家族、か……仮初でも、ここが俺たちの家……)

 きっとエリクはここまで考えず、誓いを立てたのだろう。

 ただ住まうだけでなく、家族という繋がりをエリクが作ってしまったせいで自分の調子がおかしくなった。

 ……どう責任を取ってくれるんだ。
 二階に来た時よりも火照った吐息をガイが零していると、階段を上るエリクの足音が聞こえてきた。
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