55 / 100
五章 嫌われ将軍、ママになる
幼竜を迎える準備
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
ガイたちはヨルリア山脈を下り、ふもとにある学術の町フォイオに向かった。
森の入口に作られた町は、緑に溢れ、住人の多くが学びを求めて住み着いている。大小いくつもの学び舎があり、町の中心には大陸一と謳われる大図書館が建っていた。
手分けしてガイたちは竜の文献を探し、竜たちの生態を知る。
彼らは体の色で食べるものも、好む場所も、性格も変わるらしい。
赤ならば温かなものを好み、青ならば冷たいものを好む。
黒ならば陰を好み、白ならば光を好む――特に白は神気が強く、水と光のみで生きられるとあった。
だが母親は黒竜だから、きっと生まれてくる子も黒竜だろうと思い、そのつもりでガイたちは準備をすることにした。
「母親は洞窟にいたが、生まれてくる子の大きさは西瓜くらいだろうか? となれば、このパン入れカゴぐらいが丁度いいのか?」
「生まれたてはもう少し小さいかもしれませんので、あちらの果物カゴぐらいが良さそうですね」
「うむ……だが、すぐに大きくなるのではないか? ならば多少大きいほうが小を兼ねるのでは?」
「こちらは確実に買うとして、大きすぎると落ち着かないかもしれないので、念のために小さいほうも――」
雑貨屋でガイとエリクは、生まれてくる幼竜のことを考えながら、生活道具を選んでいく。
自分たちの物は雑に決められるが、母竜からの預かりものに関する物はそういう訳にはいかない。
真剣に悩み、話し合って決めていると、店主らしき老婆がニコニコと笑いながら二人に話しかけてきた。
「いらっしゃいお客さん。二人ともここに住み始めるのかい?」
「ああ。ちょうど町のはずれに空き家があったから、そこに住むことになった。御婦人、よろしく頼む」
ガイが挨拶すると、老婆は「よろしくねえ」と細い腕を伸ばし、二人に握手を求めてくる。
枯れ枝のような手をそっと握ってガイとエリクが握手に応えると、老婆は二人を見交わした。
「見たところ仲が良いようじゃが、一緒に住むのかえ?」
「そうです。ガイ様と別々だなんてあり得ませんから!」
エリクが即答すると、当たり前のようにガイの腰に手を回してくる。
……妙に張り切っているな。そんなに幼竜の誕生が楽しみなのか。
ガイは横目で活き活きとしたエリクの顔を見つめる。
そんな二人を微笑ましく見つめながら、老婆はゆっくりと頷いた。
「なるほどのう。初々しい新婚さんなのじゃな?」
「いや、我々は別にそういうものでは――」
「隠さんでもええ。空気で分かる……アタシからの祝いじゃ、安くしておくよ」
何度かガイが訂正したものの、老婆は認識を変えず、快く二人が購入したものをまけてくれた。
これでいいのかと釈然としないガイだったが、エリクの満面の笑みに口を閉ざすしかなかった。
勘違いでもエリクが自分と一緒にされるのが嫌ではないと見て取れて、ガイも密かに心の中で口端を引き上げた。
ガイたちはヨルリア山脈を下り、ふもとにある学術の町フォイオに向かった。
森の入口に作られた町は、緑に溢れ、住人の多くが学びを求めて住み着いている。大小いくつもの学び舎があり、町の中心には大陸一と謳われる大図書館が建っていた。
手分けしてガイたちは竜の文献を探し、竜たちの生態を知る。
彼らは体の色で食べるものも、好む場所も、性格も変わるらしい。
赤ならば温かなものを好み、青ならば冷たいものを好む。
黒ならば陰を好み、白ならば光を好む――特に白は神気が強く、水と光のみで生きられるとあった。
だが母親は黒竜だから、きっと生まれてくる子も黒竜だろうと思い、そのつもりでガイたちは準備をすることにした。
「母親は洞窟にいたが、生まれてくる子の大きさは西瓜くらいだろうか? となれば、このパン入れカゴぐらいが丁度いいのか?」
「生まれたてはもう少し小さいかもしれませんので、あちらの果物カゴぐらいが良さそうですね」
「うむ……だが、すぐに大きくなるのではないか? ならば多少大きいほうが小を兼ねるのでは?」
「こちらは確実に買うとして、大きすぎると落ち着かないかもしれないので、念のために小さいほうも――」
雑貨屋でガイとエリクは、生まれてくる幼竜のことを考えながら、生活道具を選んでいく。
自分たちの物は雑に決められるが、母竜からの預かりものに関する物はそういう訳にはいかない。
真剣に悩み、話し合って決めていると、店主らしき老婆がニコニコと笑いながら二人に話しかけてきた。
「いらっしゃいお客さん。二人ともここに住み始めるのかい?」
「ああ。ちょうど町のはずれに空き家があったから、そこに住むことになった。御婦人、よろしく頼む」
ガイが挨拶すると、老婆は「よろしくねえ」と細い腕を伸ばし、二人に握手を求めてくる。
枯れ枝のような手をそっと握ってガイとエリクが握手に応えると、老婆は二人を見交わした。
「見たところ仲が良いようじゃが、一緒に住むのかえ?」
「そうです。ガイ様と別々だなんてあり得ませんから!」
エリクが即答すると、当たり前のようにガイの腰に手を回してくる。
……妙に張り切っているな。そんなに幼竜の誕生が楽しみなのか。
ガイは横目で活き活きとしたエリクの顔を見つめる。
そんな二人を微笑ましく見つめながら、老婆はゆっくりと頷いた。
「なるほどのう。初々しい新婚さんなのじゃな?」
「いや、我々は別にそういうものでは――」
「隠さんでもええ。空気で分かる……アタシからの祝いじゃ、安くしておくよ」
何度かガイが訂正したものの、老婆は認識を変えず、快く二人が購入したものをまけてくれた。
これでいいのかと釈然としないガイだったが、エリクの満面の笑みに口を閉ざすしかなかった。
勘違いでもエリクが自分と一緒にされるのが嫌ではないと見て取れて、ガイも密かに心の中で口端を引き上げた。
203
お気に入りに追加
621
あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる