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五章 嫌われ将軍、ママになる
幼竜を迎える準備
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◇ ◇ ◇
ガイたちはヨルリア山脈を下り、ふもとにある学術の町フォイオに向かった。
森の入口に作られた町は、緑に溢れ、住人の多くが学びを求めて住み着いている。大小いくつもの学び舎があり、町の中心には大陸一と謳われる大図書館が建っていた。
手分けしてガイたちは竜の文献を探し、竜たちの生態を知る。
彼らは体の色で食べるものも、好む場所も、性格も変わるらしい。
赤ならば温かなものを好み、青ならば冷たいものを好む。
黒ならば陰を好み、白ならば光を好む――特に白は神気が強く、水と光のみで生きられるとあった。
だが母親は黒竜だから、きっと生まれてくる子も黒竜だろうと思い、そのつもりでガイたちは準備をすることにした。
「母親は洞窟にいたが、生まれてくる子の大きさは西瓜くらいだろうか? となれば、このパン入れカゴぐらいが丁度いいのか?」
「生まれたてはもう少し小さいかもしれませんので、あちらの果物カゴぐらいが良さそうですね」
「うむ……だが、すぐに大きくなるのではないか? ならば多少大きいほうが小を兼ねるのでは?」
「こちらは確実に買うとして、大きすぎると落ち着かないかもしれないので、念のために小さいほうも――」
雑貨屋でガイとエリクは、生まれてくる幼竜のことを考えながら、生活道具を選んでいく。
自分たちの物は雑に決められるが、母竜からの預かりものに関する物はそういう訳にはいかない。
真剣に悩み、話し合って決めていると、店主らしき老婆がニコニコと笑いながら二人に話しかけてきた。
「いらっしゃいお客さん。二人ともここに住み始めるのかい?」
「ああ。ちょうど町のはずれに空き家があったから、そこに住むことになった。御婦人、よろしく頼む」
ガイが挨拶すると、老婆は「よろしくねえ」と細い腕を伸ばし、二人に握手を求めてくる。
枯れ枝のような手をそっと握ってガイとエリクが握手に応えると、老婆は二人を見交わした。
「見たところ仲が良いようじゃが、一緒に住むのかえ?」
「そうです。ガイ様と別々だなんてあり得ませんから!」
エリクが即答すると、当たり前のようにガイの腰に手を回してくる。
……妙に張り切っているな。そんなに幼竜の誕生が楽しみなのか。
ガイは横目で活き活きとしたエリクの顔を見つめる。
そんな二人を微笑ましく見つめながら、老婆はゆっくりと頷いた。
「なるほどのう。初々しい新婚さんなのじゃな?」
「いや、我々は別にそういうものでは――」
「隠さんでもええ。空気で分かる……アタシからの祝いじゃ、安くしておくよ」
何度かガイが訂正したものの、老婆は認識を変えず、快く二人が購入したものをまけてくれた。
これでいいのかと釈然としないガイだったが、エリクの満面の笑みに口を閉ざすしかなかった。
勘違いでもエリクが自分と一緒にされるのが嫌ではないと見て取れて、ガイも密かに心の中で口端を引き上げた。
ガイたちはヨルリア山脈を下り、ふもとにある学術の町フォイオに向かった。
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手分けしてガイたちは竜の文献を探し、竜たちの生態を知る。
彼らは体の色で食べるものも、好む場所も、性格も変わるらしい。
赤ならば温かなものを好み、青ならば冷たいものを好む。
黒ならば陰を好み、白ならば光を好む――特に白は神気が強く、水と光のみで生きられるとあった。
だが母親は黒竜だから、きっと生まれてくる子も黒竜だろうと思い、そのつもりでガイたちは準備をすることにした。
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「生まれたてはもう少し小さいかもしれませんので、あちらの果物カゴぐらいが良さそうですね」
「うむ……だが、すぐに大きくなるのではないか? ならば多少大きいほうが小を兼ねるのでは?」
「こちらは確実に買うとして、大きすぎると落ち着かないかもしれないので、念のために小さいほうも――」
雑貨屋でガイとエリクは、生まれてくる幼竜のことを考えながら、生活道具を選んでいく。
自分たちの物は雑に決められるが、母竜からの預かりものに関する物はそういう訳にはいかない。
真剣に悩み、話し合って決めていると、店主らしき老婆がニコニコと笑いながら二人に話しかけてきた。
「いらっしゃいお客さん。二人ともここに住み始めるのかい?」
「ああ。ちょうど町のはずれに空き家があったから、そこに住むことになった。御婦人、よろしく頼む」
ガイが挨拶すると、老婆は「よろしくねえ」と細い腕を伸ばし、二人に握手を求めてくる。
枯れ枝のような手をそっと握ってガイとエリクが握手に応えると、老婆は二人を見交わした。
「見たところ仲が良いようじゃが、一緒に住むのかえ?」
「そうです。ガイ様と別々だなんてあり得ませんから!」
エリクが即答すると、当たり前のようにガイの腰に手を回してくる。
……妙に張り切っているな。そんなに幼竜の誕生が楽しみなのか。
ガイは横目で活き活きとしたエリクの顔を見つめる。
そんな二人を微笑ましく見つめながら、老婆はゆっくりと頷いた。
「なるほどのう。初々しい新婚さんなのじゃな?」
「いや、我々は別にそういうものでは――」
「隠さんでもええ。空気で分かる……アタシからの祝いじゃ、安くしておくよ」
何度かガイが訂正したものの、老婆は認識を変えず、快く二人が購入したものをまけてくれた。
これでいいのかと釈然としないガイだったが、エリクの満面の笑みに口を閉ざすしかなかった。
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