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四章 嫌われ将軍と嫌われ邪竜

邪竜の声

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 エリクが目を見開き、すぐに顔をしかめる。

「ガイ様、貴方という人は……いえ、本心からそう思っていらっしゃるなら、私はそれを受け入れるまでです。でも――」

 小さく首を振りながらガイに近づくと、エリクは首を伸ばし、ガイに口づけた。

「国に戻っても、私はガイ様に愛を捧げます。二度と貴方を独りにしないと誓いましょう。たとえ誰が邪魔してこようとも、私はガイ様を手放しません」

 わざわざ誓いを立てるとは、本当に優しい若者だ。
 フッとガイは笑みを浮かべ、エリクの肩に手を置いた。

「ありがとうエリク、その言葉だけでも十分だ。だが、嫌われている俺に君が近づいても、誰も邪魔はしないからその点は安心して欲しい」

「……邪魔どころか、抹殺されかねませんが……」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ。ただの独り言です。早く邪竜を倒しに行きましょう!」

 唐突に高揚したエリクが山道を歩き出す。
 エリクの奇行はいつまで経っても慣れないが、国に戻ってもこの奇行が見られるのは嬉しい。心からそう思いながら、ガイも足を動かし始めた。



 半刻ほど歩き、二人は傷ついた邪竜が眠る洞窟の上に到着した。
 洞窟の周辺はほぼ崖。ガイが持参していた頑強な縄を木に縛りつけると、エリクが先に縄を掴んで崖を降り始め、感触を確かめる。

 ガイが覗き込むと、エリクが手を振って大丈夫だと合図を送ってくれる。

 そうしてガイも縄を手にして崖を降り、洞窟の前にある平らな岩場に着地する。近くの岩に二人が身を潜めて洞窟を見れば、傷だらけの邪竜が静かに丸まっていた。

 深く眠っているのか、一匹目よりも気配がおとなしい。
 本物のほうが手負いでも強いだろうとガイは思っていたが、ここまで弱っているなら倒すのは容易いような気がした。

 ガイがエリクに目配せし、荷物から痺れの薬を出させようとする。その時、

《そちらにおられるのは、ガイ将軍ですか?》

 頭の中に澄んだ女性の声が聞こえてきて、ガイは辺りを見渡す。エリクにも聞こえたようで、同様の動きをし始める。

 こんな谷間の洞窟の周りに、女人はおろか自分たち以外の人間はいない。
 では誰の声なのだ? とガイが首を傾げていると、傷ついた邪竜が首を上げ、ガイたちの方を見てきた。

《いつかここへ来るだろうと思っていました……危害は加えませんので、どうか私の話を聞いて頂けませんか?》

 敵意がないことは、声からも、邪竜がまとう空気からも伝わってくる。

 騙し討ちするための演技の可能性も捨て切れず、ガイはエリクに「エリクはここで待機してくれ」と告げ、岩から姿を現した。
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