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四章 嫌われ将軍と嫌われ邪竜

それでも国に戻る理由

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「無事に王命を果たすことができたならば、戻るつもりでいるが……」

「現王陛下の冷遇が、それだけで改善するとは思えません。戻っても不遇が続くだけ……ガイ様にとっては、このまま国に縛られず自由を選ばれたほうが幸せなのでは?」

 エリクの話はその通りだろう、とガイは思う。
 レアランダ王国に戻っても冷遇は続くだろうし、また新たな王命を下されて国を離れることになるかもしれない。

 現王だけではない。誰もがどこかよそよそしく、常に壁を感じて居心地は悪かった。

 前はエリクですら壁があった。こうして二人で旅をしなければ、彼の中に好意があるだなんて分かりもしなかった。

 国に戻るということは、その居心地の悪い中に自ら戻るということ。

 よく分かっている。しかし、ガイの答えは決まっていた。

「それでも俺は戻る」

「なぜ、ですか?」

「エリクは、名誉を得るために俺についてきたのだろ? 国に戻らねば褒美も名誉も何も貰えないぞ」

「それは、ガイ様について行きたい一心の言い訳で……本当はそんなものはいりません。ガイ様の隣に居させて頂けるなら、私はそれだけで十分です。私のために戻られるというのなら、どうかお止め下さい」

 ……随分とエリクは欲がないのだな。これだけ若く腕もあるなら、もっと野心的であっていいものだが。

 エリクの言葉に新鮮さを覚えながら、ガイはわずかに微笑む。

「君の考えは分かった。だがエリクのことがなくても、俺は国に戻る……遥か昔、イヴァン陛下に誓いを立てたからな」

「現王陛下に、誓い?」

「まだ俺が見習い兵士だった頃の話だ。初めて顔を合わせたあの日、陛下の剣となり盾となることを誓った。あの方は賢く、国のことを心から思っていらっしゃる……陛下は俺を疎んじられているかもしれないが、俺は命ある限り陛下をお支えしたい」

 もう遠い日のこと。覚えていないかもしれない。
 それでもガイの脳裏には、今も誓った日のことが鮮明に焼き付いている。

 先王に顔を覚えてもらい、城の中庭に呼ばれるようになった頃。
 庭で草花を眺めていた幼子がガイに気づき、話しかけてきた。

『初めまして、ガイ。話は父上からよく聞かされている。未来の将軍に会えて嬉しく思う』

 当時の現王は、まだ七歳だった。
 見た目こそ幼く頼りなさげな王子だったが、その瞳には聡明さが溢れていた。

『ガイ、私は父王が築く国を受け継ぎ、守り抜きたいと思っている。そのときにはガイの力が必要となる……どうか我が剣となり、盾となって欲しい』

 その頃はまだ王位継承者が何人もおり、後継者争いが起きていたことをガイは知っていた。

 まだ幼い身で、これからどれだけの者に振り回されることになるだろうか。
 だからせめて自分は変わらずいようと思った。

『イヴァン殿下、必ずや期待に応えましょう』

 跪いてガイが誓いを立てると、小さな王子はようやく同じ年頃の子のような笑顔を見せてくれた。

 ガイが唯一、現王に向けてもらえた心からの笑顔。

 あの日の笑顔を裏切りたくない。
 ガイにとって、どんな仕打ちを受けても国に戻るには十分な理由だった。

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