嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした

天岸 あおい

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四章 嫌われ将軍と嫌われ邪竜

共に寝てくれない理由

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   ◇ ◇ ◇

 一匹目の邪竜を倒した後、二人は森と岩肌の境目にある町まで下りる。

 宿に着く頃には山脈の向こうに日は沈み、夜の帳が下りようとしていた。

 この時間に空いている宿を探すのは難しい。
 二人以上の部屋はまず空いていない。狭い部屋に一つのベッドが置いてある一人部屋があるだけ御の字だ。

 例に漏れず、二人の今日の宿は一人部屋だった。



「エリク、こっちに来ないのか?」

 先にベッドに上がっていたガイは、小首を傾げながらエリクに尋ねる。

 部屋の角で背を向ながら直立不動のエリクは、あるはずのない部屋の柱と化していた。

「まさか……君はそのまま寝るつもりなのか?」

 そんなことはあるはずないと思いつつガイが口にすると、

「はいっ! どうか気にせずガイ様はお休み下さい」

 まさかの肯定が返ってきて、ガイは息をつく。

「今日は戦いの後で疲れただろう。しっかり休まないと、二体目の邪竜討伐に響くだろ」

「……いえ、大丈夫です。若いので」

「若さを過信するんじゃない」

 初めて唇を合わせてから、一つのベッドで寝るとなるとエリクは決まってこうなるようになった。

 前はまだ緊張しながらも一緒に寝てくれたが、最近はどれだけ誘っても寝ようとしてくれない。

 嫌われている訳でも、怒っている訳でもないらしい。

 しかしこうも前よりも距離を取られるとなると、好意的に見てくれているというのは、自分の気のせいだったのでは? と思いそうになる。

 理由を聞けば教えてくれるだろうが、エリクの言葉はよく分からない。特に奇行が入ると、理解が及ばなくなって困ってしまう。

 他の時なら、エリクがそれでいいならと折れるが、今日はそうはいかない。

 ガイは身を乗り出し、エリクの手を取る。

「ここで君に倒れられたくないんだ……頼む」

 上を向いてガイが訴えてみせると、エリクから息を詰める気配がした。

 耳が赤い。エリクがこうなる時は嫌がっていない、というのは分かる。

 スー、ハー、と何度か深呼吸してから、エリクが口を開く。

「……すみません。ガイ様と一緒に寝ると、自分を抑えられなくて……」

「抑える必要はないんだか……君を教えて欲しい、と言っただろ?」

「それはそうですが……でもガイ様が何も分かっていらっしゃらないから――」

「ああ、分からない。だから教えて欲しいんだ」

 握っているエリクの手から、汗が滲み出る気配がする。

 これだけ促しても言ってくれないなら、無理強いするべきではないか――と、ガイは目を伏せる。

「……駄目なら、いい。俺は外に行くから、ベッドは君が使えばいい」

「いけません! 行くなら私が……いえ――」

 エリクがガイの手を握り返してくる。

 そして、振り向きざまに顔を近づけてきた。

「そこまで言われるなら、ほんの少しだけ教えて差し上げます。どうなっても責任は負えませんから」


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