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四章 嫌われ将軍と嫌われ邪竜
手応えがない?
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痺れ薬が効いているのか、腕や尻尾を振り回して反撃してくる邪竜の動きは鈍い。
ガイは攻撃の動作に気づき、跳び退いて避け、すぐに再び斬りつけて――を繰り返しながら違和感を覚える。
(もっと強度があると思ったが、手応えがないな……これは本当に邪竜なのか?)
チラリとエリクを見やれば、彼もまた剣を振るい、邪竜の横腹や胸に傷を負わせている。ガイよりも力は弱いようだが、その分身軽で動きがいい。
これなら様子見ではなく、このままとどめを刺せそうだ。
そう踏んだガイは、一度大きく邪竜から距離を取り、腰を落として脚に力を溜める。
両手で剣を強く握りしめ、腕に気合をまとわせる。
そして邪竜がエリクに左脇を斬り上げられ、腕を大きく開いた刹那、
「うおおおおおおっ!」
ガイは剣を振りかざしながら駆け出し、強撃を振り下ろした。
刃が深く邪竜に食い込む。
そのまま骨を砕く勢いで剣を押し――ズゥゥン、と邪竜の巨体が横倒れになる。
こうなれば後はこちらのもの。
ガイとエリクは手足をジタバタさせる邪竜を、何度となく斬りつけ、攻撃を重ねていく。
次第に邪竜の動きは弱まり、急激に力を失っていく。
完全に動かなくなったその時。
邪竜の体から煙が吹き出した。
「う……っ、なんだこれは?!」
腕で鼻や口を押さえながら、二人は大きく跳び下がる。
煙で視界は完全に奪われてしまうが、邪竜が動く気配はない。少し煙を吸い込んでしまったが、毒や麻痺の症状は感じられず、ガイは警戒しつつも慌てずに様子を窺う。
次第に煙は晴れ、目の前の状況が明らかになる。
そこに倒した邪竜の姿はなかった。
二人の前に姿を現わしたのは、子鬼にコウモリの翼を生やしたような魔物――ガーゴイルの躯だった。
「これは……魔物が邪竜に化けていた、ということでしょうか?」
各々に近づき、覗き込みながらエリクが問いかけてくる。
ガイは低く唸りながら思案した後、小さく頷いた。
「状況を見る限り、おそらくそうなのだろう」
「なぜ魔物がこんな真似を?」
「分からんが……目的がなければ、邪竜に化けるなんてことはしない。何か裏がありそうだな」
偽物がいたということは、これまでヨルリア山脈周辺を荒らして近隣諸国に被害を与えていたのは、邪竜ではない可能性が出てきたということ。
果たしてもう一匹の負傷した邪竜――状況を考えれば、こちらが本物の可能性が高い――を、このまま倒してもいいのだろうかとガイは考えてしまう。
悪さを働かず、大人しく過ごしてくれるなら倒す必要はない。
きっと本物は倒した偽物よりも手強いだろう。衝突して死闘を繰り広げるとなれば、自分もエリクも無事では済まないかもしれないとガイは思う。
自分が傷つき、腕や脚が一本失うぐらいはどうとも思わない。
だが若いエリクが、取り返しのつかないことになるのは避けたかった。
ガイは攻撃の動作に気づき、跳び退いて避け、すぐに再び斬りつけて――を繰り返しながら違和感を覚える。
(もっと強度があると思ったが、手応えがないな……これは本当に邪竜なのか?)
チラリとエリクを見やれば、彼もまた剣を振るい、邪竜の横腹や胸に傷を負わせている。ガイよりも力は弱いようだが、その分身軽で動きがいい。
これなら様子見ではなく、このままとどめを刺せそうだ。
そう踏んだガイは、一度大きく邪竜から距離を取り、腰を落として脚に力を溜める。
両手で剣を強く握りしめ、腕に気合をまとわせる。
そして邪竜がエリクに左脇を斬り上げられ、腕を大きく開いた刹那、
「うおおおおおおっ!」
ガイは剣を振りかざしながら駆け出し、強撃を振り下ろした。
刃が深く邪竜に食い込む。
そのまま骨を砕く勢いで剣を押し――ズゥゥン、と邪竜の巨体が横倒れになる。
こうなれば後はこちらのもの。
ガイとエリクは手足をジタバタさせる邪竜を、何度となく斬りつけ、攻撃を重ねていく。
次第に邪竜の動きは弱まり、急激に力を失っていく。
完全に動かなくなったその時。
邪竜の体から煙が吹き出した。
「う……っ、なんだこれは?!」
腕で鼻や口を押さえながら、二人は大きく跳び下がる。
煙で視界は完全に奪われてしまうが、邪竜が動く気配はない。少し煙を吸い込んでしまったが、毒や麻痺の症状は感じられず、ガイは警戒しつつも慌てずに様子を窺う。
次第に煙は晴れ、目の前の状況が明らかになる。
そこに倒した邪竜の姿はなかった。
二人の前に姿を現わしたのは、子鬼にコウモリの翼を生やしたような魔物――ガーゴイルの躯だった。
「これは……魔物が邪竜に化けていた、ということでしょうか?」
各々に近づき、覗き込みながらエリクが問いかけてくる。
ガイは低く唸りながら思案した後、小さく頷いた。
「状況を見る限り、おそらくそうなのだろう」
「なぜ魔物がこんな真似を?」
「分からんが……目的がなければ、邪竜に化けるなんてことはしない。何か裏がありそうだな」
偽物がいたということは、これまでヨルリア山脈周辺を荒らして近隣諸国に被害を与えていたのは、邪竜ではない可能性が出てきたということ。
果たしてもう一匹の負傷した邪竜――状況を考えれば、こちらが本物の可能性が高い――を、このまま倒してもいいのだろうかとガイは考えてしまう。
悪さを働かず、大人しく過ごしてくれるなら倒す必要はない。
きっと本物は倒した偽物よりも手強いだろう。衝突して死闘を繰り広げるとなれば、自分もエリクも無事では済まないかもしれないとガイは思う。
自分が傷つき、腕や脚が一本失うぐらいはどうとも思わない。
だが若いエリクが、取り返しのつかないことになるのは避けたかった。
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