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三章 嫌われ将軍、嫌われすぎて童貞処女な現実
何もせず、誰も近づかずで当然の結果
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「噂は噂だ。レアランダではまったく聞かったし、別段気にしていない」
本当は誰も彼もがとんでもない誤解をしていると知って、さすがにガイも滅入っていた。しかし、それが彼女たちを助けた代償ならば受け入れられる。
そういうものだと受け入れられると、引きずらず前を向くことができる。
この件のことで完全に憂いが消えたガイの隣から、エリクの呟きがブツブツと聞こえてくる。
「親衛隊が噂を遮断していた? しかし、ここまで広範囲の噂、国に入ってきてもおかしくない……先王陛下が何かなされていた? いや、それだと崩御された頃から話が……まさか現王陛下まで――」
「あの、お連れの方はどうされましたか?」
エリクの独り言垂れ流しに、女将が首を傾げる。
またいつものやつかとガイはため息をついた。
「失礼した。たまにこうなってしまうんだ。いつものことだから気にしないでくれ……エリク」
ガイに名を呼ばれ、エリクがハッとなって独り言を止める。
「申し訳ありません。ガイ様のことが絡んでしまうと、我を忘れやすくて……」
「噂の件はもう気にしていないから、君も気にするのはやめてくれ」
「……はい、ガイ様がそう仰られるなら……」
まだ割り切れていないのか、エリクから不満げな気配が残る。
自分のことのように受け取っているエリクを見ていると、傷ついていた心が癒される気がする。
フッとガイに笑みが浮かんだ。
「用は済んだから、そろそろ宿に戻ろう」
「は、はい!」
二人が足先を出入り口に向けようとした時、女将が呼び止めた。
「あの、ガイ様。本当にこのままお帰りになられらのですか? ガイ様のお望みならば、どの子も喜んで尽くさせて頂きますが……」
「気持ちだけ受け取る。正直、俺が触れると壊れてしまいそうで、この手のことはしたいと思わないんだ」
なぜか女将が目を丸くする。
エリクや他の女性たちが固まる。
何かおかしなことを言っただろうかとガイが首を傾げていると、女将が硬くなった声で尋ねてきた。
「あの……失礼なことをお聞きしますが、ガイ将軍は蜜事の経験は……」
「一切ないな」
「男女問わずに、ですか?」
「俺は何もしなかったし、誰も俺に近づかなかった。当然の結果だ」
ほぼ同時に、女将とエリクがうつむき、額を押さえて小首を振り出す。
呆れたというより、なんてことだと嘆きの気配が漂っていた。
そして突然女将は受付台の奥の部屋に駆け込み、手の平大の平らな容器を持ち出し、エリクに渡した。
「部屋に店の者が入る前のお二人の会話、聞こえていましたわ。脈はあると思いますから、どうか必要になりましたらお使い下さい」
「……っ、あ、ありがたく……っ!」
「心からご健闘を祈っておりますわ!」
「……はいっ!」
なぜエリクと女将が熱く握手を交わしているのだろうか?
もしかしてエリクの奇行は伝染するのだろうかとと、ガイは一瞬だけ本気で思ってしまった。
本当は誰も彼もがとんでもない誤解をしていると知って、さすがにガイも滅入っていた。しかし、それが彼女たちを助けた代償ならば受け入れられる。
そういうものだと受け入れられると、引きずらず前を向くことができる。
この件のことで完全に憂いが消えたガイの隣から、エリクの呟きがブツブツと聞こえてくる。
「親衛隊が噂を遮断していた? しかし、ここまで広範囲の噂、国に入ってきてもおかしくない……先王陛下が何かなされていた? いや、それだと崩御された頃から話が……まさか現王陛下まで――」
「あの、お連れの方はどうされましたか?」
エリクの独り言垂れ流しに、女将が首を傾げる。
またいつものやつかとガイはため息をついた。
「失礼した。たまにこうなってしまうんだ。いつものことだから気にしないでくれ……エリク」
ガイに名を呼ばれ、エリクがハッとなって独り言を止める。
「申し訳ありません。ガイ様のことが絡んでしまうと、我を忘れやすくて……」
「噂の件はもう気にしていないから、君も気にするのはやめてくれ」
「……はい、ガイ様がそう仰られるなら……」
まだ割り切れていないのか、エリクから不満げな気配が残る。
自分のことのように受け取っているエリクを見ていると、傷ついていた心が癒される気がする。
フッとガイに笑みが浮かんだ。
「用は済んだから、そろそろ宿に戻ろう」
「は、はい!」
二人が足先を出入り口に向けようとした時、女将が呼び止めた。
「あの、ガイ様。本当にこのままお帰りになられらのですか? ガイ様のお望みならば、どの子も喜んで尽くさせて頂きますが……」
「気持ちだけ受け取る。正直、俺が触れると壊れてしまいそうで、この手のことはしたいと思わないんだ」
なぜか女将が目を丸くする。
エリクや他の女性たちが固まる。
何かおかしなことを言っただろうかとガイが首を傾げていると、女将が硬くなった声で尋ねてきた。
「あの……失礼なことをお聞きしますが、ガイ将軍は蜜事の経験は……」
「一切ないな」
「男女問わずに、ですか?」
「俺は何もしなかったし、誰も俺に近づかなかった。当然の結果だ」
ほぼ同時に、女将とエリクがうつむき、額を押さえて小首を振り出す。
呆れたというより、なんてことだと嘆きの気配が漂っていた。
そして突然女将は受付台の奥の部屋に駆け込み、手の平大の平らな容器を持ち出し、エリクに渡した。
「部屋に店の者が入る前のお二人の会話、聞こえていましたわ。脈はあると思いますから、どうか必要になりましたらお使い下さい」
「……っ、あ、ありがたく……っ!」
「心からご健闘を祈っておりますわ!」
「……はいっ!」
なぜエリクと女将が熱く握手を交わしているのだろうか?
もしかしてエリクの奇行は伝染するのだろうかとと、ガイは一瞬だけ本気で思ってしまった。
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