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三章 嫌われ将軍、嫌われすぎて童貞処女な現実
不名誉な噂の原因
しおりを挟む話を終えて下の階へ降りると、女将が階段前で背筋を正して待ち構えていた。
「ガイ将軍、あの子の話はお役に立ちましたでしょうか?」
「ああ。貴重な話が聞けて助かった。おかげで勝機が見えた」
ガイの返答に女将が「それは良かったです」と柔らかく微笑む。
そして深々と頭を垂れた。
「きっと覚えていらっしゃらないと思いますが、私は以前、ガイ将軍に心を救われました……同じような女性は大勢います。皆に代わって心からのお礼を。本当にありがとうございます」
女将だけでなく、室内にいる店の女性たちも立ち上がり、頭を下げる。
ここへ入店したばかりと違う態度に、ガイは軽く瞠目する。
「感謝は嬉しく思うが……理由を教えてくれないか?」
「あれはもう二十年前になりかと思います。近くで戦が起きると、夜に兵たちを労うための慰安婦がよく派遣されておりました。割の良い仕事と望んでいく者だけでなく、無理やり連れて行かれた者もおり……私は後者でした――」
女将の話を聞きながら、ガイはそういえばと思い出す。
軍の統制を取るために、兵たちへの慰労は欠かせない。
そのために定期的に宴を開き、酒を振る舞う。そこに自分たちを売り込むために、娼館から慰安婦が寄越されていた。
将軍になりたての頃、宴の場に自分がいると皆が緊張して楽しめないようだと思い、いち早く天蓋に戻ると、簡易のベッドに女性がいた。
誰かが気を利かせて送り込んだらしかった。
しかし、まったく興味がなく彼女に出て行ってもらおうとしたが、何もなければ娼館の主に叱られてしまうと泣きつかれてしまった――。
「――ガイ将軍が怯えていた私を匿ってくれて、何もせずに一晩置いてくれて……帰る時には『もし次に来る時があれば、君と同じように望んでいない者をすべて俺の所に避難させてくれ』と言って下さり、それから戦が終わるまで匿って下さいました」
あの時の女性だったかと、ガイは記憶と目前の彼女を一致させる。
怯える彼女たちを自分の天蓋で一夜を過ごさせ、自分は副官や部隊長の天蓋に行って夜を越した――その戦以降は、慰安婦は送らなくていいからと、先に娼館に商売をさせないための謝罪金を送り、自分の隊では慰安婦を入れなくなった。
他の将軍たちからは規律が乱れると忠告されたが、自分の軍内では末端の兵まで誰も不満を言わなかった。
それが自分の隊の当たり前になり、時間が過ぎ、記憶の底に沈んでしまった。
あれから随分と月日が経ったものだと、ガイは内心しんみりとする。
話を静かに聞いていたエリクが、突然「あっ」と声を漏らした。
「もしや……ガイ様のあの不名誉な噂は、この件が原因?」
「はい。一度に何人もの女性が逃げ込んでおりましたので、事情を知らぬ者たちが噂を広げてしまったようですわ」
彼女が悪い訳ではないが、女将が困ったように眉を寄せて苦笑する。
「助けて頂いたのに、ガイ将軍の不名誉な誤解を拭うことができなくて、ずっと心苦しかった……でもこうして再びお会いできて本当に嬉しいです」
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