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三章 嫌われ将軍、嫌われすぎて童貞処女な現実

二匹の邪竜

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 慌ててエリクがガイから手を離し、先ほどまでのことがなかったように座り直してしまう。

 あれは何だったんだ? と考えたくなる気持ちを抑えつつ、ガイは平静を装いながら女性に顔を向けた。

「君が邪竜に村を襲われてここに来たという?」

「は、はい……」

 ガイが尋ねると、彼女は小さく頷き、部屋の中へ入ってくる。

 二人の前に縮こまって座る女性はほっそりとしており、緊張しているのか血の気が引いて白い顔をしていた。

 あまり長く時間をかけるのは彼女の負担になりそうだとガイは感じ、早々に本題を切り出した。

「実は君のことを酒場の店主から聞いたんだ。邪竜に村を襲われ、大変だったと思う。思い出すのは辛いかもしれないが、話してもらって構わないだろうか?」

「分かり、ました。ガイ将軍のお力になれるのでしたら、喜んで……」

 女性の体が小さく震え出す。まだ記憶に新しいのか、思い出すだけで恐怖がよみがえっているようだった。

 一度深呼吸し、自分を抱き締めて震えを堪えながら女性は話し始める。

「半年ほど前のことでした。ある日突然、家よりも大きく真っ黒なものが村に飛んで来て、暴れ出して……大きな翼、トカゲのような顔に全身の鱗……私の村には邪竜の伝承があったのですが、そのいわれの通りの姿でした」

「なんの前触れもなく、か。それは本当に恐ろしかったと思う。君が無事に逃げられて良かった」

 ガイの労いに女性が少しだけ表情を緩め、安堵を覗かせた。

「ありがとうございます……邪竜はお腹を空かせていたみたいで、畑の野菜や家畜たちを狙って食べていました。しかもその後、もう一匹……」

「もう一匹……っ!?」

 思わずガイは目を見開き、エリクと見合わす。

 その力は神をも凌ぐと言われている邪竜。
 一匹でも厳しい戦いになるのことは確かなのに、二匹もいるとなれば攻めどころが一切見えてこない。

 これはもしや近隣の国で有志を集め、討伐隊を組まなければいけないかとガイは考え始める。その時、

「後から来た邪竜はケガをしていて、血を流していました。目も片方が潰れていて……先に来た竜がケガをさせたみたいで、二匹の邪竜はすぐに争い出して、何刻も暴れて続けて……辺りに血が飛び散って、そのせいで土は腐ってしまい……邪竜たちは争いながら飛び去りましたが、村は人が住める場所ではなくなりました」


 同士討ちの話にガイは、心から朗報だと思う。
 邪竜たちが敵対しているなら、一匹ずつ対処できる。しかも片方は手負い。半年前の話だとしても、片目は見えなくなっているだろう。ならば隙を突きやすい。

 彼女の話を聞けて良かった。
 勝機が見え、ガイは目前の女性を見据える。

「話してくれて感謝する。これから討伐しても君の村は戻って来ないが、君たちの無念は必ず晴らしてみせる」

「……っ、ありがとうございます、ガイ様……っ」

 よほど溜めていたものがあったのか、女性の目から涙が溢れ出した。
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